プロジェクトS

真偽ゆらり

秘密組織特集 〜種を蒔く者達〜

 やっほー、地球の皆様! こんにちは! 異世界社編集部の記者、秘密組織担当でーす。よろしく。

 え、なんですか編集長、挨拶は真面目にやれ? ……はい、すいませんでした。


 改めまして、地球の皆さん! はじめまして、私は異世界社編集部の記者、秘密組織担当です。

 よろしくおねがいします。

 えっと、規定に則り社名や氏名など一部名称を控えさせております。ご了承ください。

 遠く離れた地の皆様に記事をお届けできて、大変嬉しく思っております。

 もしよかったら、読んでください。

 おねがいします。


 編集長、もう戻してもいいですか? 戻します。

 ふぅ、堅苦しいの苦手なんですよー。

 わた……うちの記事は砕けた感じがウリなんで、そこんとこ分かって読んでもらえたら嬉しいです。

 うちの旦那が担当した記事なんて読んでて肩が凝りそうで凝りそうで、最近お腹が出てきて本人自体は柔らかそうなのがねー、なんとも言えない。

 そんでぇ、そのこと旦那に言ったら、私の料理が美味しすぎるのがいけないって言うんだよ? ちょっとキュンときちゃった。でもぉ、最近忙しいからって、夜の相手全然してくれないの。私から、押し倒してもいいんだけどぉ、あのお腹だとちょっとって感じだし……。


