5
鈴音は電車から降りて三つ葉の元へ向かった。
三つ葉は自分に近づいてくる鈴音に気がついて、そっと鈴音のほうに目を向けた。
三つ葉は鈴音の顔を見てもとくに驚いた様子はなかった。
その代わり、鈴音を見ている三つ葉は泣いていた。
とても珍しい三つ葉の涙。
その涙を見て、鈴音の胸はぎゅっと、なにかに心臓をつかまれたように痛くなった。
鈴音は三つ葉の隣の席に腰を下ろした。ホームにはまだたくさんの人の姿があったけど、その席はまるで二人のために用意されていたかのように、ぽっかりと空いていた。
暗い空からはまだ強い雨が降り続いていた。
それからしばらくの間、鈴音は雨の降る空を、三つ葉は、さっきまで見ていた雨の降る空ではなく、ホームの上のコンクリートの地面を見つめながらお互いに無言のままだった。
鈴音は三つ葉に声をかけることがなかなかできなかった。なぜなら鈴音には『三つ葉に対して感じる負い目』のようなものがあったからだ。
鈴音は、『心の深いところで、三つ葉のことを裏切ってしまった。鈴音は三つ葉の心をとても深く、深く傷つけてしまった。そのせいで、三つ葉は鈴音からとても遠いところに、一人で、飛び去っていってしまったのだ』。
そのことが、罪人である、鈴音には誰よりも強く、理解することができていた。
「雨、やまないね」
小さな声で三つ葉が言った。
「うん」
鈴音が言う。
確かに三つ葉の言う通り、雨の降り止む気配は、今のところ、どこにもなかった。
真心 雨世界 @amesekai
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