【吉報】魔法少女が生まれました 11

「っ……」


 放たれた光線は軌道をずれ、フラワーサマーの真横を素通りした。

 後ろにをむけば、そこにあった建物が貫通している。

 前に向き直るとくぐもった声が聞こえ始めた。

 頭を抱え、まるで苦しそうに悶えているヘカトンケイル。

 咆哮を上げ続けていた口から言葉が漏れた。


『マ、ホウ……ショウ、ジョ?』

「……優紀か!?」


 彼の意識がまだあることに希望を見出し、大声を張る。

 もしかしたらまだ取り返しがつくのかもしれないと。


「優紀!」

『GUAAAAAAAAAAA!!』


 だが、ヘカトンケイルはその言葉に答えることはない。

 拳を地面に叩きつけ、地団駄を踏み、咆哮を上げる。

 そして再びフラワーサマーへと飛び掛かった。


「くっ!」


 剣を構えて防御に備える。

 その時、暴風が吹き荒れ、氷の波がヘカトンケイルを飲み込んだ。

 ヘカトンケイルは半身を氷に埋められその動きを中断される。

 フラワーサマーが目を見開くと隣にスノーウィンターとリーブスオータムが並び立った。


「二人とも無事だったのか」

「無事じゃないわ。

 貴女と同じくらいボロボロよ」

「でもさっきの聞いて立ち上がらないのは嘘やろ」

「よかった。

 あれは幻聴じゃないんだな」

「全員が幻聴聞いているかもしれないけれどもね」

「でも意識が戻ったからって言って元の姿に戻る可能性はあるん?」


 彼の意識が残っているということを考えれば可能性はある。

 何より。


「魔法だってあるんだ。

 元に戻るぐらいの奇跡、なきゃ嘘だろ」

「そうね」

「それを言われるとな~」


 氷が何度も揺れ、次第にヒビが入る。


「私たちが動きを抑えるわ。

 サマーは呼びかけに集中して」

「それは」

「ウチらよりサマーちゃんの言葉のほうが響くと思うんよ」

「……わかった」


 氷が破壊され、ヘカトンケイルが解放される。

 それぞれの武器を構え、顔を見合わせて頷いた。


「援護頼む!」

「「了解!!」」


 〇


 知らない場所。

 知らない空気。

 目の前には光の道と闇の道がある。

 光の道はとても眩しく、見ていて落ち着かない。

 反対に闇の道はそんなことはなく、むしろ安心する。

 自然と足が闇の道へと動いた。

 一歩、また一歩進むたびに身体に空気が染み渡って心が満たされる。

 足が速くなり、道をずんずんと進み――。


「なにも良かないわぁぁぁぁぁ!!!」

「ぶべらぁぁ!?」


 優紀はドロップキックを食らった。

 錐揉み回転しながら進んだ道を強制的に遡らせる。

 ゴロゴロと転がり、蹴られた部分を抑えながら立ち上がった。


「痛い!何!?怖い!?」


 自分を攻撃をした人は誰だと涙目で見る。

 そこにいたのは輝く人だった。


「うわぁ!?怪奇!発光人間!」

「誰が怪奇だスカタン!!」


 発光人間に顔を打たれる。

 また身体を回転させて吹っ飛んだ。

 ゴロゴロと転がった後、発光人間を睨みつける。


「なんで!?」

「今いる場所が不思議空間でよかったわね。

 でなければ頭が吹っ飛んでいたところだったわ」

「そんな威力で人を殴ってたの!?」

「いい機会だから溜め込んだイラつきをぶつけようかと」

「何の!?