 もーなんですか? 編集長! 記事に集中したいんですけど、なんか用ですか。

 脱線が過ぎる? う、たしかに。

 さっさと本題に入るか取材に行け? い、今からちゃんとやります、やりますから。

 あの、はい、すいませんでした。

 チッ、また怒られ……ご、ごめんなさい! 謝るので、どうか魔道具ボイスライターを取り上げるのは勘弁してください。

 そ、そうだ、しゅ、取材に行かないと! それでは、行ってきまーす。




 はぁ、編集長もそんなに怒んなくてもいいじゃんか、まったくもぅ。

 うわ、ヤッバ! 魔道具起動しっぱなしだった。

 これ、喋るだけで記事書けるから便利だけど、後から修正できないのよねー。

 まっ、いいや。

 ドキュメンタリーっぽくなるかも。なるかな。

 えっと、待ち合わせの場所は……。



 あ、すいません、お待たせした。

 えっと、秘密組織『種を蒔く者達シード・スプレッダー』の方ですよね。


「はい、そうですよ。何か変なおかしな所でもありましたか? あ、それと組織の名前はあまり口に出さないでもらえると……」


 あはは、すいません。

 秘密組織って、こう、なんか薄暗い感じのとこみたいなイメージがあったもので……。


「ああ、そういうことですか。うちの組織は秘密基地的なものとか無いんですよ。」


 そうなんですか、なんか意外ですね。

 それで、えっと何をする組織なんですか? いまいちイメージが掴めないんですが。


「組織の目的は『拡散する種』を蒔くことです」


 『拡散する種』……鳳仙花とかですかね。


「よくご存知ですね。鳳仙花は我らのシンボルとなってます。鳳仙花のブローチが一員の証ですね」


 胸のソレ、鳳仙花だったんですね。

 実は何の花か分からなかったですよ。

 見覚えはあったんですけどねー。


「あはは……、でも、実際に扱っているのは『噂』ですよ」


 噂? 何の噂です? 何か有力な情報なら我が社で買い取ることもできますよ。


「いえ、『噂』そのものです。『噂』こそが我々の蒔く『拡散する種』なのです」


 あー! なるほど! 確かに噂はどんどん広まっていきますもんね。

 それで、どんな噂を蒔くんですか? 問題無ければ教えてもらいたいです。


「それは依頼人次第ですね。ですが、主に集客目的だったり、商品の宣伝目的の良い噂ですね」


 それじゃあ、我が社の雑誌とかお願いしてもいいですかね。


「いいですけど、結構しますよ? 雑誌とかの商品だと、だいたいこれくらい……」


 うぐ、結構しますね。自分の記事が載った号を大ヒットさせて、給料アップ! と、思ったんですけど、割に合いません。むしろ赤字です。大赤字。


「それはそうですよ、一個人で依頼できるトコでは無いですからね。お金持ちでもなければ」


 ですよねー。でも、安心しました。

 実は、ここに来る前は、私に種を蒔かれちゃうかも! 私には旦那が……。とか、でも最近旦那とはご無沙汰だから……みたいな妄想しちゃったりしたんですよね……。

 あ、気に障ったらごめんなさい。


「それは種蒔きの暗黒面ダークサイドに堕ちた者達がする事です!」


 だ、暗黒面ダークサイド ですか。


「はい、無理やり子種を蒔く、悪評を広める者達のことです。後者に至っては、知らず知らずのうちに暗黒面に足を踏み入れることなるので気をつけて下さいね」


 は、はい。せいぜい旦那の愚痴とかに留めときます。


「ええ、愚痴程度であればかまいませんよ。ガス抜きは必要ですからね。ちなみに、暗黒面に堕ちた組織の者の成敗も仕事の内ですね」


 成敗ですかー。過激な一面もあるんですね。


「噂でも人を死に至らしめる結果になる事あるので仕方ありません。ただ、強姦魔のクソ野郎は、男として生きていけなくしてやりますがね」


 そっちは男だけが対象なんですね。


「まぁ、女性ではアレがついてない限り蒔けませんからね」


 あはは、それ以外にも組織がすることってあるんですか。


「後は、普通の種蒔きですね。あ、蒔くだけですよね、蒔くだけ。自分の家庭菜園とかでない限り育てたりせず、安全な植物の種を適当に蒔いてます」


 ま、蒔くだけですか……。


「ええ、蒔くだけ。あ、これ、鳳仙花の種ですが、良かったら蒔いて下さい」


 あ、ありがとうございます……。これ、子供の時を思い出します。懐かしい……。

 あの頃の旦那は可愛かったなぁ……。


「あ、あの? 記者さん?」


 は! すいません。

 えっと、そうだ! 何か大きな仕事とか無かったんですか? ここ最近で一番大きな仕事を教えてください。


「一番大きな……、ある都市の四年に一度の祭典って知ってますか? 確か最近『異世界オリンピア』と名前のついた祭りなんですけど」


 知ってます! 知ってます。全裸で競技を行う変なお祭りですよね。今、旦那がそれの競技場建設の取材に行ってます。

 確か、八年くらい前から急速に知名度が上がってきたって……まさか! そうなんですか。


「ええ、我々が噂の種を蒔きました。女性の競技者も出ると、しかも全裸だと、酒場の男冒険者達に」


 男ってバカですねー。

 でもそればっかりは、男に広めた方が効果ありそうですね。報酬も結構貰えたんじゃないですか。


「いやー、それがここまで爆発的に広まるとは思って無かったので、成功報酬の歩合をもっと上げておけば良かったと後悔してますよ」


 スケベ達を甘く見てましたね。


「ふふ、そうですね。でも、依頼人の方々には大変感謝していただいて、それには満足しております。あ、そうだ、取材を受けることを話したら、コレを記者さんにって依頼人の方が」


 これって、その祭典の観戦券じゃないですか! いいんですか? 抽選の倍率がとんでもないことになってましたが。


「宣伝費だそうです。それに、我々の仕事の一大成果でもあります。取材しておくべきではありませんか?」


 た、確かに。いや、でも全裸……。

 見たいような、見たくないような……。


「競技者は基本マッチョですよ」


 行きます! 観戦券ありがとうございます。

 そうね、上半身だけ見ればいいわよね。

 っと、取材は以上になります。

 本日はありがとうございます。


「いえいえ、こちらこそ。あ、上司の方にもし何か宣伝したいことがあれば我々にとお伝えください」


 分かりました。それではこちら取材費です。

 それでは。






 編集長ー! 私『異世界オリンピア』の取材行ってきます。観戦券もらったんです。

 じゃ、行ってきます。

 お説教は、帰ってから聞きますー。

 あ、宣伝の依頼お待ちしてるそうでーす。





 祭典は大盛況でした。凄かった。

 見たくないと見えなくする変な光も凄かった。

 こう、なんか、滾ってくるわね。

 それと、旦那と合流しました。なんか、お腹が引っ込んで筋肉質になってた。惚れ直しました。

 



 今、旦那と一緒に旦那の取材相手が故郷を出る所を遠巻きに見てます。

 あ、女の人が来たわ。

 キャー! ちょっとあなた、これ甘酸っぱいわー青春ねー、もう、なんでだま……むぐ。

 分かったわよ、静かにするわよ。

 うぅ、良がったわー、おじあわせにー。

 はぁ、ねぇあんた、思い出すわねぇ。昔の私たちもあんな感じやったわぁ〜。

 ほな行こか、何処って宿よに決まってますやろ、わたしも若いもんの気に当てられてしもぅたわ〜。久しぶりに、ええやろぉ? ご無沙汰やったしぃ〜。


 え、素が出たる? しもた、まだ魔道具起動したまんまやったわ〜。

 ゔゔん、えっとー、記事はこれで終わりだよー。

 まったねー。



 これで良しと。

 ほないくで、はよぉ。

 愛し合おぅやないのぉ。


 おっと魔道具切んの忘れとった。

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