第4話 白い

〇白い

・あんな場所へ向かうのはもう二度と御免だ。[三架]


▲オカルト封印クラブの部屋


[??]「いやー、折角近くに引っ越してきたから挨拶ぐらいしとこうと思ったんだ。」

[三架]「わざわざあんな曰く付き塗れのアパートのよく引っ越したもんだ。」


今オカルト封印クラブには一人の客人が来ている、

彼の名前は古門 蘇蔵(ふるかど そくら)

俺と同じ21にはとても見えない低身長の持ち主で学校ではよく合法ショタだとか言われているらしい、

あぁ、ちなみに俺と紅葉は大学に行っていないのであくまでらしいだ。


[蘇蔵]「いやー、大学での写真倶楽部での移動費がね…ちょっとでも安い所に引っ越して確保しようとね。」

[三架]「あぁ…」


彼の活動は聞いている、何度か知らず知らずのうちに心霊スポットへ迷い込んだのを助けたこともある、

そんな彼の移動範囲は非常に広い、移動費がかさむのも当然だろう。


[蘇蔵]「それにこの辺は良い感じの写真が撮れるスポットもあるからね、ほら、例えば近くの盆地の廃校とか…」

[三架]「絶対そこには行くなよ。」

[蘇蔵]「あちゃー…"出る"スポットだったんだあそこ、うーん残念。」

[三架]「そういえばどこに引っ越したんだ?この辺でまともなアパートは此処くらいしか無かった気がするんだが…」

[蘇蔵]「あ、来る?出来れば引っ越し後の整理手伝ってほしいなー。」

[紅葉]「始めっからそれ目的じゃないのかー?」

[蘇蔵]「んー、それ半分ともう一つって感じかな、出来ればオカルトに理解のある人間が良い。」

[三架]「…わかった、すぐに向かおう。」


▲蘇蔵の新居


今日は俺一人しか居なかったので俺と蘇蔵の二人で新居へ向かい、引っ越しの手伝いをした。

案外あっさり済んだので恐らくオカルト方面の話が本題なのだろう。


[三架]「荷物少なかったな。」

[蘇蔵]「まぁほとんど外で活動してるからねー、身軽な方が良いかなって。」

[三架]「まぁそうか、家でじっとしてるの苦手そうだしな。」

[三架]「で、そろそろ本題に入ろうか。」

[蘇蔵]「そうだね、むしろこっちが本命なんだけど。」


そういって蘇蔵は話し始めた。


[蘇蔵]「この部屋のすぐ隣、6号室についてなんだ。」


このアパートは横に3部屋、1.2.3号室、

二階に上がり4.5.6号室がある、蘇蔵の部屋…つまり今いるのは5号室だ、

ちなみに階段は4号室側にある。


[蘇蔵]「その6号室は他の部屋よりもさらに家賃が安くってね、大体半分くらいかな。」

[蘇蔵]「で、まぁそんなに安いならって事で前に何人も入って来たらしいんだけど…全員行方不明になっちゃってるんだよね。」

[三架]「行方不明?連れ去られたとかか?」

[蘇蔵]「さぁ、それは何とも、ただわかってるのは彼らは皆"部屋の中で"消えているって事だけさ。」

[三架]「部屋の中で行方不明?訳が分からんな。」

[蘇蔵]「でしょ?大家さんもすっごい気味悪がっててさ、僕も最初6号室に住もうとしてたんだけど大家さんにすっごい引き止められてね、で隣にしたってワケ。」

[蘇蔵]「で済んでみたら6号室の方から毎晩うめき声が聞こえるわ機械音みたいのが聞こえるわ足音が響き渡るわで凄くてね。」

[三架]「うぅーん思いっきり黒だろそれ。」

[蘇蔵]「それで流石に怖くって逃げるように外で活動してたんだよね。」

[蘇蔵]「でも何時までもそれじゃあいられなくなってね、何日かまた過ごしてたんだけど…」

[蘇蔵]「ある日ね…朝起きたらさ…僕何故か6号室に寝てたんだ。」

[三架]「気付かないうちにだな?」

[蘇蔵]「うん、急いで飛び出して事無きを得たけど流石にヤバいって思ってね、で専門家の意見を聞こうと。」

[三架]「そんなの逃げろ一択だな。」

[蘇蔵]「だよなぁ…という事で泊めて!お願い!このままじゃおねしょ再発しちゃうよ!」

[三架]「勿論いいぞ、他のメンバーも集めておこうか。」


