4 外の権威

「外の権威」の権威はそのままとして、ここでいう「外」とは何か。


神話や物語の上で言うと、この「外」は「異界」である。


この「異界」の概念については、小松和彦氏の『異界と日本人』が詳しい。

氏はその序章の中で、人が成長の中で世界を「慣れ親しんでいる既知の領域とそうではない未知の領域」に分けて考えるようになると語る。

この考え方における既知の領域を「秩序付けられた友好的な世界」、「『われわれ』として分類できる者たちの住んでいる世界」、未知の領域を「危険に満ちた無秩序な世界」、「『かれら』として分類できるような者たちの住む世界」とし、それが「人間世界」と「異界」であるという。

また、関心のありよう、分類のレベルによって、その対立関係はさまざまに変容するという。

具体例として、氏が挙げているのは以下の通りである。


 ・自分の属する家族や親族⇔それ以外の人びと

 ・自分の属する村や町、国の人びと⇔それ以外の人びと

 ・生きている者⇔死んでいる者

 ・人間が制御している動物(家畜やペット)や植物(栽培植物)⇔野生の動物や植物

 ・人間⇔神や妖怪

 (以上、「われわれ」⇔「かれら」の関係で記述)


氏の定義で言う「かれら」が「外の権威」における「外」であり、よってこれ以降「われわれ」側を「内」と表記する。

また、この「内外」は、つまるところ「人間世界」⇔「異界」という関係性である。


というわけで、前項の例の外っぷりを確認したい。

 ・蛇婿へびむこ水乞みずこい型における蛙報恩かえるほうおん

 →助力者はを生活圏とするである蛙

 ・蛇婿へびむこ水乞みずこい型亜種とも目される蟹報恩かにほうおん

 →助力者はを生活圏とするである蟹

 ・グリム童話の「ふたり兄弟」において命を助ける代わりに従者となった動物の子供たち

 →助力者である動物たちはもともと、に生息していた

 ・継子ままこいじめの「米福粟福こめふくあわふく」系で登場する山姥やまんば

 →助力者はにいる

 ・「笠地蔵」で地蔵

 →助力者は。六地蔵なので寺か墓場か道端に建てられていると考えられるが、たぶんに建てられてるタイプ。

 ・グリム童話の「ホレおばさん」

 →助力者はの底の別世界に住む、ゲルマンの大地母神であるという

 ・グリム童話の「森の中の三人のこびと」の三人の小人

 →助力者はの中にいるたち。この場合の小人は妖精などと一緒であり、日本的には妖怪や神にも近い。


そして、水中も辻(道が交わる場所=道の境であるため)も山も井戸(cf.小野篁と六道珍皇寺の井戸)も森も、異界或いは異界との境の表象であり、つまるところ、人から見た「外」であり、そこに属している助言者達もまた「人ではない」=「外」である。


また、江戸期辺りまでの「内」の概念として、「社会構成員」と言えるべき概念があることも理解していただきたい。

ここに属するのは「成人した青年から壮年の一般男女」と言える。

この「社会構成員」が「内」の概念になっている場合の「外」は、「子供」、「老人」、あるいは「ある種の権力者(僧など、村という社会システム上のヒエラルキー外)」などが該当する。

同じく「外」に属する事が多いためか、物語において、神はよく「老人」や「子供」の姿を介して現れる。

(cf.酒呑童子退治伝承の神便鬼毒酒を渡した八幡神ら、記紀の崇神天皇条における少女=子供の予言歌)


……まあ、この「社会構成員」を基準にした「内外」も割とワールドワイドっぽいが、衣類・装飾品や髪型の方に適用されたり、若干基準が違いそうだったりするので、物語方面はちょっとばかり根拠に欠けるのよね。例えばディアンドルのエプロンの結び目とか。

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