二人でつむぐ、魔法のバズレシピ

奈良ひさぎ

二人でつむぐ、魔法のバズレシピ



「どうしたんだ」

「……ううん、何でもない。ちょっと、考え事してただけ」

「そっか」


 悩み事がありそうな顔を私がしていたのか、旦那が気遣って声をかけてくれた。それで今日が何でもない、ただの休日の昼下がりなんだと改めて実感する。

 旦那はいたって平凡な男だ。特別顔がいいとか、お金持ちだとか、そういう若い頃であれば求めていたような要素は何一つ持っていない。一つ旦那にしかない特徴を挙げるとすれば、私に特別優しいということくらい。その特徴は何の特別性もない、当たり前のことのようで、案外夫婦としてひとつ屋根の下で暮らしてゆく上で一番大事なのだということも、私は理解しているつもりだ。


「今日は何作る?」

「んー……考えてないかも」

「じゃあ、俺が適当に考えてもいい?」

「うん、どうぞ」

「よっしゃ」


 旦那は料理慣れこそしていないが、レシピをしっかり調べて、頑張って料理を作ってくれる。SNSなんかを見ていると、今の時代に夫も一緒に料理をするなんて当たり前、これまでは妻の仕事だったものを手伝うなんて当然、という意見がはびこっているが、私は少なくともそこまで過激には思わない。旦那は確かに世間一般的には平凡かもしれないけれど、いろいろと頑張る姿が可愛らしい。男に対して可愛らしいという表現が適切なのかどうかは置いておいて、間違いなく可愛らしい。苦労しているのを見ると、思わず手伝いたくなってしまう。


「で? 昨日のレシピはどうだった?」

「うん、まずまずかな。いつもと同じくらい」

「やっぱあの時みたいなことは、そうそう起こらないんだなー」

「そうかもね。何とかもう一回、ヒットしてほしいところだけど」

「そういうの、バズるって言うんだろ。前テレビで紹介されてたな」


 最近ネット上で、一人暮らしの人でも簡単に作れて病みつきになるほどおいしい料理のレシピを公開して、人気になる人が増えている。もしかするとそれに少し憧れていたのかもしれない。せっかくだし自分たちの記録をするのも兼ねてと、私は比較的簡単に作れて、旦那がおいしいと前から言ってくれていた料理のレシピを投稿してみることにした。何回か投稿しているうちに、上手くブームに乗ってくれたということもあって、そこそこ見られるようになった。さすがにテレビで紹介される人ほどではないが、それでもいい反応をしてくれる人がたくさんいる。


「ネットの世界が怖いっていうのはよく聞く話だけど、意外とそうでもないんだな。君の反応を見る限り、優しいらしい」

「たぶん……もっとこう、人を選ぶような話題だったら、こうはならなかったんじゃない? ご飯の話題だから。それに実際みんな作ってくれて、おいしいって言ってくれてるし。こうした方がよりいいんじゃないか、みたいな」

「なるほどな」


 旦那はあまりネットの文化というか、そういう独特の世界とは無縁の場所で生きてきた人間らしい。かく言う私もそれほどどっぷり浸かってきたわけではないが。だから二人とも初めは勝手が全く分からなかったが、今ではそこそこ理解している。つもりだ。今までで一度だけ、爆発的に人気になったレシピがあって、そのことを旦那に伝えると、それからは一緒にいろいろ試行錯誤してくれるようになった。今ではそうして、二人並んで台所に立つ時間が一番楽しい。このままずっと続いてくれるといいな、と思う。


「手伝おっか?」

「うん、お願いしようかな」


 旦那のヘルプに私は応じて、軽やかな足取りで台所に立つ。もちろんネットに上げて反応を見るのも楽しいけれど、まずは二人でおいしいと思える料理を作ることから。二人で楽しまなければ、きっとみんなにも楽しんでもらえない。


「今日は特に楽しそうだけど。何かあった?」

「ううん、何にも」

「そう?」

「ちょっと、ね」


 今日もまた、おいしい料理を作るために。二人の中での”バズレシピ”を作るために。

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二人でつむぐ、魔法のバズレシピ 奈良ひさぎ @RyotoNara

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