フロート2‐4

 幸いにもメアリは操作を学んでいる。


 おっかなびっくりではあるが、フロートへの触れ方や体重のかけ方は回数を重ねるごとにスムーズになっていくのが見て取れる。


 メアリは不意に「うまくなって……いるかな?」と私に尋ねる。

 その言葉に私は「良くなってきているよ」と返す。それを使うことに抵抗がない様子なら、あとは彼女が使ううちに慣れていくはず。


「お昼で暑いし……一休ひとやすみしよっか」


 私はフロート正面の上側に長く触れる。触れた箇所は淡い緑色の光を放つ。

 しばらくして、フロートは彼女を支えるクッションがしぼむと同時に後方が割れて開く。


「今みたいに、正面に長く手を触れていると解除できるようにしたから――」


 聞こえているのだろうか。

 メアリは腕と顎をフロートに載せて、もたれかかっている。

 やはり一休みだ。暑さと初めてのことで疲れてしまったらしい。


「プールに入った方が休まるよ」

「もう少しだけ……」


 メアリは溶けたようにフロートから動かない。

 このまま熱中症になっても困る。飲み物を用意したらプールまで運ぼう。


「涼しくなったら、この建物の中を見て回るのはどう?」


 返事はない。今日はこのままお休みか。

 それもいいか。急ぐことはない。


「さて、俺もプールに入ろうかな」


 その言葉に飛び起きたメアリ。


「私も入る!」


 フロートをまた叩いてしまったらしい。私が注意しようと視線を向けた時には、フロートも彼女も横方向にゆったりくるくると回る。

 間の抜けたメアリの悲鳴とそのシュールなさまに私も力が抜ける。

 

 もうじき昼下がり。天気はプール日和びよりか。

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Journey with Mermaid ~人魚姫と終末旅行~ 八雲ヨシツネ @Colindale

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