第4話 バケモノタイジ 参

4

――

いつものサイゼリア、いつもの窓際、いつもの座席に座り夕食を済まして駄べりをしていたら時刻は二十二時になっていた。

「おっと、長々と話し込んでしまったじゃないか、そろそろ帰らないと豪が心配するんじゃないか?送ってくぜ」

「ああ、お父さんなら確実に心配してますね.....LINEは入れておきましたので大丈夫だとは思いますが」

「まあいい、会計を済ませるから外で待っててくれよ、マイスイートハニー」


いちいち言い回しが気持ち悪いんだよなあこの人.....流行に疎いくせになんでタピオカとインスタ映えの事を知っていたのだろうか。


――――――


夏場だってのに夜は肌寒いのがこの街の特徴だ。

「上着が欲しいな.....」

「おじさんのを貸してあげようか?」

低く、ダンディな声。


「げっ...信楽さん.....」

「げっ、とはなんだ、げっ、ってさあ!」


黒のシャツを全開スタイルに短パン、短い緑髪に全身シルバーアクセサリーでジャラジャラしているこの人は信楽一遊しがらきいちゆう

見た目からしても胡散臭さ全開おじさんだ。


「上着も何も信楽さんシャツ一枚じゃないですか.....」

「おじさんの大事な一張羅だ、大事にしてくれよ.....」


いらないが.....。

「うわ!変態だ!!」

 会計を済ませたであろう巡さんが声高らかにこちらへやってくる。

 半裸の中年が女子高生にシャツを差し上げているいかにもヤバそうな絵面を目撃した巡さんは軽蔑の目を信楽さんに向けていた。

「えっ!?変態!?コダマちゃん気をつけて!近くに変態がいるって!」

「それ本気で言ってます?」

「お前ヤバいよ」

まさかこの状況で自分が変態扱いされているとも思わず辺りを見渡す信楽さんに対して私と巡さんはドン引きだった。

 ――

「仕事帰りにコンビニでも寄ろうかとこっちに来てみたら見覚えのあるポルシェが視界に入ってね、そしたらコダマちゃんが寒そうにしてたから挨拶でもしようかなってね」

突き返したシャツのボタンを止めながら信楽さんは経緯を説明してくれているがどこか悲しげだ。

変態扱いがそこそこ効いたらしい。


「挨拶はいいけどさ、セクハラも大概にしろよ〜警察呼ばれんぞ〜」

気だるげで興味無さそうにスマホをいじる巡さん。

いつも不憫なおじさんだなあ。

雑な扱いにも慣れているようで、信楽さんは「そうだ」と、普通に話を切り出した。

「巡、頼まれていた件だけど、送った報告書は読んだかい?」

「あ〜、今見てる。こりゃとんでもない事になってんなあ」

「あの子に相談した方がいいと思うな〜。これに関しては君の専門外だろ?」

「……」

とても嫌そうな顔で信楽さんを見た後、スマホをスイスイとスクロールしたり、見つめ、深く長いため息をついた巡さん。

「すげえ嫌」

話が全く分からないけどすごい嫌だそうだ。

――

「コダマちゃん、そろそろ帰ろうか」

「そうですね、じゃ、失礼しますね信楽さん」

「ああ、おじさんもそろそろコンビニに行こうかな、じゃあね〜」

手をひらひらとさせながら信楽さんは近くのコンビニを目指し歩いていった。


――

帰り道、真っ赤な車の助手席で揺られながらあの人との出会いを思い出していた。

 信楽一遊、死霊術師のおじさん。

死霊術とはなんぞやという所から説明すると、死者の肉体や魂を操る黒魔術の一種である。

と、何でも教えてくれるインターネットに書いていた。

物騒な名前の通り死体を動かしたり霊魂から情報を聞き出したりと、死関係なら死霊術師の右に出る者はそうそう居ないだろう。

こういうと不謹慎だとかなんだとか言われるのだろうけど、案外便利だと思ってしまった。

やってることはまあ罰当たりで死者への冒涜と捉えられても仕方がないだろう。

 ある時は命を弄ぶイカレ野郎と罵られたり、またある時は故人の声を伝え、泣きながら感謝されたりと、賛否がきれいに分かれるのが不思議なものだ。


 怪異関連の世界で知らない者はいない程の凄腕らしいが正直そうは見えない。

というのが第一印象だった。


 ある日お墓参りに行った時のことだ。

見知らぬおじさんが墓場の入口で号泣していた現場に遭遇、それを見て「ああ、大切な人が亡くなったんだろうな」と思っていた。

あまりジロジロ見ないよう、号泣おじさんの横をスっと通りすぎようとした瞬間「お嬢ちゃん、聞いてくれよお……」

と泣きつかれてしまった。


余程悲しかったのだろうか、まあ時間ならあるしいいかと話を聞くと、ある女性幽霊に惹かれてここまで来たらしい。

しかし夫と子供らしき人が墓前に来ていたそうで、それを見て失恋に悲しみ悶えていた、と。

思わず「えぇ…」と声に出てしまったのを覚えている。


というか見られてましたよ信楽さん、その親子に……おじさんが女子高生の前でギャン泣きしてるとこ。

他にそれらしき人たちは見当たらなかったのでビンゴだろう。

すごい引いてましたね、二人とも。

え?マジ?みたいな顔してましたから。

気づいてなかったと思いますけどバチバチに私は目が合いましたからね……?

巡さん然りファーストコンタクトが最悪なんだよなあ、この界隈。

しかしまあ、車に乗ってるとやけに眠くなるなあ……。

――

「着いたぜコダマちゃん〜あれ?寝てるのかい?」

「寝顔もかわいいね、写真撮っちゃお〜」

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各地巡の怪異談 エビ天シャケ太郎 @karisu0159

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