短編42話 数あるモテ期到来あれやれこれ食え女子
帝王Tsuyamasama
短編42話 数あるモテ期到来あれやれこれ食え女子
今日も俺、
俺は白いシャツにジーパン装備。対する遊紅絹は赤い長そでシャツに水色オーバーオール装備。これに外に出てるときは黒いキャップをかぶっていることが多いが、今は室内のためかぶっておらず肩を越す黒髪がよく見えている。二人して腕まくりしてる。
「取れ!」
「へいへい」
遊紅絹は選ぶ言葉も男っぽいというか、はっきりしゃべるタイプ。これらの要素だけだとかっこいい系女子(命令系女子?)なんだが……
遊紅絹専用黄緑色の踏み台が本日も活躍していた。そう、同じ中学二年生なはずの俺たちなのに、未だに初見者からは小学生扱いされまくる遊紅絹なのであった。遊紅絹の頭が大して身長が高いわけでもない俺の肩にも届いてないという。
(この受け渡しのときにちょいちょいぬれた手が当たるんだが……なんでかなー。俺だけか? こんなちょいちょい意識してんの)
「それじゃあお父さんとお母さんは買い物に行くが、二人はどうするんだ?」
こういうときの遊紅絹は特に命令することなく俺を見上げながら答えを待つ。この命令するのとしないのとの場面の差はなんなんだろうか。
「今日は~……遊紅絹と留守番しとくかな」
「わかったわ。じゃあゆもちゃん、
「任せろ!」
俺は動物かいっ。仁王立ちに両手を腰という勇ましい立ち姿だった。ちっちゃいけど。
父さんと母さんが車に乗って出かけていった。
主に日曜日や祝日だが、休みの日に遊紅絹が朝俺を起こしに来るときがあり、その日は自動的に一緒に朝ごはんを食べることになっている。
というのも遊紅絹の父さん母さんは土日祝日とかに朝早く、それも三時四時とかの超早く家を出ることが多く、うちの親と仲良しだからって遊紅絹をこっちで朝ごはん一緒に食べさせたらどやーという流れになりー。
ちっちゃいときはただ来て一緒に食べていたが、小学校の~……三年くらい? からうちの母さんと一緒に作るサイドにも回るようになった。
それから何年もこういう日を定期的に続けているため、手際が抜群になってしまった遊紅絹。今日なんて豆乳かぼちゃポタージュなる物が登場した。ただし口調は『パセリ食え!』『バジル入れるぞ!』……んまいと言えば『よかったな!』。あぁ別に俺パセリ嫌いじゃなく普通に食べるんだけどな。
俺より俺ん
静かになったダイニングテーブルで二人ココアを飲む。遊紅絹は猫の絵のマグカップ、俺はイルカの絵のマグカップ。
朝ごはんを食べた後はさっき誘われたみたいに家族と一緒に出かけるか、俺たち二人で遊ぶかっていう流れのどっちかがほとんど。遊ぶ場合は外に出ることが多いが、俺が留守番っていう単語を使っ(てしまっ)たため、こうして二人でココアタイムとなっている。
(……まあね? さっきの指先の感覚を思い出してしまいますわな?)
もうぬれてない遊紅絹の手。
「なぁ遊紅絹」
「なんだ?」
今はココアで落ち着きモードなのか、朝ごはん時のテンションではないようだ。にしてももし朝ごはんが喫茶店だったとしてもあのテンションで返事する気なのだろうか?
……やばい。容易に想像できてしまった。
「この前あった文化祭、美少女コンテストで優勝してしまったな」
「それがどうした?」
なんつー返しだ。
「い、いやぁ、俺が出てみればっつったから遊紅絹目立って、男子から~……まぁなんだ、付き合えって言われまくって大変な目にあわせちまったかなー、なんてな」
「気にすんな」
「はい」
(たった……たった五文字で終了させたぞこいつ!)
クラスメイトの私物である猫耳のアイドル衣装を着せられつつも『お前ら! 世界を平和にするぞ!!』と叫んだあの伝説の美少女コンテスト圧勝劇。
もともと遊紅絹はその身長の低さから学年を越えて存在が知られていたが、あの伝説により一気に人気者になってしまった。
そして同じ時期からたまにたそがれてる男子を学校内で見かけるようになったのも気のせいとも言い切れない感じだ。
ポエマーな男子がこの状況を『拡散されし恋の種は、実ることなくしおれてゆく。ああなんと無情な冴城遊紅絹』とかなんとかごちゃごちゃ言っていた。しかもそれに結構うなずくやつらが多かったのがまた印象的だった。
(さっきのあれからしても、やっぱそういうことに興味ないんだろうか)
俺は遊紅絹と一緒にいるとただ単純に楽しいけど、やっぱりこれからも一緒に過ごせる時間があればいいなとも思っている。
(……ぬぁー。なんか考えれば考えるほど頭ん中遊紅絹だらけになっちまうなっ)
「遊紅絹はさー。そういうだれかと付き合うのとかー、興味ない系?」
あくまで軽ぅ~くね?
