【吉報】魔法少女が生まれました 9
「GUOOOO!!!」
フラワーサマーの剣によって魔獣の身体が両断され、断末魔を上げながら消滅する。
剣をしまい一息つくと周りから歓声が沸き上がった。
観戦している市民がまだいるのは先に着いたのが三人しかいなかった為に避難が十分にできなかったのだ。
スノーウィンターが結界を作り出して被害を広がらないようにしたとはいえ安全が確保されたわけではない。
被害を最小限に魔獣を倒せたのはこれまでの訓練の成果と言えるだろう。
とはいえ道路は破損し、車がいくつか横倒しになっている。
他にも壊されているものもあって近づくのはとても危険だ。
「とりあえず近づかれないようにしないと……」
「結界は解かない方がええなぁ」
「じゃあしばらく私たちもここにいる必要があるわけか」
フラワーサマーはうんざりしたように言う。
待たせている後輩もいるからあまり長居はするつもりはないのだ。
他の魔法少女もこの現場に向かってきているはずなので到着次第すぐに変わってもらおうと思いながら近くの変形したガードレールに腰かける。
それにしても結界の外からの視線が自分に向けられて居心地が悪かった。
「なぁ、なんでこんなに見られてんだ?」
「貴女が見たことも無い魔法少女だからじゃないの?
まぁ、それは私たちも同じだけれども」
「ウチらはまだ人前に立つようなことあまりしてないしなぁ。
ここまで大勢に見られるのは初めてや。
手でも振っとく?」
「やんない」
うんざりとした顔でフラワーサマーは気持ちを晴らそうと空を見上げた。
日が暮れて始めているとはいえ雲一つない綺麗な空だ。
だからだろう。
空に黒い点が現れたことに直ぐに気が付いた。
「おい、あれは何だかわかるか?」
「アレって?」
「ほら上の」
フラワーサマーが指差し、二人も空を見上げる。
黒い点は時代に大きくなりはじめ、人一人がすっぽりと覆いつくす程の大きさで止まった。
嫌な予感が脳裏をよぎる。
その予感に沿うようにその黒い点からぬるりと何者かが出てきた。
三人はそれに見覚えがあった。
「あいつはっ!?」
「病院の時にいたっ」
「魔人っ!!」
魔人は空を悠々と歩く。
そして楽しそうに笑いながら指をパチンと鳴らした。
街の中にあった液晶、展示されているテレビ、配信サイトの生放送にその魔人の姿が映し出された。
魔人はどこからともなく黒いマントを取り出し、自身に纏う。
すると成人男性の姿から身長2メートルを超え、シルクハットを被りピエロの仮面をつけた姿へと変えた。
魔人は舞台役者のように大げさに身振りを始める。
「やぁやぁ人類諸君!
私は魔人クラウン。
君たちが恐れる魔人の一人だ」
「てめぇ!何しに現れやがった!」
「何しに?
決まっているだろう?
魔人がやるのは人類の殲滅以外何がある?」
「っ!?」
「まぁまぁ安心してくれ。
単に私が手を下すのも簡単でつまらない。
なにより、エンターテインメント性がまるでないっ!」
故に、と魔人クラウンはマントの裾を掴んで身体を丸める。
「だから今回は彼に任せることにしよう!」
ガバリと身体を上げ、マントを広げる。
そこから現れる少年の姿を見てフラワーサマーたちは目を見張り、息を飲んだ。
「なんで、なんでお前がそこに……」
視線の先、クラウンの隣に立つのは、公園で自分たちの帰りを待っているはずの少年だったからだ。
「優紀っ!!」
優紀の目に、光はない。
□
魔法管理局指令室。
正面の大型モニターには魔人クラウンとその隣に浮く優紀の姿が映し出されていた。
「映像、あらゆるテレビ局や配信サイトをジャックされて放送されています!」
「電子的にも魔法的にも強固なプロテクトがかかって遮断ができません!」
「局長!各所からの問い合わせが来ています!?」
「放っておきなさいそんなの!
今は現状の対処法するのが先です!
近くにいる魔法少女を急行させて、周りの市民の非難を急ぎなさい!
