【吉報】魔法少女が生まれました 10
「嘘だろおい……」
フラワーサマーが困惑の声を上げる。
それはそうだろう。
先程まで
『GUOOOO!!!』
瞬間、フラワーサマーの前に拳が現れる。
困惑して、身体に力が入っていなかった為、その拳をもろに顔に受けてしまった。
身体を錐揉み回転させながら建物の壁に激突。
意識が揺れる。
「サマーちゃん!?」
「くっ!?」
リーブスオータムがフラワーサマーを元へ飛び、スノーウィンターはヘカトンケイルに文字通りに弓を引く。
射られた氷の矢はヘカトンケイルに向かうが、ヘカトンケイルは手のひらから光弾を放ち、それを打ち落とす。
「遠距離攻撃もできるのねっ」
スノーウィンターは続けて矢を射続ける。
一本二本ではなく、一度に大量に放たれる矢だったが、ヘカトンケイルは全ての手を開いてそれを相殺してしまった。
更にヘカトンケイルが脚に力を入れる。力強い脚力は離れた距離を縮めるのには十分すぎるほどに強く、一歩でスノーウィンターの正面にに飛び掛かり、その腕を振るう。
咄嗟に氷の盾を生み出して防御するが強度が足りずに砕かれてしまう。
ヘカトンケイルの攻撃はそれだけでは止まらず、他の拳がスノーウィンターに叩き込まれた。
スノーウィンターは歯を食いしばり、なんとかどこかに激突にする前に体勢を持ち直して地面に着地する。
「ちょっと洒落にならないわね」
殴られた腹を抑えながら地面に降り立つヘカトンケイルを睨みつける。
あれが優紀だったとは全く思えない。
彼の顔とヤツの顔を重ねても違和感しかない。
だが、変貌する姿は見てしまった。
アレが優紀と同一の存在と言うことは紛れもない事実だ。
「やりにくい」
「ウィンターちゃん!大丈夫!?」
「オータム、サマーは?」
「ここだ」
スノーウィンターの左右に二人が戻ってくる。
無意識に魔力で防御していたのかフラワーサマーの顔は思っていたよりもダメージは大きくないようだ。
しかし、手に握る剣は震えている。
「戦えるの?」
「やるしかねぇだろ」
「でも優紀君やろアレ。
どないするん?」
「魔人や魔獣って一応、意識のある生き物なんだよな」
「……まぁ一応ね」
「ならぼこぼこにして気絶させる」
「無茶言わないでよ。
貴女だってさっきの一撃受けてわかったでしょ?
そんな手を抜いたことができる相手じゃないって」
「それでもやるんだよっ!」
「あっ!?ちょっと!!」
フラワーサマーは両手で剣を握り、飛び出す。
スノーウィンターは制止しようと手を伸ばすが間に合わずに空を掴む。
「あぁもう!」
「これはちょっと厳しいかもなぁ」
スノーウィンターは弓を修復して構え、リーブスオータムは扇を広げる。
それぞれの攻撃を繰り出し、突貫するフラワーサマーをサポートすることに注力した。
ヘカトンケイルがそれを防ぎ、動きを止めていると懐からフラワーサマーが剣を斬り上げる。
ヘカトンケイルは複数あるうちの腕の一本でそれを受け止め、お返しに拳を振るう。
剣と拳がぶつかるたびに大きな音と衝撃が広がる。
一撃一撃が重く、数発でフラワーサマーの態勢が崩れた。
追撃の拳が迫るが氷の矢がその拳にぶつかり、軌道が逸れる。
続けて突風が吹き荒れ、周りに転がる瓦礫がヘカトンケイルに衝突。
数多の瓦礫によってその巨体は押し流される。
フラワーサマーはそれに乗じて態勢を持ち直し、それを追いかけた。
瓦礫が粉砕され、その破片が顔を掠めるがそれを無視。
魔力を剣に籠め、振るう速度を上げる。
こいつは普通じゃない。
だからこそ少々過剰と思われる攻撃を叩き込むしかない。
「いったん眠れ!バカ後輩!!」
炎を纏った剣がヘカトンケイルの頭に衝突する。
……いや、衝突したように見えた。
「なっ!?」
『GUuuuu!!』
輝く壁がヘカトンケイルとフラワーサマーの間に現れている。
魔法障壁。
文字通り、魔法による障壁だ。
フラワーサマーの攻撃はこれによって防がれてしまっていた。
驚いたことによってフラワーサマーの動きが固まる。
ヘカトンケイルは腕を全力で振りぬき、障壁を破壊しながらフラワーサマーの鳩尾に拳をねじ込んだ。
フラワーサマーが吹き飛び、近くの建物に衝突。
いくつもの壁を壊して、ようやく止まった。
「サマー!!」
「サマーちゃん!!」
二人はサマーの元へと向かおうとするがその前に障壁が展開される。
反射的にぶつからないようにと動きを止めた時、受けから影が差す。
振り返れば腕を広げるヘカトンケイルが肉薄していた。
その大きな腕に片方三本分のラリアットを繰り出され、地面に叩きつけられてしまった。
不意を突かれたその攻撃をまともに喰らったスノーウィンターとリーブスオータムは辛うじて意識は保てているが、その身体を動かすことはおろか声を出すことすらままならない。
圧倒的な力を振るうヘカトンケイル。
それを見る人々は絶句していた。
そしてそれを放った魔人は離れた場所で両手を叩く。
「ブラボー!!ブラボー!!
いやぁ、最初からとんでもないアタリを引いてしまった!」
ジャックされている中継が魔人クラウンを映す。
「どうだい人類諸君!
これから君たちを襲うのは魔獣なんて柔な存在じゃない。
彼のような存在だ!
しかも!それは君たちの中から選ばれるっ!
