世界の終わり

てこ/ひかり

最終回

「どうやら3時間後に、世界の終わりがやってくる」


 事実らしい。

 館内放送でその知らせが入ったとき、ちょうど私は休憩中で、のんびりと食堂でトーストを焼き、ダージリンティーを嗜んでいた。放送を聞き、たちまち向こうの机から、隣の研究室から、悲鳴にも似たどよめきが巻き起こる。私は椅子から立ち上がった。香りの良いダージリンが白衣の端に溢れてかかったが、気にしている場合ではない。動揺を隠せぬまま、私は慌てて司令室へと戻った。


「馬鹿な……早すぎる!」

「奴らめ、我々を出し抜いて世界を終わらせるつもりか!」

「そうはさせないわ!」


 廊下では、すれ違う研究員たちが興奮気味に、口々に何かを叫んでいた。最上階に行き、一番奥のモニタールームへと飛び込む。その途端、部下が書類を山のように抱えて、今にも泣き出しそうな顔で私に近づいてきた。


「は、博士!」

「うむ。聞いたよ。進み具合はどうだ?」

「……78%、というところです。早くしないと、奴ら、あ、あと3時間で世界を……!」

「わかってる。落ちつけ」


 部下をなだめるはずの声が、若干震えてるのに気がついた。何しろ時間がない。奴らの動きからして、後3時間で世界の終わりがやってくるのだ。何とかそれまでに、我々の研究を完成させなければ……!


「聞け!」

 私はモニタールームからマイクを握りしめ、研究所にいる全職員に語りかけた。

「奴らは我々に、後3時間の猶予しか与えなかった! 全員配置につけ! 予定より150%の速度で開発を進める!」

「……了解!!」


 私は、普段は努めて出さないようにしていた感情を露わにし、力強くそう発破をかけた。館内の研究員たちが、一斉に敬礼を返した。それからは蜂の巣をつついたように、薄暗い建物の中を目まぐるしく人々が行き交い、急ピッチで研究が進められていく。


「博士! 完成です!」


 そして……歓声が聞こえたのは、それから2時間と32分後だった。残り30分弱。厳しい戦いだったが、何とか間に合った。青白いモニターには、『100%』の数字とともに、完成した研究結果が煌々と輝いていた。


 私は思わず安堵のため息をついた。皆疲れた顔をしているが、達成感でいっぱいのようだ。弾かれたように、一気に歓喜の輪が広がり、そこら中で拍手が巻き起こった。


「博士!」

「博士、おめでとうございます!」

「博士、皆に一声どうぞ」

「ありがとう」


 感無量だ。この仕事をしていて本当に良かった。渡されたマイクに思わず目が緩みながら、私は今回の件で頑張ってくれた彼らに、労いの言葉をかけた。


「聞いてくれ」

 館内が静まり返り、皆ニコニコと破顔させながら、私を見上げた。


「諸君の協力もあって、我々は【世界を終わらせる極秘兵器】の開発に、本日成功した!! 世界を終わらせるのは、向こうの研究者ではない。我々の方だ。奴らが開発する兵器の完成には、まだ30分弱かかるだろう。勝者は我々だ。さぁ諸君、スイッチを入れろ! 我々の手で、世界を終わらせようじゃないか!」

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世界の終わり てこ/ひかり @light317

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