40話 ようこそ、 "Battle Surmount Reality" の世界へ!

 「チィーッス。巡回終わりやしたー。あれ、珍しいっすね、隊長がこっちの兵舎にいるなんて」


 「おい海人。お前また一人で偵察任務やってたのか! 何度言ったらわかるんだ、行動原則は三人一組だ。身勝手な行動をするじゃない!」


 「いいじゃないッスか。それに俺ならどんな相手がこようと勝てますから」


 「お前はまだ実戦の怖さを知らないな。ちょっと前に簡単な露払いを任せただけでいい気になりやがって。それはそうと、戦歴はきちんと読んでいるのか?」


 「なんすかそれ?」


 「呆れた奴だ……。我々の戦いの記録、約三年分全てに目を通せと散々言ってきたはずだぞ。おら、このタブレット使え。能力戦は情報が全てだ。きちんと能力の怖さを認識して対策を考えろ! 読み終えてレポート提出するまでお前は謹慎だ!」


 「マジかよ。わかった、読めばいいんだろ。ッたく、古い人間ってのはどうしてこう規則規則とうるせえのか……」


 「聞こえているぞ、馬鹿者」


 「おー、やっぱ昔のは戦果すごいッスね。ほぼ全面勝利で埋まって……。おっ、一つだけ完全敗北がある、珍しっ。二年半前って言ったら、まだ“養殖兵”が全然いなかった頃じゃないっスか? 戦略的撤退とかなら兎も角、能力無しどもに負けるなんて。間抜けな奴らも居たもんだ」


 「まだ“オリジナル”にも他派閥があった時代だ。お前、間違っても俺以外にそんな口叩くなよ……。特にミカゲとかな。まあ幹部クラスに同じ喋り方する馬鹿じゃないとは思っているが」


 「わかってますよ~。アッハッハ、戦果ボロボロだ。ちょっと興味湧いてきたぞ。真面目に読んでみるか」




 ※   ※    ※




 全面敗北

 作戦日時:2026/9/18/14:00

 場所:神奈川県某市 C級エリア

 目的:エリア制圧及び能力者の確保

 戦果:軽傷者17名、重傷者4名、死者3名。敵陣営損傷認められず撤退。

    能力者2名を目視にて確認。“オリジナル”と推定。

 

 詳細

 本作戦は3人1組の基本小隊10組にて作戦行動を行った。1番、2番、3番、4番隊として、海に囲われたエリアの北側に蓋をするよう包囲をし、制圧することを基本的な作戦とした。 過去聖域にて圧倒的強さを誇ったTLAなるタッグがいるとの情報あり。他少数の“オリジナル”が潜伏中とのこと。“養殖兵”は確認されず。

 事前偵察に向かわせた1小隊は、作戦エリア3km前から霧に包まれているとの報告以降、応答が途切れる。数的優位を生かし、正面突破を決行。霧が立ちこむエリアに入ると電波も念話も使用不可能になる。「通行禁止」の念話が一方的に流れてくるものの各隊前進。

 視界が悪くなる一方、1番隊からは次々と何者かに足の腱を切られる者が続出し、無事残ったものも救助の為離脱。感知系の能力が使用できるものが4名居たものの、いずれも対象を発見することはできなかった。

 2番隊は降り注ぐ鉄の槍に対し氷の傘を形成。雷撃や水撃等の様々な波状攻撃に対し暫くは凌ぎきるものの、半径4km以内には敵の姿が見えない為、反撃すること能わず。尚前進するも、飛翔してきた矢を防ぎきれず防戦の要となる能力者が死亡。方向を突き止め遠隔攻撃で対応するも、依然攻撃止まず撤退。

 3番隊、4番隊は作戦エリア直前まで進むが、それぞれTLAの炎使い、鎧を着た念動力使いに阻まれ戦闘。3番隊が対峙する炎使いは好戦的かつ残忍で、使用する能力は炎にまつわるもののみであったが、その力は絶大であった。こちらの防御が意味を成さず、攻撃する間もないままに2名が死亡、4名が重傷。これらは偵察部隊が発見し、回収。追撃の様子は無かった。

 4番隊は鎧を着た念動力使いと対峙した。彼は無数の鉄板を自在に動かし牽制と防御を行う。こちらは善戦するもダメージを与えることができず、またもや人知れず足の腱を切られるものが続出。退却に追い込まれるが、追撃されることはなかった。

 以上により全部隊撤退。TLAのメンバー以外は目視すら出来なかったが、他に能力者が3名以上はいるとのこと。特に1番隊と2番隊が対峙した能力者(達?)は未だ解析ができず。かなりの戦力を有すること。情報が不透明であること。戦闘リスクと制圧リターンのつり合いが取れるとは思えないこと。以上をもって、当該エリアを現時点より特S級に認定することを提案する。




