眠りが深いってどんだけさ

店のご主人には、自分達が勇者様の部屋の掃除に行くって言い張られたけど、

宿代も払っていないのに、そんな事までさせられない。

僕は道具を借りて部屋に戻った。

もしかしてジルは食事代も払っていなかったのかな。

そう思い付いたら、それが確信になった。

部屋代すら払ってなかったんだもの、ごはんのお金だって払っていない。

どうしよう、一体幾らぐらいになるのかな。

今まで幾ら掛かっているのか、誰に聞けばいいのだろう。

とにかくジルの目が覚めたら、お城に行ってこよう。


そう思ったけど、待てど暮らせどジルの目が覚めない。


「どうしよう、何か病気かな。

お医者さんに見せた方がいいかな。

でもお医者さんに来てもらうのにだって、お金がかかるし、

一体誰に相談すればいいのかな。」


僕のお金は親方に渡された物と、お給金での貯金しかない。

一体幾らくれたのか分からないけど……。

ジルが目を覚ますまでと、じっと待っていたから、

もう1日と半分ご飯を食べていない。

お腹空いた。


「あまり使いたく無いけれど、ごはん食べに行こうかな。

それとも出店で何か買った方が安いかな。」


とにかくお金がいくら有るのか把握しない限り、

何をどうするのかが決められない。

親方がくれた、ちょっと大きめの袋を持つと、

結構重くて、ジャラジャラと音がする。


「親方って無理しちゃって、

こんなに小銭くれなくってもいいのに。」


親方だって、やりくりしていたのを僕は知っている。

今までだってそんなに多くは無かったけれど、

ちゃんと給金は貰っていたんだ。

その給金もあまり使う事が無かったから、

貯金した分は僕の荷物の中に入っている。


「そう言えば、親方は足りなくなったらまた取りに来いって言っていたな。

働いていないのに、貰いに行ける訳無いじゃん。」


そう呟きながら、親方のよこした袋の口を開けてみた。


「金きらりん……。」


なぜこんなに小銭が光っているんだ?

小銭がこんなに金色に光る訳ないじゃないか!

要確認………。


全部金貨だった。


小さい金貨から、大きな金貨。

全て金貨だ。


親方無理しちゃって。

じゃない。

こんなにもらえないよ。

こんなお金貰う訳にはいかない。後でジルに親方の所まで連れて行ってもらおう。

何か、やる事が一杯になっちゃったな。

でも、とにかくジルが目を覚まさなくちゃなんにも出来ない。


「それじゃあ、まずお医者様だな。」


だけど親方の金貨なんかには手を出せないぞ。

そう言えばジルがポケットに入れていたお金が有ったな。

テーブルの上を確認したら、ジルが出したお金がそのまま残っていた。


「50,083ゼラ。それと僕の貯金を合わせれば、

お医者さんを呼ぶぐらいなら十分だよね。」


ちょっと安心したら、僕のお腹がグ~ッと鳴いた。


「ジル、お金をちょっと借りるね。」


そう言って下に降りた。


僕が店に降りると、一人のおばさんが駆け寄ってきた。


「心配してたんだよ。

あんた勇者様と違って、普通の人なんだろ?

それがご飯にも降りてこないし、

食べ物を買いに行く様子も無かったからさ、

大丈夫かい?お腹空いていないかい?」


勇者と違ってって、やっぱり勇者は普通の人じゃ無いのかな?

ジルが起きたら聞いてみよう。


「心配かけたみたいでごめんなさい。

あの、お腹ちょっと空いちゃって、

安いものでいいから、何か有りますか?」


「やっぱり腹空かせてたんだね。

いいとも、任しておきな。」


そう言っておばさんは厨房の中に入っていった。

しまった、先にお医者さんの事を聞くんだった。


やがて、お盆に山盛りの食事を乗せて、おばさんが現れた。


「さあさ、たんと食べるんだよ。

そんなに細っこくちゃ、勇者の従者なんて務まらないだろう。」


おばさん、無理だよ。

僕こんなに食べれません。

そうだ、それより聞かなくちゃ。


「おばさん、ジル…勇者が一昨日から目を覚まさないんだ。

病気かも知れない。

誰かお医者様を知りませんか。」


するとおばさんはキョトンとした顔をしてから、豪快に笑い出した。


「そうか、お前さんは新米さんだったね。

それじゃあビックリする事ばかりだろう。」


おばさんは僕のテーブルに陣取り、色々な話をし出した。


要約すると、とにかく勇者を常識の目で見てはいけないと言う事だ。


「武力もだけど、とにかく常識はずれなのが勇者さ。」


なるほど。


「今は眠り続けてるんだっけ。

それならここを安心できる場所と感じ、深く眠って疲れでも取ってるんだろう。」


なるほどなるほど。


「ひとたび戦いと認識すれば、何日も眠らず戦い続けるらしいよ。

それじゃあ魔族だって疲れちまうさ。

勝つわけだよね。」


おばさんはまた豪快に笑う。


「僕、ジルに疲れが取れるまで寝た方がいいって言ったんです。

もしかして、そのせいも有るのかな。」


「そのせいが有るとしたなら、

お前さんはよっぽど勇者に信頼されてるって事さ。

それなら当分眼を覚まさないだろうね。

諦めて、勇者の事は放っておきな。

お前さんは、三度三度ご飯をちゃんと食べて、

自由にしてな。

勇者が目覚めたら知らせてやるから、町を探索するもよし。」


そんな事してもいいのかな。

僕が傍に居なくても大丈夫かな。

何と無くおかみさんに迷惑が掛かるような気がして、ちょっと怖い。







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ヘタレ魔王は俺様勇者のお嫁様 はねうさぎ @hane-usagi

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