第2話
「もう、私がどれだけ苦労して訪ねて来たのに、ドアも開けてくれないし!話も聞く気がないし!」
「いや、そっちの事情はしらないし、関係もないし!」
そういえば、正体不明のこの美少女は、外で雨に降られたのか、頭から足先までびっしょり濡れていた。
ぬれたワンピースのせいで体つきが見えて気になるな…。
「まあ、とにかく先ずは洗って。そのままいたら、風邪ひくぞ?」
「ウワッ、さっきまで容赦なかったひとが、急にいい男のふりをしている……」
喧嘩売ってんのか?
「好意は施す時に受け入れろ。また追い出す前に…」
俺はドアの方を指差しながら、美少女を睨みつけた。
「あ、はい。すみません……。そうしないでください……」
シャワールームから、じゃあじゃあと水の音がきこえた。
「こんな時には、覗いてみるのがお約束の展開だ!」と思うほど非常識な人ではないので、おとなしく座っている。
おとなしく、ていうか、不動の姿勢だ。
石のように動かず、固くなっている。
いや、あんなセクハラジョークじゃないんですけど。
そう待っていたら、トイレのドアが開かれてかのじょが外に出た。
ほかの服がないって聞いたから、俺の服を貸したんだけど…。これはこれで破壊力が強すぎる。
俺の上着が、熱くなっている彼女の肌を包んでいた。
え?
上着だけ?
俺が渡したのは、タオルとティーシャツとパンツだったはずなんだが……?
なぜ、完全に下には何も着ていないのか……。
「あの、ケルビ?他のパンツはないの…?」
シャツの裾を握り下ろしたまま、恥ずかしそうに話す美少女。
「い、いや、あるけどさ…。なんでさっきあげたのは着ていないんだ?」
女の子が、それも俺の部屋で服を脱いでいることを追及するとは、夢にも思わなかった。そもそも女性が俺の部屋にいる状況を想定したことが、ほとんどないからな……。
「それが…。着てみたんだけど、下がってしまって…」
なるほど。
体格の差のせいか、俺のサイズにはあったとしても、彼女には大きすぎるようだ。上の方は何とか着ることができるけど、下の方はそうじゃないんだな。
どうしてもこの状況ではおけなくて(俺が)、俺は急いでタンスの中で使わなかったマントともっと小さいパンツを探して手渡した。正直に言うと、奇妙な格好をさせてしまったが、いまはこれが最善だ。
そういえば…。
あの下には、ノーブラにノーパンか。
気にしない、きにしない。
そう言って煩悩を煩悩を治めると同時に、食卓の前に座った。正体不明のこの女の子は、俺の向かいの席に。
「…じゃ、今から全部話してあげる。」
恥ずかしがる表情を消して、彼女は話し始める。
「私の名前はステラ。 知っているだろうが、聖団教でで仕える女神よ。あ、ため口を使ってもいいよ」
目の前にいる美少女がそう言った直後、俺は椅子を蹴って立ち上がった。
「ハアアアアアアアアアア?」
俺の心臓の鼓動が早くなったのを感じる.
ときめくような肯定的な感じじゃなくて、否定的な感じで。
血圧が上がったと言ったほうがより正確だろう。
「そうじゃなくても、最近女神だとか何とかについて言ってくる人がとても多くて、頭おかしくなりそうなのに、お前がその女神本人だと言うのか???」
もう一度言うが、私は女神を信じない。 教会を運営していた両親の下で育ったから幼い時から多くの布教にあったにもかかわらず。
いや、だからこそ信じないことに近いけど、そういうのは今どうでもいい。
今、大事なのは、この女が俺の逆鱗に触れたという事実だ。
「た、ため口を使ってもいいだとは言ったけど、そんな風に、勝手にしてもいいってことではないよ、ケルビ!」
「はあ、そうですか、女神さま?じゃ証明してみろ!!」
「うう…。では、あの…『聖典』は?」
女神の名前を名乗った女(以下ステラ)は、私の部屋の隅に置かれていた、親からもらった一冊の本を指差して言った。
「買わない」
「もう、売らないわよ…。押売りじゃないって。そもそも、もとからあんたの部屋にいたものでしょ?読んでみたの?」
「そりゃ、もちろんー」
「あら、読んだの?」
「ー読んでない」
「まぎらわしくいうな!」
最後まで聞けろ。
ステラはすねたように頬を膨らませた。
「でも、まあ、大体、何の内容なのかは知っている」
『聖典』。
『聖典』には、数百年前、女神がこの世に降りてきて、魔王を封印した物語が描かれている。
とても有名な話なので、それをベースにした演劇や、子どもたちの遊びまであるほどだ。
魔王封印に関する件は歴史書にも書かれているが、実際の歴史と違って『聖典』の場合、教訓的な内容を入れるために星団教会の人々が話を膨らませたとか何とか。
多分、両親が数千回は勧めた本だ。 説明も数千回まではいかなくても、耳に血が出るほど聞いてみたし…。
「じゃ、よく分かっているだろう。また言うよ。私がまさに、その物語に登場する女神、ステラだよ。」
膨らんでいる胸元に手のひらをのせながら、ステラはもう一度自分を紹介した。
ハッ、と俺は嘲笑した。
「証拠は?」
「え?」
「しょうこ。とある事実を証明できる根拠を意味する単語。自称女神さまが、そんなことも知らないのか?」
「意味を聞いたんじゃないよ!そして『自称』じゃなくて、本物なんだよ…」
ステラは「子供扱いしないで真剣にきてね~!」て言いながら胸を張った。うーん、確かにそこは子供じゃないんですね。
「もう…。何がいいかな……」
ステラは頭をかしげながら悩んだ.
