11話 ティアとの合流

 こうして僕は少女誘拐罪で逮捕された。今は逮捕されて3日目。ちなみに今僕の目の前には一人の女の人が立っている。そう、彼女は今僕を尋問中だ。ちなみにしっかりと鉄格子付きの牢屋に入れられている、尋問中の今だってね。尋問を行っている彼女は僕を捕らえた時にネコミミやエリザベスさんと一緒に僕を包囲していた人の1人だ。かなりの腕だろうな、この人。


「つまり貴方は、あの少女が元々裸だったとあくまでも主張するのですね?」


 まったく、彼女はこの質問を何回繰り返すつもりなのかな。もう数十回は僕に聞いてるぞ?


『はい、その通りです』


「はぁ...では貴方、ヨツバ シュウは嘘を言っていないと神へと誓いますか?嘘をついているなら今すぐに申し出た方が貴方の為です。この街最強のパーティーである薔薇の蜜の一員、このサーシャが貴方の命だけは保証しますから正直に言ってください。」


『だから誤解なんですってば。そうだ、ティアに話を聞いてみましたか?彼女に聞けば彼女が全裸だったと証明出来ますよね?』


「いいえ、まず彼女のような幼い子供にそんなこと聞けません!ですが彼女ご本人に聞く事はもちろん可能ですよ。...ただし、我々を通してでになりますが宜しいですか?」


 うーん、つまり僕がティアに魔剣だとばらさないように保険をかける事は出来ないか。まあもしかしたらティアを僕が脅して事実を改変する可能性が向こうにはあるのだから、な。勿論、そんな事をするつもりは全くないけれど...


『構いません、お心遣い感謝します』


「ではこちらで待っていて下さいね?すぐに彼女に事実を確認してまいります」


 そう言うと彼女は、サーシャさんは出ていった。さて、ではここを出ようか、今すぐ。そうして僕はすぐさま叫んだ。


『スキル 風刃•闇!』


 僕の手に黒い魔力が集まり、三日月のような形へと変形していった。完璧な三日月になったその時、僕の手からそれは放たれた。一直線に鉄格子へと飛んでいく。


 ズバン、バキバキバキィ


 これで上の方は切れた。下の方を切ればこの牢屋から脱出出来る。よし、スキルもう1回で...


『スキル 風刃•闇!』


 ズバン、バキバキバキィ カラン カランカランカラン


 鉄格子を切る音に加えて鉄格子が落ちた。これで後は見つからないように脱出しなければ... いや、問題はある。ティアが今どこにいるのか全く分からない。これじゃあ合流はとても難しい、か。一体どうしたらいいんだ...


『...ッ!!』


 パシッ!


 僕は自分の頬を思いっきり叩いた。なんで弱気になっているんだ、僕。このままだとここからの脱走だって出来なくなってしまうぞ。取り敢えず今は脱走する事が最優先だ、それ以外は後で決めればいい。


 そう考え直した僕は両手についているこの手錠を外すため地下2階の看守室へと向かう事にした。地下二階に看守室があるのはサーシャさんが持っていたこの監獄の地図を見たときに知った。その上、スキル幸運が発動していたのだろうか、看守に見つからずに上手く看守室に到着する事が出来た。スキル幸運、もしかしてめちゃめちゃ強いのか?そう思ったその時、僕は看守室から漂ってくる異様な匂いに気付いた。


 これは血の匂い?


 僕自身なぜそう思ったのかは分からなかった。でも近づくにつれてそれは確証へと変わっていった。そして僕は看守室をそっと覗き込んだ。


『な...なんだよ、これ。誰がこんな事を?一体何のために...』


 そこには沢山の血だらけの死体が転がっていた。そして僕はその中のいくつかの遺体に見覚えがあった。この人、僕の食事を毎回持ってきてくれた人だ... しかもあっちに転がっている遺体は僕の監獄を監視していた人...


 でも誰が何のために看守を?


【ご主人様ぁ〜】


 その声を聞いた僕は目の前に広がる惨状を理解してしまった。もしかしてティアがこの人たちを殺したのか?


 その声の持ち主は僕に走り寄り、僕に抱きついた。


【生きていたのですね、ご主人様!】


 うん、生きていたけどね?さすがにこれはやりすぎじゃないかな?いや、でももしかしたらティアじゃないのかもしれない!でもティアの手には真っ赤な血が...


