第9話
目を覚ますと、天井の木目が目に入りました。
小さい頃、この木目が人の目に見えるようで、妹と共に怖がっていたことを思い出しました。
真っ暗な夜は手を繋ぎ、頭まで布団にくるまって眠ったものです。
ほんわかと、暖かいものが胸に広がり、途端、妹が死んだことを思い出し、急激に冷えました。
その時、ぐう、という音が下から聞こえました。 私ははっと目を開けました。その時、初めて目が覚めたのです。
私が寝ているのは、二段ベッドの上階で、下には妹が寝ています。
私は急いで体を起こすと、頭を逆さにし、下を覗き込みました。
そこには、死んだはずの妹がいびきをかいて寝ているのでした。
気づけば声を上げて笑っていました。頬が引きつり、乾ききった涙の跡がぱりぱりします。その上を、新たな涙が一筋伝いました。
妹は、この春から就職を機に家を出て、一人暮らしをはじめます。
小学生の頃からの夢が、いまやっと叶おうとしている妹は、新たな暮らしに向けて日々忙しく準備をしています。その姿はとても、楽しそうで。
そんな姿を見ると、私はこう思ってしまうのです。
ずっと過ごしてきたこの家を離れるというのに、あなたは寂しくないの?
ずっと一緒にいたのに、これからは、そんなふうにいられなくなるのに。
何かあっても、すぐに助けてあげられないかもしれない。
おしゃべり好きなあなたです。家に帰っても一人きりで、たとえその日、嫌なことがあったとしても、素晴らしく楽しいことがあったとしても、すぐに報告できる人がいないなんて。
それでも、あなたは進むのね。
この先の、あなた自身が決めた道の先へと。
ゲートの中に消える妹の背中が目に浮かびます。
「そういう、ことか」
自分の中の感情に答えをだし、私は天井の木目を仰ぐのでした。
さて、この寝坊助な妹を起こさなければなりません。
ある日の夢の話です。
《完》
ある日の 灰羽アリス @nyamoko0916
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