兄妹デートはハプニングがいっぱい①

 さて、そんなこんなで小百合とデートの日がやってきたわけだが。


 朝起きて、軽くシャワーでも浴びて身支度を整えようかと階段を下りてったら、すでにリビングにはおしゃれ武装済の小百合がいた。

 白のタイトなタートルネックニットに……って、確かそのスカートは肩車専用のものじゃないか。タータンチェックの。


「あ、お、おはようございます!」


「……早いな、小百合」


「あ、はい。なんだかドキドキして寝れなくて」


 なんと初々しい妹なんだ。すまない、ぐっすり熟睡してしまった兄で。


 しかし、改めて小百合を見てみると、タイトニットなので、チューボーにあるまじきお胸のふくらみがわりと強調されてしまっている。この辺りは恵理さんの遺伝なのかな。おふくろから生まれた妹だったらここが残念だったかもしれない。


 ……いつかはこのふくらみも他の男のものになるのかと思うと、なんとなくモヤっとする。


 ま、まあ、生半可なチャラ男には小百合を渡すつもりはないので、俺が吟味すればいいだけの話だな。特にしんぺー、おまえには明るい未来は待ってないから、勘違いするなよ。


「ちょっとシャワー浴びてくる」


「あ、い、いってらっしゃい」


 シャワーという言葉を聞いて少し顔を赤らめた小百合の横を通り過ぎ、まずは浴室へと向かう俺であった。


 ……たまには、きっちりと髪型を整えるか。小百合の隣にいても恥ずかしくない程度には。



 ―・―・―・―・―・―・―



「おはよう睦月……って、あら、珍しいわね。アタマ」


「なんかその言い方、頭がノーテンキみたいに聞こえるんだけど」


 とりあえず三十分ほど悪戦苦闘した結果、なんとかサマになったヘアスタイルをひっさげリビングに戻ると、おふくろと恵理さんも起きてきていた。


「へえ、睦月くんがワックスでセットしてるところを初めて見たわ」


 おふくろに続いて恵理さんも同じく、やはり注目されているところは頭部である。

 そりゃ毎日毎日こんな面倒なことやってられないって。


「ま、いちおうきょうは小百合とお出かけなんで、最低限の礼儀として」


「そうなの? でもいいね睦月くん、そのヘアスタイル、まるでハニワ男子みたいよ」


「ハニワに髪型ってあったっけ……?」


 いちいち例えがおばさん臭い恵理さんであった。

 まあこのおばさんズはどうでもいい。問題は小百合の反応だ。


「それなりに気合入れてみたけど、どうだ、小百合?」


「……」


「おーい、小百合?」


「……」


「小百合さーん? まさかのノーリアクシャンですか?」


「落ち着きなさい睦月、くしゃみしてどうするのよ」


 小百合が固まっておる。お世辞でも見合っているとか学校いいとか言ってほしかった兄心は複雑怪奇。

 だめだ、脳内が混乱してるわ。


「……はっっ!」


「お、やっと小百合が戻ってきたわね」


「は、はううううぅぅぅぅ……」


 とか思ったら、我に返ったとたん小百合は俺から目をそらし、何やら縮こまるような格好で真っ赤になってしまった。


「なんですかそれ……お兄ちゃんはわたしを殺すつもりですか……」


「ん? 何か言ったか小百合?」


「はわわわわ、いきなり近寄らないでくださぁい!」


「……えっ」


 今度は俺が固まる。

 小百合のために行動したら小百合に否定されるというこのショックの大きさたるや、世界の終わりのそれに似ているよ。


「……」


「……」


「……あのー? なんで小百合は真っ赤になってるのに、睦月くんは真っ青になってるのかなあ?」


「いや、そりゃ真っ青になるでしょう……そっかあ、じゃあいつもの髪型に戻してくるかな……」


「そ、それはダメです!!!!!!」


「わっ!?」


「その髪型をしたお兄ちゃんはきょうわたしと一緒にお出かけするんです!! 今日のお兄ちゃんはわたし専用です!! そのまま一日ずっといっしょにいるんです!! それは確定事項です!! いいですか!! いいですね!?」


「お、おう……」


 なんだなんだ、小百合のアップダウンが激しすぎる。

 で、結局どっちなんだろうか、似合ってるのか似合ってないのか。


「……睦月、少しは察しなさい、兄として」


「睦月くん……真面目に理解してなかったの?」


「お、おう……」


 追加攻撃で、ふたりのマザーから厳しい視線を投げられました。

 えーと、それじゃあ、結局この髪型でいい、ということか? ま、今からワックス落とすのも手間だし、そういうことにしておいたほうがいいかもしれない。


「しかし睦月くん、そうしてると哲郎さんにますます似てるわね。今度、アタシともデートしようよ?」


 俺が混乱をひきずっているさなか、恵理さんがわざとらしくを作って右腕に絡みついてきた。

 いやそれはいろいろと問題あるんじゃないかなあ、なんて思ったのでやんわりとお断りしようとしたとき。


 ガタッ。


「……お兄ちゃんは」


 小百合がいきなり椅子から立ち上がる。なんかオーラみたいなの背負ってない?


「……あげません」


「へっ?」


「あ・げ・ま・せんっっっっ!!!!!!」


 おおう、どこかのおウマガールさんが小百合に乗り移ってしまったようだ。反撃された恵理さんのハト豆顔がおかしい。

 まあ、俺はモノじゃないけれど、これはこれで嬉しくなくはない。大丈夫だ、小百合の兄は俺だけだから。


 それじゃあ、今日のデートは、スペシャルウィークにふさわしいものにしますかね。お兄ちゃんはせいいっぱいエスコートをがんばりますよ、っと。

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妹できたよー、腹違いだよー! 冷涼富貴 @reiryoufuuki

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