30話 仕様
クラン情熱の面々と別れた僕達は、ダンジョンをさらに進む。
彼らと一緒に撤退しても良かったのだが、まだ食料類に余裕がる事と、ガーゴイルぐらいならゲージを維持しつつ進めると判断したからだ。
「あった!」
森を抜けた所でエリアボスの間を発見する。
中を覗いてみると、巨大な亀が魔法陣の上に陣取っていた。
その姿は灰色にくすんでおり、全身が岩で出来ているかの様にごつごつしている。恐らくゴーレムやガーゴイルと同じで、石で出来ているのだろう。
「しっかし大きいな」
体高は6層のゴーレムと同じ位だ。
だが今回のボスはそれに加え横幅も広い。
正確に測ってはいないが、体積は3倍以上ありそうだ。
「取り敢えずビームを撃ってみるよ」
「うん」
今までは問答無用で一発で仕留めてきた。
ただ今回の敵はかなり大きい。
サイズ的に何となく残りそうな気がする。
「喰らえ!」
ビームを放つ。
だが予想通り、相手が大きすぎてビームの範囲に収まりきらない。
とは言え、甲羅のど真ん中はぶち抜いている。
普通ならこれで死んでくれるはずだが――
「GYAAAAAAA!」
巨亀は雄叫びを上げてその場で暴れだす。
危惧し通り、やはり一発では沈んでくれなかった。
「――っ!?何か来る!?」
「うん!」
突然亀の甲羅が弾け、岩盤の様な甲羅の欠片が此方へと飛んできた。
破片は地面を抉り、壁を吹き飛ばす。
とんでもない威力だ。
だがそれをリンは正面から僕で受け止める。
これが普通の盾だったなら、間違いなく粉々に粉砕されていただろう。
だけど僕は特別製なので全く問題ない。
「なにあれ!?」
亀の姿が変わる。
甲羅部分が無くなり――飛ばしたのだから当然だ――代わりに背中から巨大な赤い宝玉の様な物が飛び出して来た。
ひょっとしたらあれが心臓部なのかもしれない。
最初の一撃は、あれに当たらなかったから仕留め損ねたのだろう。
「きゃあ!?」
宝玉が輝き、そこから何かが放たれる。
それは僕に当たって消滅した…………多分。
実は早すぎて良く見えなかった。
でもたぶんそれで間違いないだろう。
「リン、今の見えた?」
「ううん、一瞬光ったようにしか」
その言葉を聞き、僕は背筋が寒くなる。
敵の攻撃が僕を射抜いたから良かった物の、もしリンの体に当たっていたらと思うと血の気が引いた。
「喰らえ!」
僕は迷わずビームを放つ。
一撃目を防げたのは只のラッキーだ。
次も幸運が続くとは限らない以上、二発目を撃たせるわけには行かない。
もしこれで倒せない様なら、もう一発続けてぶちかます。
ビームが亀の背にある宝玉を消し飛ばした。
暴れていた亀はぴたりと動きを止め、そのまま音もなく崩れ落ちていく。
「やったね!」
「うん、だけど今回は此処までにしよう」
今回は運よく防げたが、基本的にリンの反応速度を超えた攻撃は防げない。
この先からは、きっとそんな攻撃を仕掛けてくる魔物も増えて来るだろう。
それに対応するには、リンのレベルを上げる必要があった。
「でもサイガ。なんか扉が……」
「え?」
見ると、亀の消えたあたりに赤い扉が姿を現している。
たしかダンジョンルートを完全攻略すると、最後には扉が出て来るってティティス様は言っていた。
「って事は……クリア?」
確かにこのエリアはそれまでと毛色が違っていた。
エリアボスも、一発とはいえ僕のビームに耐えた程だ。
「……おおおおおおお!やった!やったよ!リン!」
「やったね!サイガ!」
リンが感激して僕をぎゅっと抱きしめる。
僕も興奮してリンのほっぺをパフパフ叩いた。
まさか一発クリアするとは。
しかしそう考えると、クラン情熱の人達は難易度イージーとはいえ、リーチを掛けてたって事になる。
まあ、あの亀に勝てたかは少々怪しい気もするが。
兎に角――
「行こう!」
「うん!」
扉を抜けるとそこは神殿の一室の様な場所だった。
四角い部屋の中央にはティティス様を模った石像が立ち、その手には白い宝玉が握られている。
「その宝玉が報酬だね」
「取っていいのかな?」
「大丈夫だと思う。けど万一があるから、リンは離れていて」
流石にここまで来て、トラップって事は無いだろうと思う。
だが念には念を入れてだ。
僕はリンの手の中から飛び降りて自分の足で石像の元へ行き、その体を這い上って手にある宝玉を取ってみた。
「うん、大丈――」
急に宝玉が輝きだす。
焦って手放そうとするが、それよりも早く宝玉は僕の中に吸い込まれて消えてしまった。
「……」
「さ……サイガ大丈夫?」
「う、うん……大丈夫」
僕の頭上でファンファーレが鳴り響く。
レベルアップの時よりも豪華な感じの奴が。
ダンジョンテレポート。
宝玉を取り込んだ事により、僕は新たな力を手に入れた様だ。
「僕の中に入ったみたい」
どうやら僕の体は、手に入れた宝玉が中に納まる仕様だったらしい。
うん、まあ別にいいんだよ。
スキルとして手に入ったわけだしさ。
でもビックリするから事前に教えておいて欲しかった。
まあ何あれ攻略完了だ!
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