リターンクリエイト
アリエッティ
素直じゃ納得いかないみたい
目を開ければ何も無い部屋にいた。
「何処ここ?」
「目覚めたか。」「誰?」
目の前に知らない人がいた、当然会った事も無い。
「僕はガイネン。
勘違いしないで、ただの名前だから」
名を名乗る小柄な少年と青年の間にいるような男ガイネンは何故だか宙に浮いている。
「なんで俺はここにいる」
「質問が多いね、仕方ないか。
君は第一目撃者だ、よく思い出して」
「第一目撃者...あ!
そうだ、確か配達に行った場所で。」
「そう。
名は確かアキコさんだったかな?」
配達員である彼は荷物を家へ運んでいる最中だった。チャイムを押しても返事が無く暫く待っていると、ベランダの窓が開いた。向かってみると飛び出しのはアキコさんでは無く見知らぬ男、アキコさんはリビングで血の流れる腹を抑えて倒れていた。
「直ぐに警察に連絡しないとって携帯を取ったら、それから..記憶が...」
「困るんだよ、それじゃあ」
「え?」
記憶が飛んだのも、ここに連れて来られたのも目の前の男の仕業だ。勝手な都合もいいところである。
「見てよこの体、ここまで浮いてる」
「...降りてくればいいんじゃ。」
「無理です。
上のモンが暇してるからね」
「暇?」「そうヒマ。」
〝上のモン〟がなんなのかは知らないが、彼も何らかの被害者みたいだ。
「アキコさん殺した犯人ってのが偶然通りかかった通り魔なんだけど〜、それじゃ普通過ぎんのよね。」
「え、どゆこと?」
「知らないよ僕だってそう言われてビビったんだから。だからさ、犯人替えて欲しいんだよね」
「犯人を替える?」「そ。」
上の者は娯楽として非日常を愉しむ、普通過ぎる事件の犯人を変換させる事で面白いものを見せるという訳だ。
「誰がいいかな〜、あそうだ。
彼女旦那がいるんだけど、凄い仲良いらしいんだよね。その人が殺したらなんか面白くない?」
殺す筈の無い者を犯人にすれば面白い事実が生み出せる。そうすれば他に足を付け不自由から抜け出せる。
「ちょっ、ちょっと待てって!」
「待たないし、聞かないよ?
武器は貸してあげるから、確か死因は刃物による傷だったね。」
雑に包丁を渡され一方的に還される。
「わ、ちょっ!」「じゃね〜。」
➖➖➖➖➖
「痛っ..。」
よく掃除されたフローリングに落とされた。後の現場だ。
「..アキコさんの家」
格好は作業着に戻され荷物も置いてある。右手には包丁が握られている。
「誰だ?」「……旦那さん」
彼に包丁を渡せば上の連中は上機嫌、嫌な役回りも担わされたものだ。
「配達の方?」
「ちょっと落ち着いて聞いてくれ。」
前に構えた腕には刃物が握られている落ち着かせる態度では決して無い。
「君、何を持ってる⁉︎」
「違う、これはその..これからアキコさんが死んでしまうんだ!
通り魔に襲われて!」
「通り魔?
もしかして最近現れると言われている通り魔か、私の妻を狙うのか!」
「だから俺じゃないって..」
ラチが開かない。こうなれば、無理矢理にでも非日常を造らねば。
「後悔しないで下さいよ?」「何..?」
➖➖➖➖➖➖
「あ、足着いた。」
地に足を付けたという事は、事態が思うように歪みきったということだ。
「ふぅ..。」「おかえりー!」
血塗られた作業着、刃先にも同じく赤い色がべっとりと付着する。
「お疲れ様。結構苦労したみたいだね
刃物は返して、一応返却す..」
胸に突き刺さる刃の血液が、元気な腹の肉に混じり傷を付ける。
「..俺がやったんだよ。
いくら言っても聞かないから、旦那さんを刺して、アキコさんも殺した」
「やっちゃったかぁ。
..で、次は僕の番って訳ね」
「...!?」「でも残念。」
腹に突き刺さる刃物は腹の傷と共に消滅し、男に翼を生やす。
「なんだ..おい!」
「君の番って事だよ、直接干渉したからそうなった。僕は出ていく」
「待て、おい!おい!」
「ダメだよ、そういうルールだ。
罪でも償ってみたらいいんじゃない」
彼はもう帰れない、帰る場所も無い。
リターンクリエイト アリエッティ @56513
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