▲オカルト封印クラブの部屋


で、現在夜、今オカルト封印クラブ部室はかつてない人口密度になっている。


[紅葉]「お主ゲーム上手いのう、もうセグメント6か。」

[真弧]「このシューティングゲーム左右にパラメータ多すぎない?私頭爆発しそう。」

[蘇蔵]「ぶっちゃけLIFEしか見えてない。」

[涼子]「説明書がなに書いてあるかわからない…」

[赫鷺]「む、この曲効いたことがあるぞ、たしからじお…」

[三架]「人多くね?」


この部屋には俺が招集した紅葉、真弧といつの間にか話を嗅ぎ付けて来た涼子と赫鷺教授が来ていた、

5人は友達の家に遊びに来たかのような様子だ、まぁ寝るまで事は起こらないようから良いのだが。

で、そんなこんなで就寝時間になった、交代で起きて蘇蔵を見張る。

物理的に移動するなら勝手に歩きだしたりとかそういう類だろう、

勝手に歩きだした時点で静止し、それが出来ないなら周りを叩き起こす。

何もないのが一番だが念のために。


[紅葉]「これ起きんか!うつけ!」

[三架]「んがぁ何だどうした!?」

[紅葉]「蘇蔵が"消えた"!!」

[三架]「消えた?」

[紅葉]「あぁそうだ!何の前触れもなくぱっと消えおった!どこ行った!」

[三架]「…6号室だ、急ぐぞ!」

[赫鷺]「ようしぶっ飛ばすぞ!」


▲アパート6号室前


[赫鷺]「ぐぎぎぎぎぎ…何だここは計器が全く機能せんぞ!?」

[三架]「朝はこんな霊気は無かった筈…何が起こってるんだ…」


6号室の扉を開ける、カギはかかっていなかった。


[紅葉]「…何だこれは?」


扉の先には真っ白な無菌室のような部屋が続いていた、

部屋の東西南北にひとつづつ開いた扉がありその奥には似たような部屋が見える、

明らかにアパートの構造に合わない連なった部屋は言うまでも無く異様だ。


[涼子]「なんかvirtual ins○nityのPVで見ましたよこんな部屋。」

[三架]「そんな事どうでもいい!さっさと助けに行くぞ!」


真っ先に部屋へ入る、その瞬間違和感を感じた、振り返るとそこに入り口は無く、部屋がひたすら続いていた。

俺は独りだった。


[三架]「どうなってる…?」


部屋は全て白く照らされ、そして恐ろしく清潔だ、

周りにはその白色の空間に生える黒いソファーやらテーブルやらが置かれている。

しかし窓がどこにも無くかなり閉塞感を感じる。


[三架]「とにかく蘇蔵探さなねぇと…今もどこかで寝てるのかね…?」


何処抜いても同じような光景なのでアテも無く歩き始めるしかない、

多分蘇蔵はどこかに居るはずだ…

しばらく歩くと殴り書きのメモを見つけた、蘇蔵の字じゃあ無いし前の住人か?

そのメモにはこう書いてあった。

"どこまで行っても同じだ、端は無いし終わりも無い、まるで無間地獄だ、もし誰かこのメモを見つけたなら残念だが諦めろ。

俺はもう1年はここに居る、時計が無いから正確ではないがそれだけ歩いても部屋しかなかったんだ。"


[三架]「マジかよ、冗談キツイぞ、入口があるんだから出口だってあるはずだろ…?」

[三架]「とにかく歩き続けるしかないな…」


また歩き始める前にメモに追加で文字を残しておいた。

"俺は砂座波 三架、ここに迷い込んだ人を探している、誰かこのメモを見たなら何か痕跡を残してくれ。"



[三架]「本当にどこまでも続いてやがるな…」


恐らく数時間は歩き続けているがどこも変わり映えのしない同じような部屋が続いていた。

時たま冷蔵庫がありその中には普通の食品や飲み物が入っていた、

出所が不明のためかなり気味が悪いから手は付けていないが…

というかそもそもそれらが必要なほどに腹は減らないし喉も乾かない、不思議だが今は好都合だった、

置いてあるものが黄泉戸喫(よもつへぐい)的な何かだったら詰むしなぁ…


そういえば他の連中は今何してるんだろうか、やっぱり一緒に入っちまったかなぁ…

てなると同時に入っても全く別の場所に飛ばされるのか?

