第7話 キナコは漬けるもの
コロコロと大きな樽を転がして持ってくる店主。
膝をだいて遠目から見守る。
「ふん、おぬしも手伝わんか。老骨だけに何をさせとる」
「疲れてるんですけどね。ぁぁ、すみません、何にも言ってないです。よいしょ、と。それで、この樽は何ですか?」
「ふん、見てわからんのか。あのキナコとやらを霊薬とともに漬け込むためのワイン樽じゃ」
「……お酒にして美味しくいただく気ですか?」
「アホか。治療のために決まってとるだろうが」
ふう、よかった、心配した。
この錬金術師は信用ならないからな。
美少女を漬ける趣味があっても不思議ではない。
「ふん、何か
俺がキナコ二世を樽に投入するなり、店主は薬草といくつかの粉を適当な目分量で樽にいれて、魔力溶液ーー鉱石から取れた魔力の粉末が溶けてるーーを流しこみはじめる。
たぷたぶになって、中身がいっぱいになった樽。
「キナコ二世、傷の具合はどうだ?」
腰までつかり、尻尾が濡れないように大事に抱きかかえるキナコ二世は、眉根をよせてわなわなと震えだす。
「冷たいよ……がぅ」
「大丈夫、薬が効いてきたら患部からじんわりと温かくなるはずだから。もうしばらくの辛抱だぞ」
「うぅ、わかったよ、ご主人、がう」
キナコ二世はモフみを取り戻した尻尾を、ギュッと抱きしめて樽のふちにこしかけた。
しばし待つように指示をだして、店主とともに店裏からカウンターに移動。
「あれだけの治癒霊薬を準備してくれて、助かりました。本当に代金はいいんですか? おもての馬は拾いものなんで一頭くらいなら払えますけど」
「ふん、いらんと言っておるのに。恩着せがましい奴め。わしは報酬としてたんまり薬草を手に入れてる。あれだけあれば、現行の治癒霊薬の相場でさばいて、十分すぎるほどのおつりがくるわい」
店主は悪い笑顔をつくり、手をこまねいて言った。
「して、これでおぬしの要求は満たされたはずじゃな。それじゃ、今度はわしの番じゃな」
店主は機嫌よさそうに、カウンターの下から重厚な小箱をとりだした。
黙って見つめていると、店主は壁に立てかけてあった杖を手に持ち、箱の魔術的な封印を解除した。
魔法で守るとは、珍妙なことだな。
普通の魔術をつかえない身からしたら、そこまで厳重なロックをかける品なのか、興味が湧いてくる。
「魔銃使いなら、スペンサーの名を聞いたことくらいあるな? そう、魔銃の父親、鍛治場の変わり者、『
滑らかな布が敷かれた箱のなかには、3発の弾丸がおさめられていた。
見ただけでわかる一級品。
魔弾? いや違う、そういう感じじゃない。
「これはな、スペンサーによってつくられた、正規の純銀弾じゃ」
規格品の弾?
200年近く製造されていない幻の銀弾だと?
これは、凄まじい宝を見つけてしまったかもしれないな。
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