4 物語における「異界」という装置

物語において「異界」はどのような役割を持つか。


これについては前章の空海についての中で語った「外の権威」である。

※以下2つを参照

4 外の権威

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894714390/episodes/16816452220477579278

5 外の権威の例とその継承性について

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894714390/episodes/16816452220478106460


主観的な内に対する客観的かつ超越的な外として、その行為あるいは性質の正当性・妥当性を保証するもの。

古代ギリシャの劇における、機械仕掛けの神アポ・メーカネース・テオスαπο μηχανης θεοςだって、機械仕掛けであれ、「神」という超越的存在だから比較的受け入れられたわけで……deus ex machinaちゃうんかて? いやだってそれだとラテン語だし、せっかくだから古典ギリシャ語の方で。気息音とされるχとθの完全カタカナ転写は難しいけども。

……とはいえ、今ここで指した「物語」はどちらかと言えば、説話・伝説・神話・昔話等を指す物語として、である。

それらの物語を「元ネタ」として持つ場合、ひねらない限りは同じように「異界」によって保証がなされはする。


これは宗教・信仰ベースの世界観を素地とした場合の話である。

科学ベースの世界観における「異界」の役割はそこまで広範ではない。


科学が「解析して暴き、定義づけ、体系づける」のであれば、科学の「内」が保障するのは「既知の範囲」である。

既知の対義語が未知である以上、科学を規範とした世界観における「外」、つまり「異界」となるのは「未知」である。

ただ、現代の物語における「未知」には二つの様相がある、と考えられる。


一つが、「知られていない」パターン。

もう一つが、「解明されていない」パターン。


同じ事のように思えるが、全く違う。

前者は、その未知が認識されている(なんなら解析もされてることもある)が、秘匿されているパターン。

後者は、そもそもその時点の科学で解明できない、あるいはされるべきでないパターン。

この二つの「外」を絡めて現代の物語は作られていると思われる。


前者は、ボーイミーツガール型の伝奇ものとか、現代ファンタジー系が多い気がする。

一般には秘匿されてるけど、それと戦う何かの組織とかよくある設定だよね、うん。

具体例だと、『灼眼のシャナ』とか、『断章のグリム』とか、戦う組織っていうのとは少し違うけど、『Fate/Stay Night』とか『ハリー・ポッター』とか『ダレン・シャン』とかも前者の文脈だよねえ……

後者はホラーを主軸にした時によくあるパターンじゃないかな。科学では解明できない超越的現象もあったりするので、信仰・宗教の世界観の異界と繋がる場合もある。

『Missing』とか『十二国記』とかはこっちに近い感じもする。

※読書遍歴がだだ漏れだけど、甲田先生がいっとう大好きです。


とはいえ、実際には多種多様な組み合わせと利用の上で成り立っている。最早、内と外の二項対立だけでは単純過ぎて満足できない域まで文明は進んでいる。

簡単に言うと大体前者と後者はごちゃまぜで、塩梅あんばい次第しだいかたより方は如何様いかようにも変わる。

まあ大体、現代と同じ世界観の場合、


┌─物語上の世界観──┐

│┌現実世界┐┌──┐│

││┌──┐││敵 ││

│││日常│││とか││

││└──┘││  ││

││日常の外││  ││

│└────┘└──┘│

└──────────┘


こんな作り。

うっかりメタまで入ってくると


┌─我々の現実(メタ)──┐

│┌─物語上の世界観──┐│

││┌現実世界┐┌──┐││

│││┌──┐││敵 │││

││││日常│││とか│││

│││└──┘││  │││

│││日常の外││  │││

││└────┘└──┘││

│└──────────┘│

└────────────┘


こんな感じ。(フォントはゴシック推奨)


現代と同じ世界観でない場合はというと、その世界観がどういうものかにもよるんだけど、『守り人』シリーズの場合、あれは完全に宗教・信仰の世界観テンプレートがある世界なので、正にサグが内でナユグが異界という外で……まあ上橋さんのご専門(文化人類学)考えれば、そりゃこの辺りきっちりしますわよね……


とまあ、長々と語ってしまったわけですが。

結論として、現代ファンタジーや伝奇ものの文脈における異界=未知=外の役割は、「日常という内の主人公を物語の舞台に引きずり出すこと」と考えられる。


『灼眼のシャナ』の物語が始まるのは悠二ゆうじ(日常)がシャナ(非日常)と出会うところからだし、『断章のグリム』だって蒼衣あおい(日常)と雪乃さん(非日常)の出会いだし、『Fate/Stay Night』だって一応の日常から聖杯戦争に引っ張り出されるし、『ハリー・ポッター』はハグリッドが迎えに来るし、『ダレン・シャン』はサーカスという非日常につられたわけだし、『Missing』はまず魔王陛下が異界に連れ去られた事でごく一般人だった武巳たけみくんが一般人から逸脱してくし、『十二国記』は勿論もちろん景麒けいきが陽子を迎えに来てから話が始まるわけですな。枚挙に暇がなーい。


まあ、当然ひねりも有り得るわけで、『戯言』シリーズや『人間』シリーズだと普通の日常からすれば「外」に属する人を主軸にして内外を転倒させてる部分があるし、『怪盗クイーン』とかも外と外と外と内みたいなところある気がする。

※読書遍歴がまただだ漏れ


というわけで、一般人を主人公に足らせるための付加価値として、主人公に対して外からの干渉があるとするなら、究極「外の権威」自体にあまり変わりはなく、より狭く、現実的、具体的になったとも言えるのである。


……余談として、『断章のグリム』を読んだことある方には伝わるだろうけど、「蒼衣あおい(日常)」って書いて、なんとも言えない気分になった。

※気になる方は2021年7月現在電子版発売中の甲田学人先生の断章のグリムをご覧ください(布教)ただし、精神への爪痕が人によってはえぐいから事前に前評判を確認しとくことオススメ。

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