第3話 邂逅
眩く光る星の海の中に僕だけの一等星を見つけた。
第3話 邂逅
七英學園に入学して数週間。はっきり言って僕は周りから浮いていた。
『中学生が理事長にスカウトされて飛び級入学』と言う事実に加え、元々の人見知りも相まって上手く年上の同級生たちと交流なんて出来るわけ無かった。
それにしても現実とは自分の思う様には転ばないもので。
「理事長にスカウトされたって本当?」「飛び級なんてすごいね」「何か歌ってみてよ」なんて声に人見知り全開で上手く答えられずにいたら「『飛び級中学生』は無口なクール系」という事になってしまった。
そうなると困ることも出てくる。
学年ユニットのパートナー探し。早い人だと入学式の日には始めていたらしいのに、僕はまだできていない。このままじゃ憧れのあの人みたいになるどころか、最悪退学なんてことも有り得るんじゃ……。
「あれ?渉だ」
募る不安を胸にあてもなく歩いていたところに声をかけられた。
「生徒会長」
「どうした?今にも地獄の釜が開きそうな顔して」
「いや、ちょっと意味わからないんですけど」
「そのくらい不安気な顔してたよ?何かあるならこのパーフェクトな生徒会長に頼ってみない?」
「……ユニットのパートナー探しがうまくいかなくて」
「あぁー、渉は人見知りだったね。俺とは普通に話してくれるから忘れてた。」
他の人にも同じように話せればすぐに仲良くなれるよ、なんて。できるなら最初からやってますから。
「それもそうか。まあ、気長にとは行かないまでも、自分のペースでやってみてご覧。人見知りでも楽しく話せる相手がいたら、その人はきっと渉と相性がいいって事だからね。お、それで行くと俺と渉も相性バツグンかな?」
「絶っっっ対!違いますから!!」
「ははは。頑張れ頑張れ」
英会長は笑いながら去っていった。僕の事からかって遊んでるだけだよなあの人。
でも。人見知りでも楽しく話せる相手、か。そんな人が見つかったらいいな。
そうだ、音楽室に行こう。
そう思ったのは本当に何となくで、理由なんてない。ただ、中学校からの習慣の名残でちょこちょこ音楽室で練習させてもらっていた。理事長には折角レッスン室があるのに使わないのかって言われたけど。(何故か)防音じゃない音楽室の方が安心感があるんだよなぁ。
☆ ☆ ☆
「────♪」
うん。今日はいつもより調子が良さそうだ。
今までは独学で歌ってたけど、七學に入学して授業が始まってから前以上に歌うのが楽しくなった。まだ人前で歌うのは緊張するけれど、これからアイドルになるんだから慣れていかないと。
「♪────っ!!」
音楽室の扉、開いた?
咄嗟に振り返ると、何だか目を輝かせた女子生徒が僕のことを見つめていた。教室前の廊下で何度か見かけたことがある気がするから同級生だと思うけど、名前は知らない。
「えっと……?」
「今、歌ってたのって憂衣くんだよね?」
「えっ、は、はい」
僕の名前を知ってる?ああ、そうか『飛び級中学生』だから知られててもおかしくないのか。
「私、貴方の声に一目惚れ……じゃない、一聞き惚れ……?とにかく、好きになっちゃった!!」
…………。
…………………………え?!今この人何て言った?!
僕の声が好きだって……!そんな事女の子に言って貰ったの初めてだ。自分の顔が熱を持っているのが分かる。
お礼!お礼を言わないと!と口を開きかけたけど、上手く言葉が出てこない。
パニックになっている耳にその呟きが聞こえたのは偶然か、必然か。
「……一緒に歌ってみたいけど私じゃ…………」
もしかして、この人もパートナーが見つかっていないのかな。気になる。僕の声を好きだと言ってくれたこの人と組んでみたい。でも僕にこの人のパートナーが務まるのか?『飛び級中学生』と組んでこの人も周りから浮いてしまったら?上手く喋れなかったら?ネガティブな想像がぐるぐる頭の中を回って自信無くなってきた……。
「え?え?憂衣くん大丈夫!?私変なこと言った!?」
ああ、ほら。こんなに気を遣わせてしまっている。……だけど、ここで引いてしまったら中学の時と同じだ。一歩を踏み出すんだ。前に。
「あ、あの憂衣くん?もしかして勘違いして…」
「よろしくお願いします……!」
「は?」
「え?」
何だかとても恥ずかしい出会いだった。
早く忘れてしまいたいような、忘れたくないような。悠愛ちゃんは絶対に忘れないって言うけど。
これが僕の人生を変えた2つの出会い。
音楽室には、衝撃の出会いが付き物らしい。
七英學園 第一部 Ein Stars こっぺぱん @coppepan-0616
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