第3話 口ではそう言っても、体は正直(意味深

「その喧嘩買ってやろう! 俺が泣いて謝る事になっても知らんぞ!!!」

「んん? ……お前が泣いて謝ってどうする!!」

「自首ってやつかな……?」

「やる気あるのかぁあああ!!!」


 アンジェラが声をあげて槍の連撃を繰り出した。

 俺は剣を使い紙一重で受け流す。

 激しい剣戟が鳴り響く。

 衝撃波が教会の庭に爪痕をつけていく。


 剣対槍。

 戦う前から答えは出ている。

 槍のほうがリーチが長く、この広い庭では俺の方が圧倒的に不利だという事。

 アンジェラの槍術は人を近づかせることを許さない。

 奇策でもない限り万に一つも俺に勝ち目などないのだ。

 しかし、俺も傭兵の端くれだ――

 あがけるだけあがいてやろう!!!


 槍は的確に俺の急所を狙い続ける。

 かと思いきや彼女は不意にずらしてフェイントをかける。

 不規則な攻撃は俺に息つく間も与えない。

 集中を途切れさせたら死あるのみ。


 アンジェラは感嘆の声をあげた。


「やるじゃないか、名をなんという! 倒す前に聞かせてもらおう!!」

「名前は明かせないッ! アンジェラ様にそう言っていただけるなんて光栄の極みだがなッ!!」

「そいつは残念だ。ならばこちらで聞こうか!」


 彼女は槍を構えた。戦いこそ会話なのだと言わんばかりだ。

 名乗ったら、俺とユイとのつながりがばれて共犯に見られてしまう。

 それだけは避けなければならない。


 俺とアンジェラの攻防は続く。

 彼女が本気を出せば既に俺は殺されているはず。

 なのに、まだ生きている。

 俺の息が切れてくる。

 限界が近い。


 それを察したのか、彼女は槍を回して地面に突き刺すと口を開いた。


「もういい」

「……俺が負けだと言いたいのか?」


 アンジェラの様子といえば、汗一つかいていない。

 俺は手も足も出なかった。

 彼女は自身の槍から俺に視線を移す。


「お前、……そなたは犯人ではない」

「俺が犯人ではない……? 俺は殺人犯だ」


 急に何を言い出すのか。どういう心境の変化なのかはわからない。

 しかし俺が無実を認めてしまうと、妹のユイが疑われてしまう。

 それだけはあってはならない。


 アンジェラは鼻で笑って言った。


「そうは言っても、体は正直だな」

「今そういう行為してた?! 急に何言い出すんだこの人……」

「交えればわかるのだ。某は武を修めてきたからわかる」

「ナニとナニをまじえちゃうんだぁ?」ニチャア……


 瞬間槍が煌めく。

 眼前に槍の穂先。

 俺の玉がヒュッとした。

 アンジェラちゃんから振った話なのにぃ!


「殺すぞ」

「スミマセンでした」


 ふん、と息をつくと彼女は話を続ける。


「わかればよい。一種の職業病だ。某はその者の性格や感情を剣で読み取れるのよ」

「それで俺が犯人ではないと?」

「左様だ。言えないなら構わんが、事情がある事はわかった」

「俺とアンジェラさんに情事はないけどな! はっはっは!」


 ドゴォッ!!!

 額に衝撃。

 火花が飛び散る。

 アンジェラに槍の腹で叩かれたのだ。

 俺のおでこから煙がでる。

 彼女の口が笑っていても俺を見る碧眼が笑っていない。


「楽にしてやろうか?」

「ゴメンナサイ」


 商人が店に入ればどれほど儲かってるかわかるように、アンジェラは剣を交えれば相手の考えがわかるって事か。まさに達人だ。

 彼女は俺の事をじっと見つめると、少し考えて答えを出した。


「そなたの剣には信念があった。それは誰にも否定する事ができない。某はそなたを信用しよう。話してみろ」

「俺に、救いの手を差し伸べてくれるのか」

「内容次第だ」


 竜騎士団長アンジェラ、彼女は情に厚いと噂に聞いたが、ここまでとは思わなかった。

 それ故の団長という座なのかもしれない。

 この事件は俺一人で解決することは困難だと感じていた。

 でもやるしかなかった。

 彼女はそんな俺の気持ちを汲んでくれるらしい。

 俺は一縷の望みを彼女に託す事にした。

 胸元からギルドカードを出してアンジェラに見せる。


 名前 シュウ

 職業 傭兵

 年齢 25歳

 Lv 52

 HP 483/523

 MP 225/235


「俺は元傭兵のシュウだ」

「シュウ……あの伝説の傭兵と言われた……」

「勝手にそう呼ぶやつもいるが、実のところはこんなもんだよ」

「そう言うな。剣のみがそなたの得意分野ではないことも聞いている」


 アンジェラが俺の事を知っていてくれて助かった。話が早い。

 ギルドカードを胸元にしまいながら、彼女に語りかける。


「……一体何から話せばいいか……」

「思いついた事から話してみよ」

「俺は妹が大好きで、チュウしてあげたくて」

「ちょちょちょ、ちょっといいか? 妹は関係ある?」

「肉体的な関係があるかって聞かれると、まだない……って何言わせんの!」

「はぁ〜こいつめんどくせぇ〜……、まだないって何だ、関係持とうとするな!」

「関係は、持たない」

「そうだ、それでいい。続けてくれ」


 俺は事件の詳細を説明した。


「……という事だ」

「見えない敵に、二人の死体か。……なんともきな臭い話だ。いや、既に事件は起こっているがまだ何か大きな事件が起きるかもしれんな」

「あぁ、原因を突き止めなければならない」

「わかった。後は某に任せてくれ。それと縄で縛らせてもらう。決まりだからな」

「頼む……」


 俺は縄を巻かれる。ぐるぐる……。

 巻き巻き……。


「シュウ、ちょっと横に回ってもらっていいか?」

「こうか?」

「そうそう、やりやすい」

「あのー、アンジェラさん?」

「なんだ」

「巻きすぎだよなァ?」

「あっ、いっぱい巻いてほしいだろうって思って」

「そういう気遣いいる?!」

「皆喜ぶんだが……」

「よろこばねーよッ!! 皆って誰だよ……」

「わかった。あとひと巻きさせてくれ」

「俺の話聞いてた?!」

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毎回俺が凶悪犯にされる件について〜俺のかわいい妹が優秀で無能〜 シャトラ @chatrahnovel

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