 ※    ※   ※

 



 「おお、すげえ! 小隊十組が手も足も出ないなんてあるのかぁ。ちょっとワクワクしてきた、俺行ってきます!!!」


 「待て待て、全然わかってねえじゃねえか。お前如きが行ったところで返り討ちに合うだけだと……あ、お疲れ様です! ミカゲさん!」


 「よぉ、横手さん。また海人の説教か? 調子に乗っててうぜえのはわかるが、ほどほどにな。“オリジナル”には自由が必要だ」


 「あ、ミカゲさん。この戦歴マジっすか? 俺達“声の教団”も三年前より強くなってるだろうし、ここ行きたいんすけど!」


 「そうかそうか、やる気があるのはいいことだ。俺もあそこにいるであろう奴に借りがあるしな。そろそろ交渉に行きてえと思ってたんだ」


 「いいッスね! 早速行きましょう! “養殖兵”じゃなくて“オリジナル”と戦えるなんて! すっげえワクワクするぜ!」


 「おうおう、思いついたが吉日。早速準備にかかるか!」


 「お待ちください、ミカゲ様! 前回のような大部隊、すぐに揃えるなど……」


 「いいんだよ、今回は少数精鋭だ。それに、俺は顔が割れてる。まあちょっと話にいくだけだ。じゃれあう事はあるかもしれねえがな」


 「よっしゃ! 結華とシノも呼んできます! 行くぜ行くぜー!」




 ※    ※     ※




 この町で一番高い場所。その中の一つがこのマンションの屋上だ。仰向けになりながら目を瞑る。いつも下に敷くものを持ってこようと思って忘れているのだが、枕代わりに組んだ手を浮かせることで事なきが得られてしまうのでこれからも忘れ続けるだろう。

 この三年、とりかかったシティシミュレーションは想定よりもかなり楽なゲームだった。私の仕事と言えば、町の警備業務と発電媒体の供給が少々といったところだ。市民が優秀というのも考えものだ。とくに手を組んだ両タッグのブレイン、アナライザー二人を連れてきたのは大いに間違いであった。私が計画を話して以降、彼らだけで町内部の運営が完結してしまうようになってしまった。まったく、しょうがない奴らだ。

 この町に来た半年は近場で戦乱のおこることもあったが、今となっては平和そのものだ。半径二十キロに動きは無い。と思っていた矢先、直ぐ近くで見えない気配が猛スピードで近づいてくるのが分かる。


 「公麿~~~!」


 虚空から突如現れる優乃華からタックルを喰らい、ゲフッっと肺の中身が吐き出される。未だに消えた優乃華を捉えるのは難しい。


 「いつもいつも帰ってくる度に体当たりかますのをやめてくれ。俺の集中力が持たない」


 「別にいつも気を張ってなくてもいいじゃないッスか。町の外の様子はいつも通りッスね。相変わらず、国連軍と“声の教団”がやりあってるッス。国連軍側が育成していた“養殖兵”も結構能力がサマになってきたっぽくて、押し返してるッスよ」


 「そうか、情報収集ご苦労。暫くはこっちで休んでいくと良い。」


 「暫くといわず、ずっとでいいじゃないッスか。どうせもう、どっちもこの町には攻めてこないッスよ」


 「そうか、まあ私一人いればなんとかなるし、いいっちゃいいのだが……」


 「そんなことより! 香澄が能力使い始めちゃって、古本屋のおばあちゃんの家が大変になるからちょっと封じてくれって」


 「我が娘ながら発現が早いな。しかたない、今すぐに降りていくか」


 「あとあと、また穂村が仕事サボってどっかいっちゃったらしいから、連れ帰って欲しいらしいっす」


 「それなら対応済みだ。居場所を製鉄のおっさんに伝えてある。少しは湊を見習ってほしいところだ……おっと、北北東方向から来客のようだ。優乃華、とりあえず霧」


 「人使い荒いッスねえ。さっさと終わらせて香澄どうにかするッスよ!」


 優乃華が走っていき、マンションから飛び降り、そして消える。今回は元TLAの二人に声をかける必要はないだろう。見覚えのあるオーラが一つに、取り巻きが三人。優乃華に少し遊んでやれと伝え、私の体もビルから投げうつ。


 「さて、久方ぶりのお客様だ。折角だから一人くらい招いてやってもいいか。俺達の作った町に」


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弓兵ニートとシノビ女子高生の、勝利を目指すゲーム生活 もくはずし @mokuhazushi

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