チュートリアル 第1話~スタートライン~

目覚めるとそこは見知らぬ天井だった...

「神龍の儀」を終えた私は、青龍様に選ばれた。

今いるこの場は魂の神殿である事は事前に伝えられいる。

私は自分の手を強く握りながら唱えるように呟く。

「ついに私もスタートラインに立つことができた…」

15歳になるまでは日々戦う為の体力づくりや知識を蓄える為に心血を注いだ。

「聖戦」に参加し、偉大な戦績を残した者は神龍により富と栄誉を賜る事ができる。

私の家族は所謂低級な一般階級だ。

この境遇から抜け出し、「人並み」の生活を手に入れる。

「自分の力で這い上がるしかない。」

過去私のご先祖は聖戦において不甲斐ない成果しか残す事ができなかった。

私は決意を新たに、一歩を踏み出す。

先の見えない真っ白な出口を抜けると、私と同じように選定された人が集う聖堂のような場所に出た。


「てめぇが俺の担当する初心者(ノービス)か!?」

突然背後から声を掛けられ、ビクッっとしながら返事をする。

「ひっ!? え、えーっと、わたし、ですよね?」

後ろを振り返ると、先ほど出てきたであろう出口はなく、ホールが反対側も広がっていた。

目の前には短い青い髪を逆立てたお兄さん(?)が槍を肩に担ぎながら、品定めをするように私を見ていた。

「てめぇで間違いねーよ。俺は指導担当のガイだ。」

ガイと名乗ったその人は見た目の厳つさとは裏腹にカラカラと笑いながら手を差し出してくれた。

「あ、はい! 私はエレナです。よろしくお願いします!」

彼(ガイ)と握手をして気づいた。きっとガイさんは強い。何となくそんな気配を感じる。

「お? 嬢ちゃん(エレナ)、気付いたか。結構やるな!」

態度に出ていたのだろうか?

「取って食いやしねーよ! ははは!」

ガイさんから聖戦に向けての訓練(チュートリアル)について説明を受ける。

「ま、右も左も分からねぇ嬢ちゃん(エレナ)のような初心者(ノービス)は聖戦(バトル)に参加しても足手まといだ。だからまずは訓練からだな。」

口で説明するよりも体験した方が早いと言いながら彼はホールの先の一角を目指し歩き始める。

「待ってくださいよー。」

案外普通に歩いているようで速度の速いガイさんに置いて行かれないよう、小走りで追いかける。


人混み縫いホールを抜けた先には小部屋というには少し広い空間があり、その中央には淡い輝きを灯した石碑があった。

「これはなんつったか、まぁ要はあれだ、転移装置。これに触れると訓練用空間に行けるから着いて来い。」

言ったか言わないうちにガイさんは淡い光の粒子と共に消える。

私も慌て石碑に触れる、と刹那にして廃墟と言えるかつて都市であったであろう事が伺える場所へ転移する。

「戻る時も石碑に触れればすぐ帰れるぞ。んでこっちの石碑が訓練に使う方だな。」

どんな効果があるのかも教えてもう間もなくガイさんは石碑に触れる。

石碑が青く光り、私達のいる場所の周りに淡い青色の光を湛えた円陣が描かれる。

中心点と思われるところには青龍様が描かれた柱がせりあがる。

私達の後方には青龍様を模した機兵が一体。

そして私達の前方には同じように淡く赤い光を湛えた円陣が描かれ、中央に赤龍様が描かれた柱が出現する。

勿論、奥には機兵が一体。


「さぁて、さっそく訓練開始(トライアル)と行こうか嬢ちゃん(エレナ)」

知識では知っているが、やはり実物を見ると胸が高鳴る。

これが戦の空気なんだろうか?