 何もわからないからさらに怖い!」

「まぁまぁ気にしない気にしない」

「いや気にしますけれどぉ!?」


 何もわからない理不尽な暴力にただただおびえるだけだった。

 発光人間は満足したのか、倒れこむ優紀の前にしゃがみ込む。


「さて、大事な話をしましょうか」

「この流れでできると思ってるのどうかと思うんですけど」

「はい、まずこちらをご覧くださ~い」


 まるでバスガイドが景色を紹介するようなポーズをすると長方形の画面が現れる。

 そこに映っていたのは戦う魔法少女三人の姿と腕が六本生やしたバケモノだった。


「えっ?先輩たちが戦って……」

「ちなみにこのバケモノが今のアンタね」

「はぁ!?」


 驚きのあまり立ち上がる。

 画面を覗き込めば、バケモノが魔法少女たちの攻撃を弾き、重そうな拳を叩き込む。

 魔法少女たちは対応しているようだがボロボロになっている様子を見る限り、苦戦を強いられているのは間違いないだろう。


「これが僕……?」

「そうよ。

 アンタがまざまざと魔人に誑かされた結果がこれ」

「魔人?なにを、いや……」


 優紀は思い出す。

 ここに来る前に、確か公園で誰かと話していたはず。

 記憶があやふやだがそれが魔人の仕業なのだろうかと推測した。


「このままだとあの子たちは死ぬでしょうね」

「なんっ!?」

「力の差が違うもの。

 今のアンタを倒すにはちょっと力不足」


 このままじゃ、自分が彼女たちを殺す。

 大好きな魔法少女を。

 それは嫌だ。

 絶対嫌だ。

 そんなことになるならいっそ自分を。


「あっ、音ミュートにしてた」


 発光人間はどこからともなくコントローラーを取り出してボタンを押す。

 すると聞こえなかった音が聞こえ始めた。


『いいのか優紀!

 お前がそのままだとパソコンのデータ見るぞ!

 秘蔵フォルダに魔法少女の写真集があるの知ってるんだからな!

 あと魔法少女をイメージしてポエム書いてるのもな!

 あれ持ち歩くのやめとけって!

 せめて自宅で保管しとけスカタン!

 それに動画見るたびにニヤつくのはちょっとキモイ!

 私じゃなかったらドン引きされるからなアレ!』

『ねぇ合ってる!?

 呼びかける言葉それ合ってる!?』

『このまま優紀くんの黒歴史がだんだんと公開されていくのやばない?』

「殺せぇぇぇぇぇえ!!!」


 別の意味で死にたくなった。


「先輩何してんの!?

 何で知ってんの!?」

「すごいわね

 ちょっと引く」

「ほっといて!」


 全力で嘆く。

 先ほどの重苦しい思いは何だったのかと。


「このままじゃ黒歴史全公開ね」

「なんでこんなむごいことを……」

「呼びかけてアンタを戻そうというつもりなんでしょ」

「でも戻ろうにもどうやって?」

「アンタの昔の夢はなんだっけ」

「は?夢?