悲しいねぇ、切ないねぇ!
でも……仕方ないよねぇ。
だって人類は僕達がいなくても争い続けるし、むしろ人類が己の手で破滅に向かうよう手助けするのは最高の慈悲と言っても差し支えないと思うのだけれども」
君たちはどう思う?
魔人クラウンは見ている人々に問い掛ける。
いやらしく、馬鹿にするように嘲笑いながら。
瞬間、炎が吹き荒れる。
その中から一人の人影が飛び出し、ヘカトンケイルに衝突し、地面に転倒させた。
それはフラワーサマーだった。
「ふっざけんな!!」
ヘカトンケイルを吹き飛ばし、更に炎の斬撃を魔人目掛けて飛ばす。
魔人クラウンは虫でも払うように手を振るい、その斬撃をかき消した。
「なんだ君。
まだそんな元気あるのか」
「あったりめぇだスカタン!」
フラワーサマーは剣先を空に浮かぶ魔人に向け、吠える。
気迫は十分。
しかし見るからに身体はボロボロだった。
戦闘衣装は所々やぶれ、痣や切り傷も大量。
なにより腹部は内出血を起こしており、誰から見ても重症そのものだ。
「私は魔法少女だ!
おめぇの下らねぇもんに負けるつもりなんて毛頭ないんだよ!」
「あっそう」
「私があいつを寝かして!元に戻して!
お前をぶっ倒せばそれで終わり!
わかったか!!」
息も絶え絶え。
声を張り上げていないと意識が飛んでしまいそうだ。
そんな様子を見て魔人クラウンは可哀そうなもの見る目でフラワーサマーを見る。
「いや、わからないね。
あとせっかくだから教えておくけれど、彼は戻らないよ」
「……あぁ!?」
「彼に埋め込んだ種はその魔力によって身体を変質させる。
君たちの変身とはわけが違う。
そもそも生物として生まれ変わっているんだ。
つまり、どうあがいても彼は戻らない。
残念だったね」
魔人クラウンの言葉に嘘はない。
なんとなくだが、フラワーサマーにはそれが分かってしまった。
だが……。
「うるせぇ!!
それはやってみなくちゃわかんねぇだろうが!!」
それは聞き入れない。
聞き入れてはいけない。
「アイツはただの高校生だ!
ただ魔法少女が好きのオタクだ!
誰よりも優しくて、誰かを護るために必死に慣れるやつだ!
そんな奴がこんなことしていいわけがねぇだろうが!!」
出会ってたった数か月。
それだけの時間でフラワーサマーは、日夏は優紀を大事に思える様な関係になれた。
そんな彼がこんなことをしていいはずがない。
それも
「だから絶対私は」
「ヘカトンケイル」
魔人クラウンが言葉を遮り、彼の名を呼ぶ。
ヘカトンケイルは再び起き上がり、その手をフラワーサマーに向ける。
「やれ」
極光がフラワーサマーに襲い掛かった。
◇
「レッドサン!現着!」
「ブルームーン、同じく」
「プラチナスター、到着しました」
フラワーサマーたちが戦闘の最中、管理局から派遣された魔法少女がその現場に到着する。
これによって彼女たちの救出及びヘカトンケイルとの戦闘に入る。
はずだったのだが……。
「なんだぁこりゃ」
現場の周りにはドーム状の結界が張られている。
レッドサンがその障壁に触れるとバチリと電気は走るような音と共に弾かれた。
「いって!!」
「サン!むやみ触れない!」
「でもこれをどうにかしねぇと入れねぇだろ!」
「管理局、聞こえますか?」
プラチナスターが管理局に通信を繋ぐ。
『はい、こちらも確認しました。
どうやら強力な結界が張られているようです。
性質的に攻撃したものを弾くみたいですね』
「つまり無理やり壊そうとして攻撃をぶつけたら」
「跳ね返ってくる、と」
「うるせぇそんなん関係あるか!」
レッドサンがそう言うと魔力を溜め始め、結界に攻撃を仕掛けようと準備をし始めるがブルームーンとプラチナスターは慌ててレッドサンを拘束してその動きをやめさせようとする。
「話きいてなかったの!?
あんたがそれ撃ったら私たちが喰らうのよ!?」
「それに下手したら周りにも被害がでるかもしれないんですよ!」
「放せよ!
んなこといって中にいるやつらが死んじまったらどうすんだ!
他に方法ねぇだろ!」
「それは、そうなのだけれど」
「でも私たちじゃ、この結界をどうすることもできないわ」
「……ちっ!」
レッドサンは魔力を籠めるのを中断し、力を抜く。
二人はレッドサンから離れ、改めて管理局と交信した。
「結界を解ける魔法少女はいないのですか?」
『対応できそうな方たちには向かうよう指示と出していますが、現場から離れすぎています。
到着するのは最短でも4時間かと……』
「それじゃあどう考えてもあのエセ魔人にぶっ殺されちまうだろ!!」
「局長は、どうお考えですか」
プラチナスターはきっとこの通信を聞いているだろう未来に問う。
『信じるしか、ありません』
か細い声だった。
いつも胸を張り、魔法少女たちを支え、気高い精神を持つ未来。
そんな姿を知っている三人からしたら、想像もできないほどにその声は弱弱しかった。
『元々、この未来は日夏さん一人が背負う未来でした。
美冬さんや紅葉さんが介入できた。
それが僅かにできた細やかな改変。
それを信じるしか、ありません』
「おい、叔母さん。
冗談きちぃぞそれは」
レッドサンは
ヘカトンケイルは映像を見て大体の実力を想像できた。
あの二人が入ったことでヘカトンケイルをどうにかできるか?
答えは決まっている。
不可能だ。
『信じるしか、無いのです』
レッドサンにはその声が信じているようには聞こえなかった。
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