最終幕 


「お久しぶりです」 

「空雀さん。どうも。今日はお越し下さり有り難うございます」

 僕達は、仇敵だった虹色文庫を発刊している虹色新聞社に来ている。

 既に夜中。辺りは漆黒の闇に包まれている。

 応接室で僕達は虹色新聞編集長を待った。

「どうも」

 そして、その人は現れた。ある男達を連れて。


「お前は?!」


 僕の誰何すいかの声に、「やぁ」と答えた男……。


「葛木麿実! どうして、お前が此処に!」


「科学文部省主導で、これまで何が地球で起きたか歴史新聞を作る為だよ」


「孔雀の明皇様ですな。随分探しましたよ」

「あなたが……」


「はい。私が虹色新聞編集長、政家せいか宗十郎と申します」


「何?!」

「終末思想! 皆の心には破滅願望が渦巻いている。苦しい時代を終わらせる為の!」

「!」

「それは、警告の為に書かれている。未然に阻止したいのだ!」

 編集長の言葉に、甲乙龍之介が吠えた。

 風が吹く。

「そういう理論を阻止する為に書いたお父さんの小説は潰された! 何故だ?! 世界系と言われるライトノベルは、主人公を救世主として描き、読者を救世主に同一化させる! 乃白瑠! お前の書いている小説もそうだろ?」


「!」


「あなたの悲しみ、堕天したあなたの苦しみを皆が理解して欲しい! 決して、僕はあなたを倒そうとしているのではない! あなたは悪魔ではないからだ!」

 僕は叫んだ。

「じゃぁ、新人類、超能力者を登場させるファンタジー小説を実現しようとし、新人類誕生の為の、遺伝子の実験工場としての地球を再び作ろうとするのは、神とサタン、どっちなんだ!」

 編集長の舌鋒が、鋭く皆の心に突き刺さる。


「どっちの計画でもない。超能力者になりたいと欲するのは皆じゃないか! それを神とサタンのせいにして裁判で殺そうと言うのか!」

「天使か人間か……。戒律を守らせ天使を作る神と、教育されない人間を庇うサタン。共産主義者をサタンと定義してはいない。なぜなら戒律を守る常識人が倫理的な存在として神と言う超常的存在に寄らずに生きる存在が多いなら、宗教そのものがいらないと言っているだけで、宗教の否定=悪の論理の実践とは定義していないからだ。

 孝将父さんが叫んだ。

「甲乙龍之介! お前はファンタジー文庫の壊滅を狙っていた。それは、安易に超能力者になりたいと願って欲しくなかったからだろ?」

「乃白瑠君。その通りだ」


「いじめられっこだったお前が、人の悲しみを知って悪魔を庇おうと、漫画をバイブルにして読んでいたお前がよく成長した」

「!」

「悪魔になった者の家族の悲しみ! 犯罪者になった者達の家族の悲しみ! 明王だって、荒魂が改心してなったんじゃないのか!」


「昔読『真黙示録』。ジョシュア=クレメント氏の小説『ディプログラマー』をコミク化した漫画では、ベルギーのブリュッセルに『獣(ZOO)』と呼ばれる巨大なコンピューターがあると書かれてます。それは、事務処理的な人生の操りの指令だけを出すコンピューターであり、機械的なスパコンではない、天然のファジーなご指示を出す自由なシステムの方がいい。例えば、小説なら、かっこ内の会話は自由に、その調停をする太陽神。地の文で、庇う方向で進む天然の方向性さえ確定していれば、自由な世界、天国になると思う)


(あなたが獲得した全ての人生の知識を小説に詰め込んで!)


 泣いていた、と思う。心の中で。それでも黙って、楓さんは聞いていた。

 楓さんの、その愛が、『魔法がきこえる』の結末の一つの形なのだろうか……。

 

 僕は此処で、ペンを置く。

 空雀さんの意志、甲乙龍之介さんが僕に書いてくれと頼んだ小説を今僕は書き上げた。

 星々の涙。小説家が発する心の物語は、流れ始めた。この物語が、別の太陽系の太陽から光として発せられ、その太陽系の惑星で歴史が作られるとしたら?

 それは怖い事だ。

 歴史は辛い。悲しみが数多く存在するからだ。だから、夢物語を紡ぐファンタジーに希望を持ちたい。

 汀。

 渚。

 パシフィックオーシャンは、太平な海。

 荒れない海。

 静かな心を持つイザナギ。

 先に異性に声をかけるのが女性だといけないと記紀に書かれている。

 男の意志で女性に接する事がよいとされる古事記、日本書紀神話。

 女性がわがまま自己中心的エゴイズムではなく、女性の鏡としての大和撫子が、や八咫鏡として、女性に自分を認識させるものなら、鏡で自分を確認し、有りようを知ってからの対応を、古事記、日本書紀で示しているのだ。

 自分の性格を示した時、世界中の小説の中で、一番最適なキャラを示すアプリの開発。

 そのアプリは、小説宣伝、販売の入り口になるかもしれない。

 キャラ占い。

 その日のなりきりキャラ占い。

 新興宗教が認めない占い。

 占い師が知っている事を、メアファーで警告するパターンもあるかもしれない。


 僕、明王 乃白瑠ノベルは、煙草の先に火を点ける。


 東京が死んだ都市になった時。冬、体を温める術として、煙草を吸う人が持つライターは、自分達を救うだろうと、アイドルグループの男優さんが、JTのCMに出た。

 

 火は肉を焼く。

 

 水で野菜を洗う。


 火と水の洗礼が、カシュルートとしてヘブライの食料戒律だっただけなら、この世の終末に世界が滅ぶ予言などあるのだろうか?


 世界の終わりを警告する雑誌で、悲観した青少年が暴徒化した時、


 この世の中はファンタジー世界になる……。

                              

                                                                                                                 了


 

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剣劇文庫 飯沼孝行 ペンネーム 篁石碁 @Takamura-ishigo-chu-2-chu-gumi

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