 今なんでそんな話を」

「いいからほら、子供の頃に絵をかいて自慢げに言ってたやつ」

「子供の頃?」


 思い出すのは一つの大事な思い出。

 画用紙にクレヨンで描いた理想の魔法少女。

 それを母親に見せた記憶。


『おおきくなったら、まほーしょーじょになりたい!』


 あの時は男が魔法少女になれると思っていた。

 普通に考えればそんなことはあるはずないのに。

 思い出してだんだんと恥ずかしくなってきた優紀は顔を赤くする。


「いや、あれは子供の頃の夢で。

 男がなれるはずもなく、いやあんときはちょっと抜けてたというかなんというか」

「いきなり早口になるじゃん。

 それでその夢は諦めてるの?」


 当たり前だ。

 とは優紀は言えなかった。

 確かに自分が魔法少女になれないのはわかっている。

 それでも魔獣に対する防犯グッズは集めていたり、魔法少女の活動を応援していた。

 憧れが捨てきれていないと言われれば頷くしかないだろう。


「そう、よかったわ」

「えっ?」


 発光人間は両手で優紀の右手を取り、包むように覆う。

 光が集まり、その手首には見覚えのあるブレスレットが現れた。

 それは日夏がつけていたものによく似ている。


「これは?」

「アンタがずっと憧れていたものよ」

「いやでも」

「わたしが保証してあげる。

 アンタはなれるわ」


 謎の信頼。

 だがそう言われればそうなのだろうという確信が優紀の中あった。


「さっさと行って黒歴史暴露を止めて、ついでにあの子たちを助けてきなさい」

「いや、できればついでの方をメインにしたいんですけれど」

「でも今も言われ続けてるわよ」

「早く!早く出る方法教えて!!」

「そりゃもうわかってるでしょ」


 発光人間はそういってグッと右腕を掲げた。

 それを見てピンと着た優紀は同じように右腕を掲げ、叫ぶ。

 憧れの魔法の言葉を。


「変身っ!」


 ブレスレットから光が溢れ、その身を包む。

 そして身体に浮遊感を感じると、徐々に上に上昇していった。

 発光人間は満足そうに頷きながらそれを見上げる。


「さっさと行って、救ってきなさい!

 バカ■■!」


 最後の言葉ははっきりと聞き取れず、こちらは声を出せない。

 やがて視界も光に呑まれ、全てが白く染め上げられた。


 ◯


「くそ、在庫が切れそうだ」

「とんでもないプライバシーの侵害を聴いた……」

「優紀が戻うてきた時どんな顔で会えばいいかわからんなってきたわ」


 ありとあらゆる、本人が隠していそうな事をありったけぶつけてみたがに変化は見られない。


「そろそろこちらの魔力も尽きそうよ」

「どうするん?

 サマーちゃん、他に何かとっておきなネタはないん?」


 スノーウィンターが頭ほどの氷の礫を複数生成し、リーブスオータムが扇を振るって礫を風で飛ばす。

 ヘカトンケイルの動きを阻害するが対してやはり効果が薄い。


「……いや、ないわけじゃないけども。

 アイツに直接関係ある事じゃないし」

「なんでモジモジしてんの?

 こっちは命懸けで足止めしてるんだからあるならさっさと吐いてほしいのだけれど?」

「う、うるせぇ!

 こっちにも心の準備がだな!?」

「いやこんなところで恥を持ち出されても困るんやけど。

 ウチら体力もキツくてちょっと気が立ってるから早よしてくれないと魔法ぶつけちゃうかもしれん」

「わかったよ!言えばいいんだろ!」


 あまりにも目がマジになっていたのを見てフラワーサマーは決心をする。

 剣を両手で握り、ヘカトンケイルに肉薄。

 振り下ろした剣は防がれるが、斬ることが目的ではないからこれでいい。


「いいかよく聞け!

 私は、お前のことが」

「GUUUU!?」

「えっ」


 フラワーサマーが叫ぶと同時にヘカトンケイルに変化が起きる。

 二本の腕で頭を抱え、苦しみ悶えながら残りの腕で身体を掻く。

 フラワーサマーは後ろに飛び退き、援護をしようとしていた二人の元へと着地した。


「効いたの?」

「いや、私はまだ何も」

「ほないならどうして……?」


 ヘカトンケイルは蹲って動きを止めると、その背中が不自然に盛り上がる。

 急激にその背中にひびが入り、そして

 光が溢れ、辺りを照らす。


「なんだっ!?」


 驚くのも束の間。

 そこから光の球が飛び出してきた。

 ソレは魔法少女たち前に降り立ち、やがてその光は消えていく。

 その中にいたのは桜色の少女。

 その綺麗な桜色のサイドテールには桜の花びらがモチーフであろう髪飾りが付けられており、ヒラヒラとした衣装はいかにも魔法少女の戦闘衣装。

 その魔法少女は閉じていた瞼を開け、笑顔を浮かべると右腕をまっすぐ上に伸ばし、人差し指で天を指す。


「笑顔満点元気満開!スマイルスプリングここに見参!」


 希望の春風がここに吹く。

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【速報】魔法少女になりました。 projectPOTETO @zygaimo

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