『ティア、また会えて嬉しいよ。ところでひとついいかな?この人たちを殺したのはティアなのか?』


【え?この人たちが死んでる?ティアは殺していません、ご主人様。ただ命に別状がないよう少し斬っただけです。そんな事よりティアがご主人様を助けようとしたのですが... まさかご自分で脱出していたとは。さすがティアのご主人様です】


 そうか、殺していなかったのか。この惨状を目の前に冷静ではいられなかったからかな、倒れている看守たちはゆっくりと呼吸をしていたのにも気づけなかった。しかし僕がすっかり安心していたその時、監獄内にサーシャの声が響き渡った。


「こちら監獄門前です。報告致します、監獄内に侵入者です。もう一度繰り返します、監獄内に侵入者です。侵入者の容姿はまだ幼い女の子です。名前はティア、名前はティアです。この放送を聞いた各看守は自らが所属している中隊の集合場所へと向かって下さい。第一中隊は中庭へ、第二中隊も中庭。第三中隊は看守室前へと集合して下さい。もうひとつ中隊長へと連絡します、自分の中隊が全員集合した事を確認した後、拡声魔法 シャウトを使用し私に、薔薇の蜜が一員、サーシャにお知らせ下さい」


 今のはなんだ?姿が見えないのに声が聞こえる... ティアなら分かるかな?


『ティア、今のはなんなんだ?』


 ティアは何故かとてもウキウキとした様子で言った。


【今のは拡声魔法 シャウトです。効果は、まあ見ての通り広範囲に自分の声を届ける事が出来ます。】


 なるほど、つまり広範囲に一方的に話せるのか。便利な魔法だ。


『えーっとティア?何故そんなに楽しそうなの?』


 今度はティアは満面の笑みで言った。な、なんてかわいいぃ!


【ご主人様もサーシャが言った事を聞いていたのでしょう?ここには第三中隊が集合するのですよ?戦闘の時間です!】


 それを聞いた途端に僕の顔がどんどん青白くなっていった。え?今なんてティアは言ったの?ここに第三中隊集合するって聞こえたんだけど?


【ほらあそこから走って来ますよ】


 ティアが指さした方を向くと1つの影がこちらに向かって全力で走ってきていた。


『ティア、逃げよう。僕の魔法は人を殺しかねない。そしてもし殺してしまったらもうこの街には留まれなくなってしまう。』


 ティアは面白そうにこっちを向いて笑った。なにがそんなに面白いんだよ。


【さすがご主人様、まさか魔力調整で威力を弱めることさえ知らないとは...】


 え?つまり...


『ティア、魔法の威力は弱体化する事が出来るのか?』


【そういう事です。魔法の威力は自分がどれほどの魔力を込めるかによって大きく変わります。魔法、またはスキルに込める魔力が小さければ小さいほど威力が弱くなります。また魔法、スキルに込める魔力が大きければ大きいほどその威力は大きくなります】


 そうなのか。全く知らなかったな。そういう事なら、できるだけスキルに込める魔力を小さくして...


『スキル 風刃•闇!』


 僕の手に小さな黒い魔力の塊が表れ、徐々に三日月型に変わっていった。そして僕の手をこちらに向かってくる看守に向けた。


 ヒュッ パシュ


 スキル 風刃•闇は見事に看守に当たった。看守は彼が走ってきた方へと吹っ飛んでいった。


【凄いです、ご主人様!まさか1回で見事成功するとは】


 ...え?


『え?えーっとつまりティアは成功するか分からない事を人に対して使えって言ってたの?』


 僕がティアの方に怒りを込めた目線を送るとティアは視線から目を逸らした。そして気付いた。


 そうか、僕は今もしかしたら人を殺すところだったのか。僕の手が震え始める。僕はもしかしたら人殺しになっていたのか?僕は膝を硬い床についた。


 僕の手の震えは止まらない。僕の目から涙が溢れてきた。もうダメだ...このまま捕まってしまおうか?


 その時、僕の右手を包むように小さな二つの柔らかな白い手が僕の手を握った。


 ティアの手だ。僕はすぐ分かった、そして思った。僕は一人じゃないんだ... 僕は顔を上げた。ティアは僕をじっと見て言った。


【ご主人様は優しいお方です。ご主人様はティアが呪われし恐ろしい魔剣だと分かっていてもティアを庇って捕まってしまいました。今もこの監獄で酷い目にあっていたにもかかわらず、看守を殺めてしまいそうになった事に罪悪感に虐げられています。でももう大丈夫です。貴方は人を殺してはいません。さあ、ここから出ましょう。ね?】


 僕は思わずティアを抱きしめていた。


【ご、ご主人様?急に抱きしめないでください!恥ずかしいです...】


 ティアの体温が急速に上がっていくのが分かる。そのことに気づいた僕は急に恥ずかしくなり、ティアを離した。


 そして僕はティアの手を掴んだ。


『それじゃあここから出ようか。』


 僕はにっこりと笑いながら言った。ティアも笑い返してくれた。


【了解です!ご主人様。早くここから出ましょう!】

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親友殺しの青年元暗殺者による異世界ライフ ~記憶を失っても、身体能力はそのまま!~ @SotaBHS

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