第10話 身も蓋もない言い方をすると突き抜けた?

 ――2年後。


「よう、ティズ。一人か?」

 俺がギルドを訪れると、ティズはいつものようにコーヒーを飲んでいた。こいつが一日に消費するコーヒーの量を計算してみたいところだ。

「やあ、トーゴ……くん。こんにちは」

「ん?お前、喋り方おかしくないか?」

「い、いや、正常だと思います。はい。トーゴくんは、年上、ですから……」

 ……ああ、あるある。何というんだろう。親戚のおじさんに急に丁寧な喋り方をしてみたり、幼馴染のクラスメイトを下の名前で呼ばなくなったり、そんな年頃なのだろう。

 でも急に変えるのも恥ずかしいから、どの辺が落としどころなのかを見計らって、ちょっとずつ変えていくんだよな。本人は気づかれていないつもりだろうが、周囲からはバレバレだっての。


「あ、今コーヒー淹れるから、座っててください」

「お、おう」

 恥ずかしそうに恐る恐る喋るティズを見て、なぜか俺も緊張する。

 すっかり背が伸びたティズは、カッターシャツにキュロットという以前とそんなに変化のない格好。

 出会った頃はいつでもショートパンツの印象があったが、去年くらいからキュロットを愛用することが増えてきて、最近ではスカートも穿くようになってきた。そんなところまで微細に変化させんでもいいのに。

 ティズが運んできたコーヒーを、俺は一口飲む。

「そ、それで、今日はギルドの仕事ですか?それとも、ボク――わ、わたし……に、ごごご御用ですか?」

「ぶほっ!――っか、はっ」

 そしてむせる。いや吹くだろ一人称ボク→わたしは反則だ。


 カランカラン――


 子気味のいい鈴の音が聞こえて、ギルドのドアが開く。ちなみにこの鈴は半年前に取り付けたものだ。ついにメトレアがドアを壊したため、ドアごと買い替えた次第である。

「……」

 無言のまま一礼して入って来たのは、アルタだった。この2年でより大人っぽくなって……アセラさんに似てきたような気がする。

「よう、アルタ。景気はどうだ?」

 俺が聞くと、アルタは空中にペンで字を書く。

『ぼちぼちでんな』

 なんと、日本語だ。アルタが俺の祖国の言葉を知りたいと言ってきたことがあったので、ふざけて似非関西弁を教えたら、思いのほか早く学習してしまった。

 ちなみに、ちゃんと日本の標準語も教えようとしたんだぞ。ただ、自動翻訳との相性が悪くて勝手に現地語にされるから、教えられなかったけどな。

 つづいて、アルタがその文字を指ではじく。すると文字は砕け散り、代わりに音が鳴る。


『ぼちぼちでんな』


 読み上げソフトのような合成音で、しかし異世界の人にも通じるように発声された。これが今のアルタの声であり、意思疎通の方法だ。書き込みと読み上げに別々な魔法を使っているのが凄い。

 ただでさえ難しい魔法。まして読み上げに関しては自分で開発した魔法を、同時に二つも使用する。アルタはこの国でもトップクラスの魔法使いかもしれない。

 だからこそ、アルヴィンを倒した後、このギルドの一員として活躍しているわけだ。もっとも、俺なんかが入れたギルドなんだから、アルタには役不足だろうな。

 ああ、気づいていると思うが、アルタとも2年の付き合いになる。お互いに敬語も敬称も使わないようになったな。いつの間にか。

『トーゴ。今日は仕事やねんな?』

「いや、今日はどうしよう?正直、やることがないから来ただけなんだ。金にも困ってないしな」

『羽振りのええことどすなぁ?……で、あってるかな?』

「ああ、合ってる合ってる。うまいぞ」

 アルタはたまに、こうして関西弁が合っているかを聞いてくる。俺は本場の関西弁など知らないので、適当に合っていることにする。笑いをこらえるのが大変だ。


 あれから、いろいろあった。違法薬物で強化人間を作ろうとしていたアルヴィンを倒して、実験体として使われていたアセラさんの墓前に報告して、アルタが仲間に加わって……

 このギルドの正式なマスターが現れて、ティズを追い出そうとしたこともあったな。もう用済みだと言ってさ。

 もちろん、俺たちはティズに味方した。結果、今のティズは正式なギルドマスターだ。

 そういえば、ティズがキュロットを履くようになったのはその頃からだ。意味があるのかは知らないが。

 世界を牛耳ろうとする魔王と和解したり、その魔王討伐をもくろむ王国軍を説得したり、魔王から世界の支配権を奪おうとする国王陛下を倒したり……

 世界のねじれからやって来た謎の少女を助けたり、俺の運命を管理していると言い張る金髪の少女(以前、俺のベルトを取り外したアイツ)の正体を突き止めたり……

 そうそう。ベルトの持ち主に言われた『使命』ってのは、その金髪の少女を助けることだったらしい。知らないオッサンに『このベルトで彼女を救ってくれ』って言われて受け取った異世界行きのベルト。今では俺の好きに使っていいと言われている。

 そのベルトをくれたオッサンが、金髪の少女の父親だったってことも驚きだな。まあ、俺がベルトの適合者としての遺伝子を持っていた方が驚きだけど。



 なんにしても、俺は決意を固くする。

「もうすぐ、この世界の崩落が始まる。あと数日か。それまでに何とか、魔界の将軍を倒さないとな。アルタ」

『せやね。でも、トーゴと一緒にいられるなら、ウチはどの世界にでもいくどすえ』

「あのさ、二人とも……今まで広げた風呂敷をたたむだけでも大変なんだから、追加で大風呂敷を並べるのはやめてくれないかな?……です」

 ティズが何かを言わされているが、知ったことではない。


 ガッシャ―ララララン!ガラガラガラガラガララン……


「おっはよぉー!」

 思いっきりドアをあけ放ったのは、お馴染みのメトレアであった。そろそろ力加減を覚えてほしい。

「メトレア。静かに入って来いって言ってるだろ。鈴なんか付けたから余計にうるさいじゃねーか」

「な、なによ。あたしに文句があるの?一体いつからトーゴはそんなに偉くなったのよ?あたしが壊したドアを修理したのがそんなに偉いの?」

「偉いだろ。少なくとも壊したお前よりは。つーか反省しろ馬鹿」

「反省してるけど、力加減はそんなすぐには出来ないのよ。いつも助けてくれてありがとう。馬鹿は言い過ぎだけど、努力するから見てなさいよね!」

「文句言うときと同じ口調で感謝を述べるなよ。調子狂うだろうが」

 何やらよく分からない喧嘩をした俺たちは、どちらからともなく笑う。


 そうとも。こいつらと一緒なら、世界の崩落も怖くない。

「さて、それじゃあいつものメンツが揃ったところで、作戦会議だ……です、よ?」

『ティズはん。締まりまへんえ』

「これから世界を救おうっていうんだから、みんなちゃんとしてよね」

 俺たちのギルドは、最強だ。

「みんな、俺たちが押されている今の状況だが、明日の明け方と同時にひっくり返すぞ」

 俺が作戦を提案すると、満場一致で可決される。


 俺たちの戦いは、これからだ。



※ご愛読ありがとうございました。古城ろっく先生の次回作とか別作品とかにご期待ください。

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異世界の美少女たちが仲間になりたそうにこっちを見ている。××しますか? いいえ 古城ろっく@感想大感謝祭!! @huruki-rock

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