「ない。よくわからないな」
「ほぅ」
こんな話題になっても口調は相変わらずである。
「
「ぉ俺!?」
この遊紅絹口調の中でも、女子とかやつとか言わず女の子って言うところのように、やっぱ遊紅絹女子なんだなと思うことがふとある。つーか俺が攻められてんじゃねーかっ。
「どんなことって……お、俺も別に今までにだれかと付き合ったことがあるわけでもないからな。そうだなー……」
イメージ的にはどっか遊びに行く感じだよな。
「一緒に遊んだり、困ったときに相談しあったり、なんか一緒に作ったり? とにかくなんていうかな、ひたすら一緒にいたいって感じだろうか。俺も相手をなんか助けてやりたい。楽しませたい。て感じ?」
白状します。遊紅絹を想像しながらしゃべりました。
「なんだそれは」
ずがしゃーん。ココアはずがしゃんさせてないが。
「私が普段雪に対して思ってることじゃないか」
「そっか。そっか? そ、そっかあ?!」
えっ。あいや。口調はいつものあっさりだが。
「ゆ、遊紅絹っ、そんなこと思ってんの?」
「当たり前だろう。料理を覚えたのも早起きしてるのもだれのためだと思ってるんだ」
(ふぉ~……)
待て待て。なんだこの感覚。鳥肌っぽいけどすんげーわき上がってくるこれ。
「ほ、他にも似たような事例があれば、教えてください遊紅絹様」
俺はココア飲みきった。
「コンテストに出たのも雪が言ったからだ。小さい裁縫道具を持ち歩いてるのも雪がカッターシャツのボタンやネームプレート取れてもすぐ縫えるようにだ。休みの日の用事を聞くのも退屈な日を作らせないためだ」
(まじかまじかぁ……)
そうだそうだよ。度々土日祝日の用事を聞いてくるんだが、用事がある日は来ていない。
「でも朝無理すんなよ? たまには手抜きでいいし、昔みたいにただ食べに来るだけでもいいんだからな?」
今日も気合入った朝ごはんだったからなー。
「嫌だ」
「がくっ」
まさかの却下。
「雪の『んまい』を聴きたい」
(おふぅ……)
ゆもみちゃん……それは反則ですよ。
「笑ってる雪を見たい。楽しんでる雪を見たい。雪が望むのならさっきみたいなよくわからない実験をしてやってもいい。それで雪が楽しいならそれでいい」
あぁ~、実験というのはですね。食洗機のときに、こう、試しに手を握ってみましてね? まあその、反応は『どうした?』だったんスけどね?
「ゆ、遊紅絹ぃ……」
リミット解除していいっスよね? OKっスよね?
「遊紅絹。立て」
「なんだ?」
遊紅絹を立たせる。ちっちゃい遊紅絹ちゃん。俺は手のひらを下にして手招きをする。
隣に座っていたためもともとそんなに距離があったわけではないが、遊紅絹はちょっと近づく。相変わらずまっすぐ見てくる遊紅絹。
近接戦闘の間合いに入ったので、俺は腕を遊紅絹の背中に回して、俺の胸に引き寄せた。
俺の顔のすぐ左に遊紅絹のちっちゃなお顔。ほっぺたくっつけたれ。
(…………セリフないな)
『何をしている!』とか『無礼者!』とか『なんだそれは?』とかさぁほらほら。なんかないんスか?
(なんもないんなら、ずっとぎゅってするぞ?)
ほんとになんもないから、しばらく遊紅絹の温かさを感じることにした。
(……いや、いくらなんでもなんもなさすぎじゃね?)
遊紅絹のこれまた細い両腕を軽く握って、俺の正面に立たせた。
(うはあ~!!)
なんとそこには若干うつむき加減で唇をほんのちょっと内巻きにしてる、そう、テレッテレ冴城遊紅絹ちゃんが存在していた!!
「か、かわいいなおい!」
知るか! 声出ちまったがよ!
「……そうか」
「そこはありがとうって言うんだぞっ」
すいません調子に乗りました。
がっ。ゆっくり目を閉じた遊紅絹。
「…………ありが、とう」
(はい撃沈~はい無理~はいもう遊紅絹にめろめろ~)
右手は遊紅絹の背中に、左手は頭にそっと添えて引き寄せると、遊紅絹はちょこっと目を開けたが、唇をくっつけるときにはまた目を閉じていた。
普段あんなに威勢のいいはずな遊紅絹の震えた唇と重ねることができてしまった俺。名残惜しいがちょっと離す。でもおでこだけくっつけとく。
「……なんかセリフくださいよ」
ちょっと震えてる遊紅絹。え、もしかしてまずかった……?
「……あっ、ありがとう……」
いい子すぎ。ほんともう。うん。あぁ。
「恋愛……興味ないとかわからないとか言ってたけど。俺と付き合ってくれないか?」
ちょっと上目遣いで見てはちょっと視線を外し、また見てきては~を繰り返している遊紅絹。
「……雪と付き合うっていうことしたら、雪はうれしいのか?」
「もちろん。てか付き合ってくれなかったら俺の人生終わる」
いやまじこれ誇張抜きで。
(うぉっ)
ちょっと笑ってくれた。まだ少しだけ震えてるけど。
「……雪がうれしいのなら私もうれしい。雪が私と付き合うっていうのをしたいなら、付き合っ、てもぃぃ…………」
(……ん? 歯切れ悪いな?)
「…………よっ」
ちっちゃくてかわいい遊紅絹を思いーっきり抱きしめた。ほっぺたすりすりしたれ。
短編42話 数あるモテ期到来あれやれこれ食え女子 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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