最低なオチをお届けします。
Planet_Rana
最低なオチをお届けします。
ここは緑にあふれた小さな町。
つむじ風に舞った何かが飛び込んで、瞼の裏に痛みが走る。目を瞬かせると、いつもより多く涙があふれた。
「あー……何か入ったなこりゃあ。ちと痛い」
「休憩するか?」
「それには及ばん」
きゅぽん。と軽快な音をたてて引き抜かれる眼球。相方はビクリと肩を震わせ、錆びた絡繰りのような調子で首が向こうへ行く。
「どうした。まだ慣れないか」
片目が空っぽの男の子は言って、残った瞳で笑う。引っこ抜けているのは左目で、左手には洗浄剤を手にしている。
対して顔を逸らせた青年は、頬に生々しい傷痕があり目つきが悪いにも関わらず、そのような光景が苦手なようだ。
「慣れてたまるかよ、見た目はなまものじゃんかそれ。
「そうはいってもなあ。
男の子は言って、空になった眼窩を指差す。
「泉もないし、井戸もかれてるし。そもそも喉を潤す水もわずかだ。だから、取ってくれ」
「底のあるそれを覗いて、何処に入ったかも分からんゴミをとれってか」
「そうともいう」
「嫌だ……」
「心の底から絞り出した声だなそれは」
やれやれ、といいながら、その辺にある木の椅子を引き座る男の子。彼らが居る町の大通りには、舗装された石畳の両隣にカフェやら商店やらが立ち並んでいる。
男の子は取り出した目玉を拭きつつ、足を組む。
「そら、やりたまえ」
「うっ」
口を抑えつつ、嫌々といった様子で小さな懐中電灯を手にする青年。顔の傷痕が引き攣った頬につられて大きくゆがむ。目元に掛けられた大仰なゴーグルが男の子の瞳の入り口に当たる。
「……目元のゴーグルが邪魔っ……」
「外してくれるなよ。お前までやられては困る」
「言われなくても分かってる」
青年は男の子の眼窩を覗き込む。
深海に潜る様な、虚空を見つめるような、星空に飲み込まれるような、黒い空間に光を入れる。
眩しいのか、視神経のつながった方の目を固く閉じる男の子。
「…………………」
「どうだ、見つかったか。砂粒だと思うんだが」
「あ、いや。砂粒はない」
懐中電灯をもったまま、ゆっくりと身体を離す青年。目つきは悪いが至って冷静な声音で現状を告げる。
「双葉だ」
「は」
「眼窩の奥から、双葉が生えてる」
「なるほど」
特に驚く風もない。冷や汗を拭う青年も感動はしていないようだ。
男の子は少し考えるようにして、周囲を見回す。辺りは閑散としていて、人の気配はない――生者の気配がしない。
カフェは長らく放置されているのか種別不明の蔦に絡まれているが、巻き込まれた看板は描き直されてまだ新しい。
町は、蔦系植物に蹂躙されている。
「寄生物か。超速成長個体だと尚更厄介だ。よし青年、対処法を考えてみろ」
「種子を撒かれるより早く爆破するか、燃やす」
「大地に毒を撒くよりは遥かにましだな。それでいこう」
男の子は言って。今度は躊躇なく左眼窩に指を突っ込んだ。一瞬息を短く吸い込み、歯を食いしばる。
「ふんっ!」
ずるすぽんっ!
「うぎゃあきもおっ!」
「きもいとか言ってくれるな、傷つく」
「心臓に毛が生えてる癖に硝子のハートを気取るなよなあ!」
「いいからほれ、抜けたぞ」
どろりとした何かの液体を根に纏わせ、今しがた眼窩から抜かれた双葉は、この会話の間にも葉を茂らせてつぼみをつけようとしていた。目に見える速さで伸びていくそれを見て、口をおさえる青年。
「うわあ、えぐい。こうやって生き物に憑りついて一気に成長するんだな」
「なまものに近い方が栄養価も高いだろうからな。理には適っている」
「適われても困る」
「其れに関しては同意見だ」
異物を引き抜いた眼窩に洗浄液を注ぎ込み、ブリッジをして頭を振り回す。起き上がると左目からは大洪水の如く洗浄液が溢れる。
間髪入れず眼窩に目玉を放り込むと、定位置についたそれは潤いを取り戻した。
「しかし、燃やすと言っても町一つだ。どれを燃やしていいもんかね」
「それは、あの被子に決まっているだろう」
男の子は言って、視界の斜め前に佇む教会の天辺を指差す。そこには瓜型の大きな種袋が見えた。近くに巨大な花も咲いている。
「じゃあ燃やして来い」
「えっ」
「そもそもがお前の町だろう。ならば自分で仇をとるんだな」
「その心は」
「初見戦闘の実験台になれ」
「引き摺ってでも道連れにしてやらあ!」
「こらやめろ引っ張るな馬鹿!」
引き摺られる義眼の男の子と、ゴーグルを曇らせたヤケクソの青年。彼等は予定通り被子を燃やそうと火を放つのだが、拡散型の被子は逆に大量の種子を放出し――ああそう、ここからが面白いのだが、時間も惜しいので先にオチを言ってしまおう。
爆発オチなんてサイテー、とな。
最低なオチをお届けします。 Planet_Rana @Planet_Rana
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