「暫くするとちっこいのが出てくる。そいつ等を上手く使いながらあっちの機兵を倒せばこっちの勝ち。」

分かりやすいだろ? と言いながらガイさんは槍を自分の傍に突き立て、また石碑に触れる。

「っと、嬢ちゃん(エレナ)の獲物(武器)は何が良い? 剣でも弓でもなんなら素手だって構わないがな?」

「では、魔銃(まじゅう)を二丁お願いします。」

私は即答する。

魔銃は読んで字のごとく魔力を弾丸とする銃で、弓と同等の射程距離を誇る武器だ。

弓のように技量に左右されず、剣や槍のように腕力で差も出ない。

扱う者の魔力量にのみ左右され、比較的女性に適性がある者が多いとされる。

そもそもリロードが必要ないため。普通は一丁で十分に運用ができる。

ではなぜ私は二丁なのかというと、他者に比べ魔力総量が圧倒的に多い事に由来する。

「ほぉ~。また嬢ちゃん(エレナ)は面白い使い方をするもんだ。」

「なかなか居ないでしょうからね...わっ!?目の前に魔銃が!」

突然二丁の銃が現れる。

「ま、まずは流れを覚える位で良い。従魔は今回無しだ。俺が従魔代わりだな。」

「はい!」

魔銃を両手に持ち、隣にはガイさんが立つ。

身支度が終わるのを見計らったかのように互いの機兵の足元に召喚陣が描かれる。

「さぁて、楽しい楽しい訓練(チュートリアル)の始まりだ」

魔法陣が光ると人形サイズの機兵が五体現れる。

「そうだそうだ、ミニオンだミニオン。こいつらは随時召喚され、五体一組で相手の機兵目指して進軍する。」

ミニオンは非常に重要な戦力だ。

聖戦は通常、召喚者(プレイヤー)五人とその五人と契約をした従魔二体が戦場(フィールド)に立ちお互い鎬を削る。

相手陣営の防衛を攻略するためには、ミニオンを時には盾とし、時には身を護る剣としなければならない。

「まずはミニオン同士を戦わせる。間違っても開幕から単独で戦おうとするなよ?」

一体一体は非力でも五体になると中々の戦力になる。

ミニオン達が隊列を組んで小走りに進む後ろを私達はついていく。

両陣営の中央でミニオン達は互いに武器を振るい、相手を倒そうとする。

「んじゃまぁ横から俺らも参加するとしよう。」

「了解」

文字通りミニオンを盾にし私は銃の引き金を引き、ガイさんは槍でミニオンを貫く。

体力が尽きた赤ミニオンはポンという可愛らしい音と共に倒れ、粒子となり私達の体に吸い込まれていく。

「ミニオンや召喚者(プレイヤー)、後から説明する第三者(モンスター)を倒すとマナを取り込める。そのマナを使って、自陣の端末を操作することで様々な恩恵を得られる。」

一組のミニオンを倒し終えると、ガイさんはマナについて教えてくれる。

「戦闘範囲にいれば最低限マナは1貰える。トドメを刺せば3だ。召喚者(プレイヤー)を倒せたら相手の総量に準じてマナを得る事が可能だ。」

「如何に上手く自分で倒(キル)す事が大事、ですね。」

「あぁそうだ。慣れるまでは深く考えなくても良いが、マナは多く持っている方が良いし、終盤に響くからな。」


自分の能力を上げるにしても、装備を整えるにしても、マナは非常に大きな役割を担っている。

総獲得マナに応じ、召喚者(プレイヤー)は成長(レベルアップ)する。

最大(カンスト)まで成長(レベルアップ)する事が出来れば一騎当千の力を得ることが出来ると言われている。

また、マナを対価とすることで自陣の端末から強力な装備を得ることも可能だ。

それだけではなく、従者の召喚もマナを対価に行う事が出来るため、その使用用途は多岐にわたる。


「嬢ちゃん(エレナ)、マナの確認方法は分かるか?」

「はい、戦場(フィールド)にいる間はステータスと念じると確認が...あ、出来ました。」

一組のミニオンを殲滅すると最低5のマナを所有している。最大は15。そして私の現状は7。

「小まめに自分の状況を確認しながら最善の行動をする。これが出来る奴の最低条件だ、いいな?」

「はいっ!」

元気に返事をし、少し先で戦うミニオン達の方へ歩み始める。

「よぉし、暫くはマナを溜めて成長の体験といこうかねぇ。」


ここから本当の戦いを始めるまではまだまだかかるけれど、早く一人前の召喚者になって、私は...


第2話へと続く。

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この当たり前な聖戦の中で私はただ一つの挑戦権を掴み取る がーす @garthrod

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