「混乱…」

低迷アクション

第1話

 


「えっ?それって、そんな話だったっけ?」


“F君”は会社の人間達が仕事終わりの飲みで交わす会話を思わず遮った。


彼等は“怖い話”をしていた。学生の時にテレビや映画、本で流行った内容を話し、

当時の思い出を懐かしんでいる最中の事である。


その中でF君が驚いたのは“首絞め巡回”の話…


不幸の手紙やカシマさんと同様の話だが、確か、医療ミスの罪を着せられた看護婦が(現代で言えば看護師か)自殺した後、幽霊となって復讐のため、夜な夜な手術を担当した関係者を訪れ、首を絞め殺していく。だが、彼女の恨みはそれでは満たされず、この話を聞いた人の元にも現れ、


首を同じように絞めるというモノだ。逃れる方法は簡単…


おまじないを1つ行えばいい。首に青いタオルを巻くのだ。どーゆう訳かはわからない。

しかし、それで助かる。こーゆう結果がわかっているから、


話を聞いても万事問題ない筈だった。F君達の高校時代に流行った時も皆、恐ろしいとは言いつつも、解決、回避策を知っていたから安心、いや、危ないだけど、大丈夫と言うギリギリのスリルを楽しんでいた。怪談とは本来そうゆうのものだ。


絶対、今の安定した生活環境ではあり得ないけど、でもありたいと信じる。何故なら、

それが自分達の退屈な日常を忘れさせるちょっとしたスパイスになればいいから…


だが、今、彼等が目の前で話しているのは


「話を聞いてから、48時間後だったよな。48時間後に“クビシメ”は現れる」


「ああ、青いタオルはしちゃいけないんだ。クビシメは青い色が好物だからな」


「赤だっけ?黄色だっけ?よく覚えてないけど、怖いよな~」


F君が知っている話と全く違うものだ。いや、首絞め巡回の話ではある。彼等の話初めは

ほとんど同じ。だが実際の怪異の部分がだいぶ異なる。とゆーより、ほとんど別物と言っていい。一体どーゆう事なのか?盛り上がる同僚達を他所にF君がここまで、只の噂話に

驚いているのには“訳”がある。


実は“この話”を作ったのは“F君”なのだ。高校時代に所属した文芸部で当時流行り始めていたインターネットの動画サイトや掲示板に、この話を書いた。“拡散希望”の願いを込めて…


効果は期待通りのモノだった。いくつかの怪談系スレで広がった、この話は風に運ばれる種のようにあらゆる場所で芽吹いていった。


“実際に首を絞められた”


“青いタオルを巻いていたので助かった”


などの体験談、青系のタオルが売れていると、ネットの報道で見た時は、関係のない事かもしれないが、妙に気分が高揚したものだ。


だが、人の噂もやがては消える。時が経てば、創作者であるF君でさえ、忘れていた。それがこんな形に姿を変え、再開しようとは…純粋に関心した彼は同僚達に、


自身のオリジナルの話をして、同じ時期に広まった噂話でも、地域によって話がこんなにも尾ひれがつき、脚色される事を興味深げに語った。すると…


「なぁっ、F、それって“元の話”だよな?」


少し顔を歪ませて、苦笑い、いや、面白そうな笑いをかみ殺した感じの同僚が切り出す。

頷く彼に他の者も同じような顔をする。首を傾げるF君に1人が申し訳なさそうに言葉を繋ぐ。


「その話続き…っていうか、後付けみたいなのがあってさ。いや、これもネットを介していく内に変わっていったから、多分、知らないと思うんだけど…あの話自体が創作だってのは、早い段階でバレてたらしいのよ。ただ、実際に似たような事件があったらしくてさ。


そんで、そっちの幽霊が怒って、自分の話を面白半分に広めた奴等全てに仕返しするって噂が流れたんだ。だから、元の話をネットでする奴はいない。知っててもしない。口にも出さない。全部、削除されてたな。話をした奴も意識してたみたいで…それが、より、この噂を盛り上げて、皆、でたらめを話し始めた。勿論、解決策とか、その方法も誰も知らない。


多分、お前が今まで知らなかったのも、元の話だけ知っていたからじゃないかな?

“クビシメ、元の話”で検索すると今、俺がした話、出てくると思うよ」…



「その話を聞いた俺の顔を見た連中の顔を見せてやりたいよ。皆、楽しそうだった。俺達は進んで感染、いや観戦者になるんだ。ちょっとのスリル、非日常を求めて。いくら脚色、追加したっていい。嘘でもホントでも、とにかく盛り上げていくだけ、何も考えずに、俺も、

もっと注意しとけばよかった…


話は違うかもしれないけど“トイレットペーパーが売り切れる”って言ったら、皆、不安がって殺到するだろ?あれさ、確かに怖がってるけど、同時に安心と楽しみを感じている。自分が世間の話題についていっている、取り残されていないという集団心理と非日常を楽しむ快感…発信者だってそうだ。


自分が責任を負うなんて考えもしない。ただ、面白がって、話を広げる、いや、かんせん、拡散する事に一役買ってくれる。ただ、今回のようなしっぺ返しだってある事も充分考慮、覚悟してから行う事をオススメするね。俺としては」


皮肉と言った感じで喋るF君に、その後どうなったかを尋ねた。彼は低く笑い、着ていたタートルネックをめくり、自身の首元を見せた後に、こう言った。


「種を蒔いたら、キチンと刈り取らないとな。身に染みたよ」…(終)


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