第5話 ささやき


月の出ない夜は街路のカンテラを消す。

それがこの村の決まりだ。

かつては星が綺麗に見えていたかららしいんだけど、今は別の理由で消していないといけない。

「あいつ」に見つかるといけないからね。


「あいつ」は闇の中に浮かぶ明かりを目指してやってくるから、真っ暗闇の中では動かなくなる。


「あいつ」が動いていると音がするんだ。


もぞりというか、がさりというか闇の中でもはっきりいるぞと、「あいつ」の方から伝えてくるんだ。


「あいつ」に運悪く出くわしても、対処法はある。


何も言わないことだ。


具体的にはものの名前を一言だって口にしない。


「あいつ」は人間から言葉を奪いたいらしくて、その暗闇でも見える馬鹿でかい目で催促するんだそうだ。


名前をくれって。


まぁ、普通に逃げればいいんだけどさ。


明かりがあるとあいつは追ってくる。


だからカンテラを消しておく。


カンテラのない暗闇をどうやって逃げるのかって?


うーん、それは分からないなぁ。


無事に逃げ延びたやつを、おれは見たことがないから。


腕の一本か二本、折れてるやつなら見たことあるけどさ。


だから月の出ない夜は外に出ない。


老いも若いもそうしてる。


子どもが、出ていけるわけないでしょ?

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イェドと少年 遠影此方 @shapeless01

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