「あ、そう!気益を見せてくれるのはどう?水のうえを歩いたり、食べ物を増やしたり!」
ステラは「さあ、見て」と言い、水の入ったグラスを手でそっと隠した。手の中で小さな光が光ったあと、ステラはてを片付けた。
…グラスが二つに増えていた。
「ほら!どう?」
「……本物の女神さまが、そんなに安く奇跡を見せていいのか?もうちょっと神聖な行為じゃないのか?」
「そうは思わなかったけど…。そう言うと何か恥ずかしくなるなあ……。でも、でも、きせきを見せてくれたじゃん!証明にならないかな?」
俺のネガティブな反応にもかかわらず、「これなら認めてくれる」と言うような思いが、ステラの目には込められているようだった。
しかし、簡単に済ませる俺ではない!
「女神の奇跡と、一般的な魔術を区別する手段がある? 俺が知っている限りはないんだけど」
ステラの心が壊れるような音が、俺の脳内で聞こえた。
昔、奇跡を見せてくれるたびに、ファンファーレを吹きながら、裸で『これが奇跡です!ミラクル!スペクタキュラー!』と言いながら踊って歌ったらよかったのに。すると「奇跡は魔術と違って、使用者がすごくはずかしくなる」という風に区別できたはず。
まあ、見分けがつかないのが当たり前だ。
『聖典』の物語が最初書かれた時期に、世の中には魔術というものが無かった。
そりゃ当たり前だ。
そもそも魔術というのは、女神が起こした奇跡についての記録を研究し、分析した人々が発展させた技術だからな。
要するに、ステラ本人がすべての魔術の始まりであるのだ。
もちろん『聖典』に書いているのが事実という前提で、だけど。
「二つを区別する方法はない…。せめて今見せられるもののなかには…。うぅ、これがクリティカル・シンキンを重視する現代教育の弊害かも……」
「いいえ、ただ説得力に欠けるだけですけど~」
「ああ、もう!本人だってば!何でも聞きなさいよ。何でも答えられる!」
「出身地は?」
「カヨ村の小さな店の隅っこ」
「歳は?」
「女の子、いや、女神に年齢を聞くなんて…。704歳。ちなみに、いまの肉体は21歳ぐらい?」
「スリーサイズは?」
「上から88、59ーいや、何を聞いてんのよ!?」
「何でも答えられる、と言うから…。本当なのか気になってたまたま。ステラさん、もし上司が不当な指示をしたら?」
「なんで面接みたいな質問!?」
今まで多くの信者に出会い、中には普通ではない人も多かった。
しかし、『女神』を自称するのは、今、俺の前にいるこの少女が初めてだ。
正直言って、普通の人ではないらしい。簡単に使えない複製魔術を簡単に使ったり、俺の名前も教える前から知っていた。
名前なら調べたのかもしれないが、とにかく。
星団教への苛立ちが最大値に達した日に現れた、このステラという人、いや、女神(?)に、正面から向き合うことにした。
今度は、星団教のねじれに乗ってやろう。
お前が本当の女神なのかどうか、必ず突き止めてやる。
そうしなければ、約20年間積み上げてきた星団教に対する嫌気が溢れるのを我慢できないんだ!
ところで、どうしてこんな状況にまでなったんだ?
俺、何か変なことに巻き込まれたのかも?
###
「ステラ、俺がお前を、女神の存在を信じさせたいのなら、協力しろ」
「はあ…。しょうがない。あきらめるわけにもいかないから」
おい、うんこを踏んだような顔をするな、お前。
ふむ…。何かおかしい。
確かに説明を聞く前までは何かドキドキする(濡れたワンピース)空気が流れている(ノーブラ、ノーパン)ような気もしたが、今はむやみに接しても大丈夫そう。
いや、ドキドキじゃなくて、ムラムラだったかも…。
「すぐには証明する方法が思いつかないんだけど…。それが思い出してから証明されるまで協力することに。わかった、ステラ?」
「…わかったよ」
「ところでお前、じゃその間どこで過ごすつもり?いや、寝るのはどこでもいいかも知らん。それ以前に、着る服とか生活用品とかもっているのか?」
一応、すぐにはなさそうに見えて俺の服を貸してくれたんだけど。
「持っていない」
「あ、もしかすると、女神の聖なるオーラが体を包んで、汚れないので洗って服を着替える必要がないとか?"」
「本来ならそうだけど、一応今度は人間の肉体として顕現したので、それは無理」
肉体じゃないとできるけど、それにはリスクがあって、と言うステラ。
「実は… このまま直接現われて、あなたに姿を見せて説明してくれれば、すぐ信じると思ったの。それで長くいるための準備はできていないわ…」
女神のくせに、計画はめちゃくちゃじゃないか!
