第8話 錬金術師の頼みごと

 

「スペンサー存命時、かれの工房から直接銀人たちに供給された銀弾、『スペンサーの銀弾』か。彼が死んでから200年が経つ。もうとっくに無いと思ってたが」


 凄いブツを見つけてしまったな。

 魔銃はすべてスペンサーの工房でつくられた特注品。

 彼の死後、それぞれの銀人によって改造やら、修理やらが行われてきたが、もとを辿ればすべてはまったく同じ″魔導狙撃銃スペンサー″だ。


 俺のもつ魔導短銃フィス・スペンサーでさえ、銃身バレル握り手グリップをおおはばに削り、取り回しやすく、携帯しやすくした、近接用のカスタムーー魔導狙撃銃スペンサーの派生にすぎない。


 今となっては、そんな魔銃の弾はすべて魔銃使い自らが、作成しなければならないが、もし使えるのならば、魔銃を作った工房が、それのために全く同じ規格でつくりだした弾を使ったほうがいいに決まっている。


 魔銃はスペンサー製、弾は自家製などでは、どうしても誤差が生まれて、精度にも、威力にも限界があるというものなのだ。


「ふふふ、ご老人、良いものを持ってるじゃないですか。でも弾だけもってても仕方ないですね。その弾3発と、おもてにおいてある馬2頭を交換しましょう」


 スペンサーの銀弾は、特別な銀弾だ。

 きっと、薬室にいれただけで、魔導狙撃銃が踊りだすことだろう。


「ふん、誰がやると言った。あいにくとこれは売り物じゃない。あの娘を置いていってもやれんわな」

「俺だって、その素晴らしい銀弾を3つ積まれても、キナコ二世はあげませんよ」

「ふん……。では、話を戻すぞ。おぬしにはこれと同じものを作ってほしいのじゃ」


 店主は淡々とした声でそういった。


「あの、俺の話聞いてました? それが出来たら苦労ないって話です。再現できないからこそスペンサーの銀弾は特別なんですから」

「ふん、じゃから、わからんのか。ここまで示しておいて、嘆かわしいことじゃな」


 おん? なんだ、この爺さん、やるのか。


「銀人、おぬしの作った銀弾を見せろい」


 腰からフィス・スペンサーをぬいて、炸裂水銀弾さくれつすいぎんだんのかわりに、込めていた狙撃用の徹甲銀弾てっこうぎんだんを薬室からぬきとる。


「むっ……スペンサーの銀弾よりだいぶん縦に長いのう」

「師匠から教わった弾のサイズはそれでしたけどね。いつも問題なく撃ててます」

「ふむ、スペンサーの使った『あお火薬かやく』の正体がわからないから、火薬量を増やして、無理矢理に威力をちかづけようとしたのかもしれんな。強引じゃが、バレルに入れば撃てるには撃てる……じゃが、こんなシロモノが本物の怪物相手に当たるなど思えんが……」

「当たりますけど。普通に」

「……ふん、まぁいいわい」


 ふむふむ、うちの銀弾はこんなデカイ理由が、ようやくわかったな。


 昔から流石に長くない? とは思ってたし、やっぱり正規の規格ではなかったようだ。

 あの人も無茶なことするものだ。


「ふむ、それにしても、ずいぶんと完成度が高いのうぅ……威力もあるのなら、これはもはやスペンサーの銀弾と同じなのではないか?」


 ん、なんか言ってるぞ、この爺さん。


「やれやら、これだから素人は……はい、おじいちゃん、聞いてくださいね。狙撃においてはね、わずな傷や歪みが大きな違うを生むんですよ〜。薬室内にほんのすこし隙間があるかないかでも、威力に関わってくるんですからね。俺が外さないのは練習と、一重に俺が天才だからですよー」

「ぐぬぬっ! このクソガキめ……ッ、聞いてもないこと喋り、隙あらばボケ老人あつかいしてきおるからに! わかっておるわ! こんな三流品とスペンサーの銀弾に天の地ほどの差があることはな!」


 店主はウィリアム謹製銀弾をカウンターのうえに立てておき、箱からスペンサーの銀弾をひとつ取りだして、またカウンターのうえに置いた。


「ふん、あいにくとわしには、おぬしほどの製弾センスはない。錬金術の知恵をフル活用しても、見てのとおり弾の形に加工するのが精一杯じゃ。ゆえに学ばせておくれ。わしに銀弾作りを教えてくれ」


 店主は懇願するように手を合わせた。


 あの頑固な老人がこのまでするなんて。

 それほどに、強い願いだということか。


 けれど、こっちも慈善事業じゃない。

 俺はこんなところで、無駄な時間を使ってる暇なんてないんだ。


 力は身につけた。

 手段も手に入れた。

 あとはただ進むだけ。


 はやく、はやく、あの″顔のない悪魔″に追いつかないといけない。


「ご老人、すみませんが、俺があなたに弾の作り方を教えるメリットがない」

「ふん、メリット、メリットと言ったな? おぬし、さっきタダで金貨10枚分の水銀を、馬に積んだを忘れたとは言うまいな」


 あ。

 あの時、態度が軟化したのは、この場面を想定してか!


「隙のない……」

「ふん、たり前よ。年季が違うわ。なに、そう消沈するでないわ。これはおぬしにとっても、悪い話じゃあるまいて。ここに本物があると言っておる。おぬしが本物を見たことがあるかはわからんが、少なくとも製弾のために、正確な手本があるのは役立つはずじゃろう?」


 なるほど、なるほど。

 言われてみればそうだな。

 スペンサーの銀弾があれば、規格品から学べる事もあると。


 この話、俺にも十分なメリットがあるという訳だ。


「わかりました、ご老人。あなたの頼み引き受けましょう」

「ふん、交渉成立じゃな」


 獰猛な笑みをうかべる店主と、固い握手かわした。


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【未完結】魔弾の狙撃手〜怪物ハンターは漏れなく殺そうとした美少女たちに溺愛されていきます!〜 ファンタスティック小説家 @ytki0920

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