エピローグ

今回の話で終わりです。

これまでありがとうございました

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エピローグ


「それで二人はめでたくお付き合いを始めたんですね」

「えぇ」

「はい」


 場所はいつも通り化学室、俺たちは後日佐倉さんにあの日あったことを説明していた。


「部員が三人しかいないのに部内恋愛するとか、少しは私の気持ちを考えてくださいよ」


 俺はあれだけ関わっておいて何を言っていることやらと上辺だけの対応をするが、事情を知らない宝生先輩は必死に佐倉さんをなだめようとした。


「佐倉さん、ごめんなさい、ひどいことをしている自覚はあるのでも……」


 宝生先輩は口をつぐみ、先を言うのをやめる。

 それを聞き、からかうのに満足したのか佐倉さんはいつもの可愛らしい笑顔に戻った。


「雪先輩、どれだけあさひさんのこと好きなんですか……冗談ですよ。怒ったふりです」

「なら……」


 宝生先輩はうつむいていた顔を上げ、はじけるような笑顔を見せた。

 だが、佐倉さんはそんな最高に可愛い笑顔から顔を背けた。


「ただ! その佐倉さんっていうのが嫌です。ちゃっかりあさひさんのことを『あさひくん』って呼んでるじゃないですか!」


 宝生先輩は少し戸惑った後、指をもじもじさせながら答えた。


「み、美玖ちゃん……」

「はい! 雪先輩」


 今度は佐倉さんがはじけるような爽やかな笑顔を見せた。


「さて、文化祭では部活っぽいこと結果出しましたし、次は何しましょうか。化学甲子園? それとも大きく出て化学オリンピックとか狙っちゃいますか?」


 俺はこのガールズトークの波に乗ってテンション高く、次つまりこれからの俺たちのことについて話題を振る。

 しかし、その反応は――


「いやよ。今回は廃部がかかっていたから頑張っただけ、次なんてないわ」

「う~ん、そうですね。私も当分はこういう熱血みたいなのはやりたくないですかね」

「それに――」


宝生先輩は大きく間を取ってこんなことを言う。


「こうして、ぐだぐだ無為に時間を溶かしている方が私たち化学部にとっては『部活っぽい』わよ」


 言い終わると俺に向かってドヤ顔を向けてきて、恥ずかしくなったのかすぐ顔をぷいっと背けてしまった。

 おい、やめろ。

 うっかり俺がキュン死したらどうするんだよ。


「はぁ~まぁそうですよね。俺もなんだかんだこの何の生産性もない空間を居心地がいいって感じっちゃってますからね」


 「分かればいいのよ」とでも言わんばかり顔を向けてくるが、またもやすぐに照れてそっぽを向いてしまう。

 顔をそむけ、ぎこちない手つきで髪をいじっている宝生先輩を見ていると、本当に俺のカルテの死因の欄にキュン死と書かれてしまいそうなほど心臓が暴走してしまう。

 このままではやばいっと思い目の休憩として佐倉さんのことを見つめる。

 そう、俺は佐倉さんの目を真正面から見つめる。

 目と目が合わさり、視線が交わる。

 それでも、俺はそらさない。

 すると、佐倉さんは唐突に腰辺りをソワソワと動かし、顔を小動物のように可愛らしくうつむかせる。

 照れているのか?

 いい結果に落ち着いたとはいえ、さんざんこき使われたんだ。

俺的最高に可愛い女子の表情である照れ顔の一つでも見せてもらわなければ採算が合わないってもんだ。

それにしても、『お互いに長時間見つめ合う』なんていう初歩的な手で貴重な照れ顔をさらすとは佐倉さん、お前のまだまだだなぁ~

 すると、目の前で俯きがちになっている少女の肩が小さくそれでいて不規則に上下運動をし始める。

 次の瞬間、バサッと勢いよく顔を上げる。しかも、顔も前にあげられた手には何がか握られていて――


「――あさひさん、雪先輩。ウノやりましょ‼」


 あれ?

 その顔には俺の自信満々の予想に反して、騙されてやんの馬~鹿という言葉が見るだけで伝わってくるような腹黒い笑顔が浮かんでいた。

 

「ほら、早くシャッフルしてください」


 と、俺にウノのカードの束を渡してくる。

 面倒だな~と思い雑にカードを混ぜ合わせながらふと宝生先輩の方へ目を移す。

 すると、そこにはこれまた予想外で宝生先輩はなぜかやる気に満ちていた。

 「負けまいわよ」と佐倉さんに宣戦布告までする始末だ。


「ほら、早くカードを配りなさい。久しぶりのウノを始めるわよ」


 夕日を浴びて艶やかに輝いている黒髪をはためかせる宝生先輩。

 あぁ、そういえば久しぶりだったな。

 こんな風に化学室でなんてことない遊びをするのは。

 そうか、ようやく俺たちは日常を取り戻せたのか。そう思うと胸の奥から暖かいものがじわ~と染み出してくる。


「そうですね、久々の本当の部活動をはじめましょうか」


 ――他人に脅されてでも一歩自分の意思で踏み出してみたら分かる。

 俺が全く起きないって神様に愚痴っていたラブコメイベントはそこかしこにばらまかれてるじゃん、最初の一歩すら進めてなかったあの頃の俺には見えなかっただけで。

 二歩目を踏み出したら、どんな景色が待っているのかな。

 少しワクワクしている俺がいる。                 (完)

 


 

                        

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ご主人様系後輩ヒロインが俺の恋愛にいきなり乱入してくる ~助けるのか邪魔するのかはっきりしてくれ~ チバ二ヤン @chiba218

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