少なくとも霊気は感じないって事は紅葉は来ていない…まぁ俺の観測範囲よりはるかに広い空間だからアテになんないけどな…



一体何日歩いた?蘇蔵も他の生存者も見当たらない、この前のメモは何度か見たが追記は無し、

出口はどこにも見当たらない、一体いつまで歩けばいい?




時計位用意して欲しいものだ、仮想の空でもいい、もう何年目かもわからない、

相変わらず俺はこの無菌室のような部屋を歩き続けている、

何も進展はない。



何もない。

疲れた、体ではなく精神が。

終わりが見えない。




何だあれは?







気がつくと目の前に明らかに異質なものが存在した、まるで人のようだ。

全身白いふわふわとした寒冷な地方の民族衣装のようなものを纏っている、

黒い長髪はその色白の肌と服装、背景もあり一層栄えて見えた。


[??]「どうしてこんなところに人が…」


ソイツは俺を見てそんなことを言った、何か言おうとしたが随分と長い事声を発していなかったせいでまともに声をかける事も出来なかった。


[??]「…え?あなた三架?三架なの?」


何だこいつは、なんで俺の名前を知っている?


[??]「まさかこんなところで再会するだなんて…」

[??]「でも一体どうやって此処に入ったの?私が知る限りここはこっち側の世界で廃棄された居住施設なんだけど…」


コイツはいったい何を言ってる?何を知ってるんだ?

俺の声はまだ出ない。


[??]「…さっきから随分困惑しているように見えるけれど…どうしたの?もう何度も会ってるでしょう?」


俺は首を横に振った、今はそれぐらいしか表現の方法が無かった。


[??]「え?…あぁ、そう、貴方にとってはこの私が初めてなのね、分かったわ。」

[??]「にしてもあなた1万年もよく正気でいられたわね。」


一万年?おい嘘だろ?


[??]「待って、とりあえずあなたを出せるか試してみる。」

[三架]「ま"…ほ…がに…生存…者…」

[??]「あぁあなた以外にここにきている人は居ないみたいだから安心して。」


[??]「じゃあ行くわよ。」


そういって白い女は俺の手を取り、一瞬景色が歪んだと思うとそこで気を失った。



[■■]「これ…何をしている…」


聞き覚えのある声がする、誰の声だったか…


[紅葉]「これ起きんか!うつけ!」

[三架]「んがぁ何だどうした!?」


目が覚めると目の前には久しぶりに見る4人が俺をのぞき込んでいた、

俺は仰向けに寝ていたようだ。


[赫鷺]「すっ転んだのか?キミともあろうものが今更ドジっ子属性付与か?」

[三架]「何が…何があった…?」

[真弧]「何って…三架がドアくぐった瞬間いきなりぶっ倒れたんだよ、ついさっきの事だよ?覚えてないの?」

[三架]「ついさっき…?」

[涼子]「そんな事より貴方が踏み込んだ瞬間白部屋が無くなったんですよ、なんか普通の部屋になったんです、一体何をしたんですか?」


俺はとにかく会った事をそのまま皆に話した。


[涼子]「何か五億年ボタンとなろう系小説を足して事故ったみたいな話ですね…」

[紅葉]「よく正気でいられたな…流石にわらわも5桁年は自信無いぞ。」

[三架]「正直俺もなにがなんだかよくわからん、さっさと蘇蔵を回収してこんな所から出るぞ。」


で、蘇蔵は普通に居間に寝っ転がっていた、回収してさっさと帰る。

蘇蔵は別に何事も無かったようだ、6号室に飛ばされた以外は。

結局あのアパートからは出ていくらしいが行くアテが無いのでとりあえず赫鷺教授に引き取ってもらった。


…にしてもあの空間はいったい何だったのだろう、なぜあの中で俺だけがあそこに?

あの白い女は誰だ?俺は会った事があるのか?

正直何もわからない、結局あの日以降俺はあそこに迷い込むことは無いしあの女と再会してもいない、

ただわかるのはアレはオカルトでも何でもない"人間の技術"によるものだという事だけだ。


こちらオカルト封印クラブ

第4話 白い部屋と女、終了。

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こちらオカルト封印クラブ まほうつかい @ma42ky

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