アルカディアオンライン
水樹悠
プロローグ
プロローグ A
アルカディアオンライン。それは、二〇六八年に正式サービスがスタートした、VRオンラインゲームである。
このゲームはあらゆる意味で革新的であり、多くの議論を呼んだ。日本のAI技術者、アメリカのAI企業、韓国のゲーム企業、中国のクリエイティブ産業企業が一体となって制作を始め、様々なニュースでセンセーショナルに取り上げられたこのゲームは、史上初の「全感覚没入型」であり、まさにその世界の中に生きている感覚でプレイできるゲームであった。
二〇六一年にベータサービスが開始されると、ごく限られたベータテストプレイ当選者の興奮の語りからゲーマーたちの間でも話題となった。
ゲームの世界観こそオーソドックスな剣と魔法のファンタジーだが、ゲームのステージ、ルール、アイテム、スキルなど極めて幅広い要素をAIが自動生成、常に未発見要素が残されていることから例え全没入でなかったとしても前代未聞のゲームであった。
プレイヤーの好みに合わせる要素も好評だった。プレイヤーは特別な地位を与えられてスタートするわけではないが、大まかにわけて戦闘系、生産系、商業系の三タイプに分かれ、そのゲームをどのようにプレイするかということにも無限の可能性があった。また、アバターは三種類の外観を与えられた。それは、アニメキャラクターを立体化したようなもの、3Dモデルとして美しく作られたもの、実写そのものであり、これらは連動し自動で変換されるが、どの見た目になるかと各プレイヤーの希望によって決定される。つまり、アニメキャラクター風のビジュアルを好むプレイヤーは、最初にそのように設定することで全てのキャラクターがアニメキャラクター風ビジュアルとして見えるのだった。
一方で、全没入であり、ゲームの中で「生活できる」ことから、「現実生活を喪失する」「現実と虚構の区別がつかなくなる」などの厳しい批判にさらされた。また、ゲーマーたちからも全没入でありながら実際に体を動かすような感覚が希薄であったり、感じ方が現実のものと比べて違和感がある、ということに批判もあった。二〇六五年、このゲームが「その人そのものを置き換える」という発表がされると、これらの批判が吹き飛ぶほどスキャンダラスに取り上げられるようになった。つまりは、その人を分解し、解析することでデータ化する。これによってゲーム世界に取り込むことができ、電子世界の中で生きられるようになる。もちろん、簡単な話ではないが、他の世界へと移転することもできる。彼らはこれを「転生する」と表現した。
世間はこれを悪いものであるとした。だが、それを欲する者は少なくなかった。永遠の命を欲する者、今とは違う人生を欲する者、理想の容姿を欲する者、二次元世界の生活を欲する者、あるいは今の苦しい現実からの逃亡を望む者。
「死に変わる救済である」という言説は、いくつかの国で比較的容易に受け入れられた。そしてアメリカで、難病を患った息子にせめてゲームの中でも人生を謳歌してほしいと訴える母親の姿がTV放映されたことで、純粋な悪という扱いからセンシティブな扱いに変わっていった。
二〇六七年。ついにベータサービスへの転生の受付が始まり、話題のキッカケとなった少年もアルカディアオンラインの世界へと転生した。それぞれの国で法的に様々な制約を課されたが、それでも条件さえ満たせば転生が可能になった。アルカディアオンラインに新たに転生した人もおり、それらの多くは難病患者であった。一方、既にベータテストに参加していたプレイヤーの中に転生を選ぶ者もいた。
このような「ベータ転生者」からは驚きの報告が上がった。今まで感じていたレスポンスの悪さ、違和感、感覚のズレが消えて、リアルそのものになったこと、そして長時間プレイ時に感じられた気持ち悪さも消えた、ということだ。
ゲーマーたちはこれに敏感に反応した。世間的な反応から言っても、将来的に新たに全没入のゲームが登場するかは微妙であった。これは究極のゲームなのだ。そして、AIによって無限に進化する、無限に遊べるゲームなのである。
二〇六八年、ついに正式サービスが開始された。
非転生者のプレイヤーは引き継ぎは一切なし、転生者プレイヤーは一部引き継ぎ可能、非転生プレイヤーは正式サービスではなし。
世間は慎重に反応した。だが、希望者は跡を絶たず、少しずつ、アルカディアオンラインはプレイヤー数を増やしていった。
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