ひよこ男爵とワトソンくん

サラマン

ひよこ男爵とワトソンくん

「特技ってありますか?」

そんな質問を受けたことってあるよね?

友達とかの集まりで。

「む~ん、特技かぁ。そうだ!即興で物語が作れる・・・かもしれない多分!」

「多分ってなんだよ~」

隣で小突く別の男友達。

「毎日、物語を作ってる。それで綺麗にまとまったものができたときは時間を作ってネットに上げてる」

「はぁん!そんな趣味があるんだぁ!何かお話してよ!」

「そうだね。あれは大学生の時にイギリスに観光に行った時の話だ」


ビッグ・ベンっていう大きな時計台があってね。それはそれは立派で綺麗なんだ。暗くなるとライトアップされてたな。

私が行ったのは夏で、イギリスは緯度が高いせいもあって、夜遅くなってもなかなか暗くならないんだ。

9時でもまだ明るい。10時でもまだ。11時になってくるとようやく薄暗くなり始める。

私はビッグ・ベンと川を挟んで向かい側のテラスレストランで、ペスカトーレとベルギービールを頂いていた。その川なんて言ったっけな?そうそうテムズ川だった。

ちょうど11時になった頃、ビッグ・ベンの短針に二羽のひよこがあらわれた。

重力なんて無視して短針に張り付いていたよ。片方が大きな体で、ふんぞり返っていたなぁ。

「吾輩はひよこ男爵である!うふん!」

「よっ、男爵!今日もかっこいい!」

「今日は特別な日であるな?知りたいか?ワトソンくん」

「是非是非ご教授願いたいです~」

「うむうむ、では・・・」

そこで、ひよこ男爵は、むおっと声をあげて

「そこの男性、私を目視できるとはなかなかやりますな!」

ワトソンくんと呼ばれた小さなひよこのほうはきょろきょろしていた。

「11時が終わったら、次どうなりますかな?」

「11時半になるですぅ」

「違いますな。11時15分が訪れるのですぞ」

ひよこ男爵は私のほうをばっちり見ながら講義を続けた。

「今夜が記念スべき100回目。11時15分から時間の断絶が起こり、そこから100年間、他の次元の生き物が闊歩する世界になるのですぞ。まあまあ、人間の男性であるあなたには一瞬の出来事。体感することはできませぬが」

私はようやくライトアップされたビッグ・ベンを見ながら、2杯目のベルギービールを頼んだ。

「我々は時間の断絶から、他次元へと旅立ちますぞ。この次元も楽しかったであるが、お別れなのですぞ」

「どうもお世話になりましたです~」

私は店員がサービスしてくれたスモークチーズをつまみながら、その時を待った。


11時15分。ゴーンとビッグ・ベンが鐘を鳴らした気がした。体感3秒。空が真っ青になり、うん、それは濃い濃い青だった。明るくなって、でも濃い青に世界が閉じ込められて、そうほんのちょっとの間のことだったから。

また再び、夜があらわれた。

二羽のひよこはそこから消えていた。


私が息をゆっくり吐き出すと、周りの人達が騒ぎ出した。やれ目眩がするだの、時計が狂っただの、車が急停止しただの。ざわざわざわーっとあちこちから鳥がビッグ・ベンの空に躍り出て、狂ったように飛んで去っていった。


それが7月6日に起こったビッグ・ベンの騒ぎの正体だよ。関係があるのかわからないけど、あれから15年後、オリオン座の一等星ベテルギウスが超新星爆発を起こして、空を異常にした。あの時と同じことが起こった。ガンマ線バーストというんだそうだ。それも標準時11時15分にね?


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