第2話
第五限のグループディスカッション形式の日本史の授業が始まる。
席の近いもの同士で4人グループを作り、教師の提示したテーマについて、各班の意見をまとめて、それぞれの班で発表する授業だったのだが、グループの班員が比較的、予習などを授業前に済ます勤勉な人が多かったことが災いし、かなり早い段階で班の意見をまとめることができた。
「なぁ元井ってさ、一個下の古田ちゃんって子と付き合ってるって本当?」
中学からの友人である矢島がそう俺に問いかけて来た。
「一緒に遊んだりはするけど、付き合ってはねーよ」
「本当かぁ?古田ちゃんって俺の後輩の話じゃ、男が苦手だって有名なんだってよ。それなのに、たまにお前と一緒に帰ったりしてるから一年の中では、二年生の彼氏がいるって噂になってるらしいぜ?」
矢島は野球部に所属しており、男子の後輩はもちろん、マネージャーとして、部活に在籍している女子の後輩にも接点がある。
中学の頃から根っからの噂好きで、他人に対して物怖じすることのない性格であるため、後輩から仕入れた噂の真偽を早く確認したいのだろう。
普段は鬱陶しく思うが、実を言うと、俺はこの性格に結構助けられている。矢島の情報収集能力ならば、俺が図書室で官能小説を読んでいることが周りの人にバレたのならば噂となって広がり、矢島はすぐに俺に対して噂の確認をするだろう。
矢島が、その話題を俺に振らないということはとどのつまり、俺の変態行為は周りにはまだバレていないということを示している。
「お前だって、彼女でもない女の子と遊んだりする経験ぐらいあるだろ。それとも一緒に遊んだことがある子は全員、お前の彼女だっていうのか?」
「そんな訳ねぇだろ。そりゃ女の子入れて大人数で遊んだことはあってもよ、一対一はこの俺でもまだないっつーの!」
下らない話をしている内に、班の中の代表者を決めて、それぞれの班の意見を発表する時間となった。
話を即座に切り上げて、発表者を誰にするか班内で話し合う。その後、矢島がこの話題を掘り返すことはなかった。
◇
◇
「最終章で連続殺人事件の犯人が語り手だったとわかるまでの叙述トリックがとても良かったです!」
「めっちゃわかる!よく読み込むと、描写を曖昧に濁すことで別の行動に見せかけたりしてるんだよな!」
普段は、長時間会話をすることがない彼女もお互いが貸し借りした本の感想を語り合うときは、満面の笑みを浮かべながら、声を弾ませて自分の考察を語る。
喫茶店に入って数時間、飲み物の容器は既に空になっており、窓を見ると、夜の帳がおりていた。少々名残惜しいが、お互いに帰り支度を始める。
「そういえば、この本とても面白かったよ、貸してくれてありがとう。」
自分が貸した本と交換する形で、彼女に借りた本を手渡す。
割り勘で会計を済ませて、そのまま喫茶店の前で解散し、帰路に着く。
家に到着し、自分の部屋に入り、本の整理をしようと鞄を開けると、とある違和感に気づく。
「あれ、今日学校に持ち込んだ、官能小説ってこんな分厚かったっけ?」
思ったことを不意に口に出した瞬間、胸中がやけにざわつくのを感じた。
自分は特に本のカバーについては拘りは無く、いつも適当に選んでいる。彼女に借りた本と、自分が今日学校に持ち込んだ官能小説はカバーが同じ種類のものだった。
冷や汗が背中を滴る。やけに重苦しく感じる手つきで、問題となる本のカバーを取る。
そこには喫茶店で返したはずの、彼女に借りた恋愛小説がそこにあった。
「………あっ………終わったッ………」
俺が無意識に発したその言葉が今の俺の全てを物語っていた。
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