【出張版】科学技術の雑ネタ

水乃流

宇宙に種を蒔く ~パンスペルミア説

 人は誰しも自分のルーツが気になるもので、「生命の起源」に関してはさまざまな研究がされています。19世紀ころまではアリストテレスが提唱したと言われる「自然発生説」が信じられていました。これは、「生命の胚種」という生命のもとから物質が構成され、生物が生まれるとする説です。たとえば肉汁を放置していると、いつの間にかウジが湧いていたりしますよね。昔の人はソレを見て、「何もないところに生物が生まれた」と勘違いしたんじゃないでしょうか。そもそも、ハエが産んだ卵から成長するわけですから、という言葉自体おかしいとも言えますね。

 生命の起源として、現在信じられているのは、「化学進化仮説」です。無機物から有機物が作られ蓄積した“有機的なスープ”となっていた原始地球の海で、有機的な反応により生命が発生したとする説です。この説を実証するための実験として有名なのが、1953年にシカゴ大学のスタンリー・ミラーが、彼の師であるハロルド・ユーリーの指導の下に行った実験でしょう。「ユーリー・ミラーの実験」と呼ばれるこの実験は、装置の中に原始の海洋を模した化学物質を含有した水と、同じく太古の空気と考えられていたアンモニアやメタンなどのガスを入れ密封し、加熱することで蒸気となった気体に落雷を模擬した放電を行うというものでした。ミラーがこの実験を一週間、繰り返し続けたところ、生物の主要な物質であるアミノ酸が数種類生まれたと言います。しかし、のちに地球物理学の進歩によって、実験が行われた当時考えられていた原始地球の大気が、実際には組成が異なるものだったとわかり、ユーリー・ミラーの実験は重要視されなくなりました。

 それでも、化学進化仮説は信じられています。この仮説が、一番単純だからなのかも知れません。一方で、SFのネタとして用いられるのが「パンスペルミア説」(パンスペルミア仮説)です。パンスペルミア説は、「宇宙から地球に落ちてきた“生命の種スペルミア”によって、地球の生物が生まれた」とする仮説です。パンスペルミアという言葉は、古代ギリシアの天文学者、サモスのアリスタルコスが提唱したとされています。


科学技術の雑ネタ「生命はどこから来たのか」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885557884/episodes/1177354054892387864


でも少し触れています。


 SFとしては面白いモチーフであるパンスペルミア説ですが、異端とまではいかなくても積極的に支持する人は少ない印象です。個人的にはフランシス・クリックらが提唱した「意図的パンスペルミア説」が原因ではないかと思っています。「知的生命体が意図的に“種まき”をした」というこの説が、一般人にとってあまりにオカルティックというか、眉唾に聞こえてしまったからではないかと思っています。実際には、地球上の生命が地球上にわずかしかないモリブデン(Mo)が、必須元素として生命に重要な役割を果たしていることが論拠になっています。ここから生命の起源は火星であるとする「火星起源説」(火星由来説)が生まれたりするわけですが。


 一方で、化学進化説を唱える研究者からは、「生命の種が宇宙線に耐えられるはずがない」「たとえ耐えられたとしても、大気圏突入の高温に耐えられない」という反論があります。こうした反論に対して、「隕石の内部にあれば、過酷な環境にも耐えられる」という反論の反論もあります。

 実際、前述のコラムにも書いたように、地球に落下した隕石から糖(リボースなど)が発見されていますし、彗星探査機「スターダスト」や「ロゼッタ」の調査でも彗星表面から有機物が検出されています。

 また、日本薬科大学の先生が中心となって行われた「たんぽぽ計画」は、微生物の天体間の移動の可能性の検討と微小隕石の検出および生命の材料となり得る有機化合物の解析を目的としています。要するに、パンスペルミア説の裏付けとなるような証拠を見つける研究です。現在、その後継ミッションである「たんぽぽ計画2」が始まっています。


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