プロローグ B
『アルカディアオンラインの世界へようこそ』
どことなく機械的な、落ち着いた女の声だった。
『これからあなたのアルカディアオンラインの世界のアバターを作成します。アバターはアルカディアオンラインの世界でのあなた自身となり、そのほとんどは途中で変更することができません。時間制限はありませんので、納得のいくように設定してください』
少しずつ意識が覚醒してくる。
……あぁ、そうか。俺は、ついに来たんだ。
『まず最初にあなたの名前についてです。元の世界での名前をそのまま引き継ぐこともできますが、新たに設定することもできます。名前は変更することができません。ふざけた名前や、ハンドルネームにして後悔しないようにしてください。基本的には、元の世界の名前でなくとも、普通の名前であるように認識される名前が良いでしょう』
いきなり難題だ。目を開ける……と言いたいところだけど、「目」という感覚がなくて開けることができなかった。
でも、その意思は伝わったのか、ぼんやりとビジュアルが浮かび上がってきた。
項目は「名前」しかない。
でも、「名字を追加する」「中間の名前を追加する」という項目がある。
つまり、名前だけにもできるし、名字アリにもできる。そしてミドルネームも設定できる、ってことかな……
――これ、公開されたりするのかな?
『名前はあなた、あるいは第三者がステータス画面で確認することができます。ただし、第三者のステータス画面にどう表示させるかは、あなたの名前にかかわらず別に設定することもできます。これは、名前を隠し、通り名や偽名で暮らしたい場合に適しています。ただし、相手によって名前を変えるということはできません。その場合、名前を非表示にしてください』
あぁ、問いかければ答えてくれるのか。そうだな、じゃあ、いつもオンゲで使ってる慣れた名前がいいか。
――アキト。
『次に性別の決定です。性別はあなたの性自認によって自動的に決定されます。性自認がどちらでもない場合は、どちらでもない性別に設定されます。自動判別によりあなたの性別は男性に決定しました』
『次に容姿の設定です。この容姿の設定は、身長、体重、筋肉量なども自動的に設定されることになります。あなたの望むキャラクターのイメージを固定してください。アルカディアオンラインでは容姿はみっつのタイプが生成されます。この容姿の設定をどのタイプを基準にして行うかはあなたのイメージがどのタイプに近いかによって自動的に変更されます。なお、人間の男性としての外観から著しく離れた容姿を設定することはできません』
これはまた難しいことを言ってきた。イメージしろってか。
とはいえ、リアルの自分の姿を再現しよう、という気にはならない。デブで、もっさりしていて、自分でもキモいと思ってたし、いいところがまるでない。つまり、ここではイケメンをイメージすればいいんだ。
そう思ってイメージしたが、イケメンという感じにはほど遠いものが浮かびあがってきた。え、これになるの、とちょっと焦ったが、どうやらハッキリと決定しないと決まらないらしい。
がんばって、俳優とか、そういうものをイメージしてかっこよくしようとするんだけれども、のっぺりしたちょっとキモい見た目にしかならない。
そうして何時間か試行錯誤していて気づいた。もしかして、人間をイメージしなくてもいいのでは?
みっつのタイプの見た目から、イメージしたものに近いタイプをベースにして生成するって言ってたし、ってことはアニメキャラクターでイメージすれば、他のタイプの見た目はそれに合わせてできる、ってワケだろ?
だったら、アニメならよく見てるし、アニメのイケメンは割とイメージしやすい。
そうしてイメージしていくと、浮かんでいるビジュアルはリアルな、ちょっとキモい人間から、アニメの……っていうか、イラストのイケメン風になった。あー、あるある。Vの人の元のイラストとかこんな感じだよね。超再現度高いモデルって感じ。
――コレで
『あなたの容姿が決定されました。次はあなたのライフタイプです。ライフタイプは戦闘・生産・商業のいずれかから選択します。これは、あなたのスタート地点の環境や、あなたのスキル、アビリティ、能力補正に影響します。途中で変えることはできますが、変えた場合でも習得した能力や補正値は変更されません。』
――戦闘。
『戦闘タイプは、冒険者、兵士、戦士、騎士、盗賊などのタイプです。これでいいですか?』
――はい
『あなたのライフタイプは戦闘タイプになりました。あなたはスタート地点の環境を希望することができます。これは、職業、親の職業、居住する土地の特徴などです。これらの希望は必ずしも叶えられるわけではありませんが、不都合がない限り近づけるようになっています』
やっぱアレだよな。ここはベタに、勇者の血を引く未覚醒の冒険者とか……あ、いやでも、別はこの世界で最強なんだけど、実力を隠して一般人のフリをしている伝説の魔術師とかのほうがいいか?
散々悩んで……というか、いったりきたりでいろんな希望をつけた。
とりとめなかったけど、まぁ多分言いたいことは全部言えた。
『次にあなたの年齢です。この世界でも通常は加齢が発生します。ただし、現実よりもかなりゆるやかな加齢であり、体感的にはより長寿です。また、年齢が高い状態でスタートすると、あなたのライフタイプに合わせて高い能力値でスタートしますが、余命が短い分成長の余地が小さく、またタイプの変更が難しくなります。あなたの年齢を設定してください』
――十七歳
『次にあなたが加護を受ける属性を決定します。火属性は攻撃、水属性は回復、風属性は回避、地属性は防御に適しています。言い換えると、火属性と風属性は速攻型、水属性と地属性は耐久型です。火属性は強力ですが風属性と地属性を苦手とし、水属性は火属性に押し切られやすいもののバランスがよく回復しやすいため扱いやすいです。風属性は全属性に対して強みを発揮しますが扱いが難しく、地属性もチャンスを逃さない巧みさが必要です。風属性と地属性は互いに相性が悪く、地属性と水属性との戦いでは膠着状態に陥りがちです』
ん? なんかすごく複雑だな。単純に何属性に強いとかじゃないのか。
――もう一回
『あなたが加護を受ける属性を決定します――』
うーん……地属性が地味な上に強さなくない?っていうか、普通に考えて火属性か風属性だと思うんだけど。王道は火属性かな。でも、風属性と地属性に弱いわけか。風属性は地属性とお互いに苦手……ってことは、一方的な弱点属性はないってことか?
――風属性
『あなたから見えるキャラクターのビジュアルを選択します。アニメ風、3Dモデル風、リアルから選択してください。これは後から変更できます』
――ううーん…………アニメ風
『以上で初期設定は完了です。それではスタート地点に転送します。アルカディアオンラインの世界をお楽しみください』
アルカディアオンライン 水樹悠 @reasonset
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