そこに欲望があるから。

@eiji01

プロローグ

「あなた、"欲しそうな顔"をしていますねぇ…」

人気の無い商店街。目を細め、口角を片方だけ吊り上げた青年が目の前の落ち込んだ様子の少年に語りかける。

「…。」

少年は黙っている。喜怒哀楽の内"哀"が半分"怒"が半分といったような表情をしている。

青年はそれが愉しくてたまらないとでも言うようにより一層笑みを深めて口を開く。

「手に入らないと知った気分はどうですかwww」

「全部見てましたよw」

「無様ですねぇwww」

興奮したように矢継ぎ早に俯いた少年を罵倒する。

「貴方のしてきたことなんて所詮その程度。」

「貴方の価値なんて所詮その程度。」

「生きていて良いことなんか何一つ存在しない。」

青年は邪悪な笑みを貼り付けたまま歌うように少年の全てを否定し、次いで突然それまでの笑みを消した。

「私は"他人に情けをかけたりしない"んですよ。残念ですねぇ。貴方を救ってみせるとか、助けてみせるとか、そういう反吐の出るお遊びは嫌いなもんで。ですが、ここで出会ったのも何かの縁。良い物をあげましょう。」

無表情で懐から取り出したのは、赤く光るメダル。なんの絵柄もない、ただ赤く光るメダル。

「自分の全てを曲げたりせずに、一途に欲し続けるといい。今の君なら、出来るだろうね。」

教師然とした口調で意味深な台詞を残して、青年はメダルを手渡した。

「これは…」

少年はメダルを数秒見つめた後、なにか思い当たる節でもあったのか、青年に問おうとする。しかし、顔を上げた先に青年の姿はなかった。

こんな寂れた商店街のど真ん中だ。人影を見失うはずないと辺りを見回すが、人の気配などどこにもなかった。

少年はしばらくキョロキョロと辺りを見回し続けていたが、やがて諦めたように歩き始めた。ふと怪しい青年から貰ったメダルを見つめると、先程の輝きは褪せ、まるで昔からそこにあったかのように手に馴染む感触と、くすんだ赤色が映っていた。

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