番外編その24 逃げる衣織
私の告白はあっさりとしたものだった。
「ねえ、鳴。やっぱり私、鳴が好きみたい」
通学路でなるべく自然に振るいながら告白した。
それに対する鳴の返答も。
「あ、そうなんですね」
とても、あっさりしたものだった。
それはまあ、私の告白があまりにもあっさりしすぎていて、鳴が告白と受け止めてなかったからだと思う。それでも私の心臓はバクバクだった。
でも、流石にこれでは終わらなかった。
「い、衣織……今なんて……」
しばらくすると激しく動揺した鳴が私の言葉を聞き直した。
そりゃ動揺もするだろう。
告白なんて雰囲気……1ミリも出していなかったのだから。
「私、鳴が好き」
もう一度、仕切り直しで告白しても、鳴は黙って見つめるだけで、すぐに答えを返そうとしなかった。
困っているようにも見える。
……これは、もしかして。
突然のことで驚いたのもあるだろうけど——幼馴染で元カノの
鳴が答えをすぐに返せないのは、彼女の影響があるんじゃないだろうか。
彼女から振っておいて、彼女がまだ鳴のことを好きなのは謎だけど……もしかして鳴も愛夏さんの事が好き?
——自分の気持ちを伝えることだけに、対面ばかりに目がいって、肝心な鳴の気持ちを見落としていたってこと?
いくら恋が盲目とはいえ……これって致命的なのでは。
そう考えると、答えを聞くのが急に怖くなってきた。
「返事は今すぐじゃなくていいわ」
「衣織……」
「でも、ちゃんと聞かせてね」
「はい」
私はこの場をそれっぽい言葉で取り繕って——逃げた。
*
教室についても不安でたまらない気持ちは消えなかった。
告白するまでは、あんなにも幸せな気持ちでいっぱいだったのに。
せめて放課後に告白しておけば、気持ちを整理する時間もできたっていうのに。
今は答え——聞きたくない。
机に突っ伏してそんな事を考えていると、教室が騒めき始めた。
「おい、今朝の一年がきたぞ」
騒めきの正体は鳴だった。
……もしかして、もう答えを伝えにきたのだろうか。
ごめん鳴……今は無理!
鳴の答えを聞きたくない一心で、教室から逃げ出そうとすると、入り口を出たところで鳴と鉢合わせした。
「あれ、鳴どうしたの?」
どうしたも何も、鳴は答えを伝えに来たに決まっている。
「あの、衣織……たいせ「あ、ごめん後にしてくれない?」」
「え」
「もうすぐ授業だし、用があるなら昼休みでいい?」
「そんなに時間はとらせないけど……」
「ごめん、急いでるから、また昼休みにね!」
私はまた逃げた。
全力で逃げた。
自分で自分が嫌になるぐらい、私はチキンだった。
————————
【あとがき】
衣織の気持ちも分かります!
ちょっと彼女にしては意外な振る舞いですけど……。
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幼馴染にフラれた僕が何故か学園のアイドルに告白されて平穏な日々を失った 逢坂こひる @minaiosaka
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