「捨ておじさんを拾った女子高生の話」
作品名からして違和感を感じる作品です。
"おじさんが女子高生を拾った"わけでもなく、"女子高生がおじさんに拾われた"わけでもありません。
この作品名に偽りなく、女子高生「咲楽(サラ)」に視点を置いて物語が進行していきます。
◆独特な世界観
私がこの作品を読むにあたっては、やはりどのような世界観なのかが一番気になりました。話としても、「女子高生がおじさんを拾っても違和感のない展開」で語られることを期待していたのかもしれません。
しかしながら、世界観に対して焦点が当てられることはありません。なぜなら、"捨ておじさん"を"捨て猫"と読み替えたような価値観を登場人物が全員持っているからです。
その価値観に違和感を持つ人物が誰も登場しないわけですから、言及されることもない、というわけです。
言及されていない以上、そこは想像するしかありません。
それもまた小説の醍醐味の一つではありますが、私としてはそれでももう少し言及してほしかったように思いました。ここは好みの問題でしょう。
◆おっさんかわいい!
「"捨ておじさん"を"捨て猫"と読み替えても遜色ない」ということは、要するに「おっさんがかわいい」ということでもあります。
咲楽のほうに男気があることで、よりそのような印象を持ってしまいました。
◆あとがきについて
「ギャルゲーのノーマルエンド的な感じ」は言い得て妙な表現です。
作品名から受けるインパクトが強かっただけに、尾を引かない終わり方であったのは意外でした。
昨今は、「まずは読まれること」を目的として、どうしても刺激的な描写を含む作品になりがちな気がしています。
だからこそ、こういった"ハートフルストーリー"に新鮮味を感じてしまうのかもしれませんね。
◆最後に
氏の書く小説は、心理モデルまで計算された非常にリアリティの高い行動を登場人物が取り、また世界観まで作り込まれているため、内容に説得力を感じますし、没入して読むことができます。
今回は一話完結の短編小説ということもあって、サクッと読了することができました。
素敵な作品をありがとうございました。