まあ、信じられるまでこの世界にいて欲しいと頼まれるとは、予想できなかったかもしれないけど。
「ふむ… 時間が遅くなったので、服などを売っている店も閉めたと思うし。どうすりゃいいんだ」
「ケルビ、女の知り合いはいないの?」
「なんで痛いところを突くのか、お前…」
クリティカルヒットだった。
そんなのあるか、と言おうとした瞬間、頭の中に一人のイメージが浮かんだ。
「あ、一人いるけど…。それがさあ…」
「なに?」
「その、あの、別に会いたくないかもしれない。す、すこし普通じゃないやつだから…。」
俺はどもり始めた.
「まあ、普通ではないとしても、女神である私よりは普通だろう?」
ま、自分を女神だと信じる人くらいに個性あるのは難しいよね。 そんな人はまるで正気ではないように見えるからな。
「そして、その人に頼むこと以外には、すぐできることがないじゃない。まさか女神をこんな服装でいさせるつもりなの、ケルビ?」
いや、服を持ってきてないのはお前だろ?!
俺が悪いのではないからな。
「まあ、お前の言う通り仕方ないか。あいつの家に行ってみるしかない。服とか借りられるといいね。 そしてもしかしたら君が女神であることを証明することに協力するかもしれない」
夕方に、奇怪な格好(下着は着ていない)の美少女と同行か…。
行く途中に誰も会わないといいな。
###
「だから、お前の言うことは、あの女の子が女神ってことなの?」
何やら不満そうに眉をひそめて、私の前に座った女は落ち着いた声で言った。
つやのある黒い短髪。通りすがりの人が一度目を向けるほど優れた外見。長い手足とスレンダーな体つき。
…そして、その振り向いた人たちを、再び歩ませる強い眼差しと表情を持った女性が、まさにこのハンナ=レオンハルトだった。
「いや、それは俺もわかんない。自分ではそうだと言うのに…。……よく考えてみたら、どうして俺を訪ねて来たのかも詳しく聞けなかった」
「は?ここに来る前にいろいろ聞いてみたって言ったんだろ。いったい何の話しをしながら、会話という名前の時間の無駄遣いをしたんだ?」
スリーサイズ。ヒップは聞いてないから、正確にはツーサイズだ。
ーとは言えなかった。
多分頬を殴られるって。
今ここはハンナの家だ。 寝室一つ、キッチン、そして浴室までついている高級ルーム。俺の狭い一間の部屋とは比べ物にならないほど立派だ。
正直に大学生一人が住むには、豪華すぎるんじゃないか?ここに居候する方が、俺の部屋で暮らすよりよさそうだぞ。
しかし、その高級さにもかかわらず、デレーンの生徒の間では『魔女の家』と呼ばれている。
その不名誉なニックネームの由来は… まあ、簡単だ。ハンナ=レオンハルトが住んでいるから。
ハンナのあだ名が『デレインの黒い魔女』だからさ~。
人前でも隠さない厳しい性格と何でもこなす能力のおかげで付けられたニックネームだ。
新入生の時に魔術学の教授が、生徒たちには不可能だと予想して出した宿題を、デレーン歴史上、唯一に完璧にやりこなしたという事実は伝説になった。
本人はあまり好きではないあだ名だが。
だから、俺がそのあだ名を初めてつけたという事実は秘密です!
今年入ってきた新入生の中には美女で成績の良いハンナに幻想を持っている子もいるようだが、多分直接話してみればハンナがその幻想を壊してくれるだろう。
美しいバラにはトゲがある、というレベルではない。
あえて例えるなら、きれいなハリネズミに近い。 とげだらけだぞ、こいつ。
「とにかく。それでどうして私に連れてきたの?真夜中に他の女の子の家に無理やり入ってくるなんて。しかも他の女の子と一緒に? 変態じゃないの、君?」
「変態と言われるほど変なことをしたことはない…かな?俺が変態かどうかは重要ではない。助けを求めに来たんだよ、いろいろで」
「この時間に私の家に君を入れた私にとって、君が変態なのかどうかは、とても大事だと思うけど」
そう言いながらも、おとなしく家に入って話せと言ったのを見ると、俺が本当に変態だと思っているのではないだろう。元々ハンナはこんなやつだ。
いわゆるツンデレ。お前もかなり月並みなキャラクターだね?
そういえば、ハンナとはいつから親しくなったっけ?
私はハンナとの初めての出会いを思い出し始めた。
女神の存在証明 @calendarv
★で称える
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