警察にも要請を!早く!」
未来の指示に局員たちが返事をして手元のコンソールや通信機器を動かす。
その後、未来はモニターに映る映像を睨みつける様に見て、歯を砕いてしまうような強さで食いしばり、手に爪を喰い込ませる。
すると後ろの自動ドアが開き、写が入室してきた。
その傍らには幸次郎の姿もある。
「未来!これは!?」
「幸次郎……?
そうか、今日は貴方が来る予定だったわね……」
「そんなことはどうでもいい!
現状はどうなってるんだ!?」
「……どうもこうも見てのとおりよ」
「何とかならんのか!
よりによってなんで彼が!」
「うるさい!
今考えてる!」
詰め寄る幸次郎に未来は大声を上げて胸倉を掴む。
温厚で威厳のある姿をした未来しか知らない局員たちは、その荒げる様な様子を見て思わず手を止めてしまう。
中には身体を震わせて怯える者もいた。
「落ち着いてください。
お二人が争っていても仕方がないでしょう?」
「……」
「……」
「はい、落ち着いたようで何よりです」
その間に写が割り込んで仲裁する。
未来は掴んだ手を放し、幸次郎は崩れた服を直して深呼吸した。
未来も同じように深呼吸した後、ポツリと話始める。
「今は近くの魔法少女を向かわせています。
ただ、間に合うかどうかはわかりません。
今はその場にいる日夏さんたちに任せるしかないでしょう」
「その後もどうなるかわからないな……。
俺の所からも向かわせよう。
避難誘導にも人手はいるだろう」
「助かります」
幸次郎が通信端末を取り出して連絡を取る。
それと同時に映像に映る魔人が動きを見せた。
『さて皆様方。
隣にいるのは何の変哲もないただの少年。
それがどう魔法少女の相手にするのか?
とてもとても気になることでしょう?』
魔人クラウンは道化師のように見る者を煽る動きをして楽しそうに語る。
『疑問はすぐ解消!
取り出したるはこの摩訶不思議に輝くこの結晶です」
そして手首を返すと同時に、その手に野球のボールほどの大きさの結晶を握っていた。
それは怪しく輝いており、まともなものでないことがありありとわかる。
『これの名前は魔結晶。
その名前の通り、魔力の結晶ですよ。
まぁ魔力は魔力でも私たち魔人や魔獣の源である
それを大量にギュッ!と圧縮したものです。
皆様もご存じだとは思いますが。
この世界で魔物はあちら側の魔力を帯びて出来上がりますよねぇ?
とはいえ残りカスで出来上がる出来損ないで大して強くも無い不良品ばかりですが……。
でもふと思いついたんですよね。
もし残りカスではなく、大量に注入した場合どうなるのでしょうか?』
「……まさか!」
魔人クラウンの言葉を聞いて未来はハッとする。
写も幸次郎も同じように気が付いた。
『それをハイドーン!!』
魔人クラウンはその結晶を優紀の胸に押し当てる。
その結晶の輝きが増し、その身体にゆっくりと入っていく。
『ぐ、ああああああ!!!』
『そう!今まさに彼は変化する!
新たな姿に!』
やがて光に包まれた優紀はそのまま勢いよく落下し、魔法少女たちの前に落ちる。
光は収縮し、優紀が見え始めた。
いや、正しくは優紀だったもの言うべきか。
全身が鋼のような鱗に覆われており、人の形はしているがその腕は6本。
ゆっくりと上げた顔にはもう元の姿の面影が無く、赤い瞳が目の前の敵を睨みつけていた。
『Guoooooooooo!!!』
咆哮。
周りに残っていたものを吹き飛ばし、建物のガラスを破壊する。
化け物の産声だ。
それを見る魔人クラウンは高らかに祝福する。
『ハッピーバースデー!
人類諸君の新たなる脅威にして、我らの同胞!
人工魔人の誕生!
名前は……ヘカトンケイルとでも呼んであげましょうか?』
その
おぼろげでしか見えなかったものだが、その姿を見て確信する。
あの未来にいたのは、紛れもなくあの人工魔人だと。
未来は崩れ落ちる。
「未来さん!」
「未来!」
写と幸次郎は慌ててそれを支えた。
「春乃……私は……」
か細い声で呟く。
かつての親友の名を。
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