拡散するmuscle『未完成』

《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ

執筆中

地獄を見た。


「筋肉こそ至高!!」


地獄を見た。


「筋肉こそ究極!!」


地獄を見た。


「筋肉こそmuscle!!」


地獄を見た。


『マッソォォォォォォォォ!!』


どうしようもない地獄を見た。


「さぁ、隆司たかしも一緒にやろう?」


俺の幼馴染、恵美えみがサイドチェストのポーズをとりながら笑いかけてくる。



どうしてこんなことになったのだろうか。







遡ること数ヶ月前。世界にとあるウィルスが蔓延しだした。


そのウィルスの名は『マッソォウィルス』。


罹った者の肉体が膨張し、筋肉ムキムキマッチョマンになる病気である。何を言っているのか分からないと思うが、俺にも良く分からない。頭がどうにかなりそうだった。一つ言えることは、このウィルスは今までのウィルスとは明らかに異質だと言うことだ。


大雑把に説明すれば、体内に侵入したウィルスが筋肉の組織に干渉。細胞の働きを活発化させることで、組織の成長を強制的に促すというものだ。成長途上の子供から枯れ木のような老人まで、元の面影を置き去りにして全身これ筋肉の状態となる。


最初こそあまりの豹変ぶりに世界中の人々が恐れ戦いたが、通常のウィルスの様な悪い病気ではないし、当の本人達が一層ピンピンしているため、徐々に恐怖は薄れていった。


しかしそんな人々の安堵とは裏腹に、マッソォウィルスの感染は治まることなく拡大していった。ウィルスには潜伏期間が存在し、また陽性として発現するまでは症状が発生しないのだ。感染だけでなく伝染によって拡散が促進されるため、事前に防ぐことは困難であった。


人々は『罹かっても問題ない』と安心しているが、俺にとっては只々恐ろしい現象だ。自分の肉体が自分の意思に反して勝手に作り替えられると考えただけで、鳥肌がたつ。


一応、感染が発覚した者はこれ以上の感染を防ぐために、隔離用の施設に収容されている。今の所完治した者はおらず、ウィルスの究明やワクチンの作成が医療機関によって急がれている。


恵美なんかは「気にしすぎるのは駄目だよ隆司。堂々としてなって堂々と」などと気楽である。恵美の持つ生来のマイペースさには時折イラッと来るが、こういう状況では羨ましいものである。






少し前から、感染者を隔離することがなくなった。政府は『感染者の増加に対して隔離する施設が不足しており、急遽仮設の隔離病院を新設する』などと声明しているが、とても間に合うとは思えない。


未だに楽観視している者。疑念を抱き始めてる者。声高に危険性を述べている者。国民の声は様々であるが、ここに来てなお、どこか軽薄である。


「何があるか分からないのに、どうして皆お気楽なんだ……」

「まぁ筋肉に憧れる人は多いからねしょうがないね」

「いや、恵美さん?男性が憧れるのは分かるけど、女性は筋肉なんて嫌でしょ?思ってたより反感少なくて驚きなんだけど」

「そりゃあ、オリンピックとか目指すアスリートにとっては棚牡丹たなぼただし、吉田沙○里みたいな強さに憧れる人は結構多いからだよ」


血気盛んすぎませんかね最近の女性。


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