内気な後輩が実はめちゃくちゃドSだった件。

門崎タッタ

第1話

 ガラガラと音が鳴るほど古びた扉を開く。この図書室に通い始めた当初は煩わしく感じていたこの音も、今では自分の生活の一部となり、いつしか全く気にすることが無くなった。


 …扉の開閉音が気にならなくなるほど、神経を一点に集中させるほどのを鞄に入れ、抱えているという理由もあるのだが。


 自分がベストプレイスとして勝手に定めている席に座ると、小脇に抱えた鞄を机の上に置き、一息つく。


 辺りを見渡すと、熱心に読書をしている者や、三年生だろうか、赤本を用いて、受験勉強に勤しむ者などがいる。


 中には、暖房が効いているからと言う理由で、マナー違反を気にせず大声で雑談をしている者もいる。実に嘆かわしいことだ。図書室は学生として、真面目に生きる者のためにある場だ。決して邪な思いで汚してはいけない神聖な場所なのだ。


 気を取り直し、カバンを開くと、対面座席に、同じ図書委員会の後輩が着席したことに気がつく。


 自分にとって、かなり数少ない異性の友人である彼女は、図書室から発行されている図書館便りの作成の仕事で、偶然一緒の担当になってから、お気に入りの作家などを話し合ったり、自分が好きな本を紹介しあって、貸し借りを行うためにLINEで頻繁にやりとりをするくらいは親しい仲なのである。


 図書室のマナーに準拠し、お互いに声を発さずに会釈で挨拶を済ます。


 先程、持参してきた鞄から本を取り出し、自分が図書室にやって来た本来の目的を果たそうと読書を始める。


 因みに今、俺が読んでいる本のジャンルはジュブナイルポルノと呼ばれる物だ。


 ……このジャンルを説明すると、あまり公の場で声を大にして言えないのだが、俗に言うライトノベル調の挿絵が入っている官能小説ということになる。


 大体察している人もいると思うが、俺はこういった公共の場で、他人にバレないように官能小説を読むことによりスリルと興奮を覚えている、カテゴライズするとと呼ばれる人間である。


 ちらりと対面に座る後輩の顔を見る。よく手入れされている黒髪の長さはセミロングと言われるほどの長さで、前髪が目にかかっているため、一見地味に感じるが、よく見るとかなり整った顔立ちをしている。


 そんな彼女も俺には目もくれず、全集中を自分が読む本に捧げている。


 まさか目の前にいる男が官能小説を読んでいるなどと、夢にも思わないだろう。


 自分の異常性にはもちろん自覚はある。しかし、つい半年前に自分の本性に気づいた時から、自分の歪曲した行動がいつ周りの人間にバレるかというスリルに陶酔してしまった俺には、もう辞めることなどできるはずがなかった。


 至福の時間はまるで泡沫のように、昼休みの終了を知らせるチャイムによって終わりを告げる。


 読んでいた官能小説を鞄に入れて、図書室を去ろうとする俺に声が掛けられる。



 「先輩、放課後に時間ってありますか?先輩がよろしければ、先日に先輩から借りた本の感想を話したいと思っているんですけど…」



 「あぁ、普通に暇だから大丈夫。俺も借りた恋愛小説の感想を話すよ。場所はいつもの喫茶店でいい?」



 他の人に比べかなり内省的な性格をしている彼女は、面と向かって話す時、必ず相手の顔色を伺って話しているように感じる。


 変に気負わせることがないように、明るい声色を意識しながら、そう答えると、彼女はすぐに頷き、その場を去っていった。


 午後の授業が始まることを考え、鬱屈としていた気分が急に晴れやかなものになるのを感じた。


 放課後のささやかな楽しみを胸に、俺は教室までの道を歩いた。

 

 


 


 

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