23.5日 幕間:厄災とマシロ

 魔核についたゴーレムの肉腕は極めて元気に動いている。


「活きがいいねぇ〜♪」


 一生懸命に周りの肉を吸収しでかくなろうと絡みつく触手。無論、マシロのプニプニほっぺの前には吸盤が絡みつくような程度であった為、マシロのテンションは逆に上がり気味であった。ちなみに一般人の場合は皮と肉が一緒に剥ぎ取られて綺麗に骨だけが表れる形となり即死になる。


 レイに目配りをすると、一番太い触手を魔核から切り離される。


 それを持ったマシロはとりあえず口にいれると、ムチムチモチモチした食感の中にほんのりとした旨味成分を感じる。


「ふ〜モグモグ〜〜む〜〜モグモギュ」


 美味いがどうやら普通の人では生では食べられそうにない。口の中でも結構へばりついてくるので食道でつまって息ができなくなるのだとすぐに予想できた。ちなみに、マシロの場合はへばりついた時点で、その表面が消化(とか)されるので問題はないのである。


 マシロはモギュモギュと食べながら、魔核の触手をじ〜〜〜と見る。


 更にレイに目配りをすると、両手でお碗の形を作りその上で大きな水の塊をだす。マシロが頷くと次は小さな火の玉を水の中に入れると消える事もなく、水が煮えはじめてポコポコとお湯に変わっていった。


 そこに魔核から生えていた活きのいい触手を入れると、赤く染まり縮みながら丸まっていく。


 それを取り出すマシロ。そして『ふぅふぅ』と少し冷ましながらハフハフと食べ始める。


 口に入れて噛むと皮部分がズリンと剥けて身がプリッと歯応えはムチっとだけど、噛めば噛むほど旨味成分が口の中で広がっていくのを感じる。


 その瞬間、マシロの頭からピコンと電球が飛び出た。それを見た周りが騒めく。マシロが食べ物を食べて何かを思い出したというなら、それは新しい料理の出現を表していたからだ。


 その瞬間、ちょうどゴーレムの肉腕を持って帰ってくれた5人から、

「マシロ様、レイさん。少しお話ししたいことがあります」

 と、言われる。


「⋯⋯うん。キコウカ」


 マシロのテンションは一気に下がる。だが、この食材を持って帰ってくれた5人を無下にはできない為、話をしぶしぶ聞くことにした。


 が、ここでマシロ処世術の出番である。

 ある程度、上司であり、好感度も65%以上あれば確実に通用する技。


「うんうん」「⋯⋯ふむ」「なるほど⋯⋯」この3点があればどうにかなるのが世の中である。


「ーーーですが⋯⋯」


「うんうん」


「そこでーーー黒いーーが!」


「なるほど」


「俺の力ーーーー」


「⋯⋯ふむふむ」


 ちなみに、この聞いてるマシロはすでに自動化(オート)になっている。自動で返事をし応対してくれるマシロは、まさに最先端技術を搭載していると言えるであろう。


 その死角から場を脱出したチビマシロは、ルイス君に薄力粉、小麦粉、出汁、卵、ネギなどを用意させ、更に鍛冶屋に鉄板に丸い凹みを入れて持ってくるように指示をしていた。


 話の内容? マシロにそんなモノは興味がありません。けど、ウチの秘書兼メイドであるレイは作業をしながらでも話を聞き、簡潔に重要部分だけをあとで教えてくれるのである。ちなみにしょうもない内容だとレイが返事をして終わりなのです。


 5人が必死に語っているマシロの背後では、鍛冶屋のおっちゃんが持ってきてくれた鉄板を火で温めていた。


「で、こんな鉄板で一体何をつくるんでさ?」


 鍛冶屋のおっちゃんが興味を持ちながら聞いてくるが、ここまでくれば何を作るかは明白である。


「肉腕(たこ)焼きさ!」


 チビマシロはドヤ顔で話すが、いまいち周りはピンとこない。それでも気にせず指示を出し始める。


 1:小麦粉95g薄力粉5g(もう少し増やしてもいい)に出汁400ccと卵2個で生地が出来る。


 2:それを温めた鉄板に入れて、天カス、ネギ、紅生姜、茹でた肉腕を一口大に切った物をさらに入れてひっくり返して焼くだけ。


 マシロは様々な調味料を次々に吸収していき、オ◯フクソースに似た味を作り出す。これはマシロしかできない為、その味を舐めて確認したレイが、この世界で再現できる物を瞬時に書き上げてルイスに渡す。


 出来上がった肉腕焼きにソースを塗り青のりをかけたら、即座にチビマシロはすぐにかぶりつく。


 フワッフワの生地からはトロリとした出汁と旨味が混じりトロ〜リとした極上の生地(スープ)が溢れ出す。それが奥深いソースと混ざり更に味を引き立てていく。


「お〜い〜し〜い〜ねぇ〜〜♪」


 チビマシロがほっぺを膨らませながら感涙している。そして、その周りでも鍛冶屋のおっちゃんやルイス君達が、口の中にくる熱さにハフハフと耐え忍びながら、その美味しさに驚き堪能していた。


「マシロさま、5人のお話が終わりましたよ。内容的には彼らに新しい力が宿った事ですが⋯⋯その新しい力というものが天災を引き起こす力らしく、その諸悪の根源がマシロ様とお話がしたいとの事です」


 レイも一緒に食べていたが、噛んだ後にすぐに呑み込むと口を少しだけ隠しながらマシロにそう言った。これは余談だが、固形物ならよく噛まないと身体によろしくはないが、トロリとしたモノや汁などでいえば熱いまま飲み込み食道で熱さを楽しむのも立派な美味しく食べる方法である。旨味は口の中に残っているので、熱さが食道を走っていく感覚は新鮮で楽しいですが火傷には注意しましょう。


「なるほどね〜。その天才とお話ができるの?」


 ちびましろが消え、本体に戻ったマシロは何事も無かったように会話に戻る。


「はい。では、よろしくお願いします」


 イチゴが手を前に出すと、黒い渦が出現して黒一色のチビマシロを象っていく。


【やぁやぁ、初めまして。僕がその天災さ。本当に今のこの姿って君そっくりなんだね】


「みたいだねぇ。で、話ってな〜に?」


【早速、本題なんだ? なんか、こう、おしゃべりが好きそうな子とおもったけど、そうでもないのかな? この姿をみたら聞いてくると思ったけど】


「ん〜興味ないにゃぁ〜? ウチとしては知る必要がないからなぁ〜」


【ふ〜ん。まぁいっか。本題の前に、この子達の前の身体ってどうなったの?】


「うん? ウチの中にあるんじゃないかな?」


【じゃあ、それを返して欲しいんだよ。この子達がほんとは依代になって僕が生まれるはずだったんだけど、健康体になってたからどうも僕が表にでられないんだよね】


「おっけ〜。っていうか、前の身体ってどんなのだっけ?」


【えっと、なんかよくわかんない黒い液体だよ。なんか見るからに禍々しい感じ液体】


「ほいほい。ちょっとまってね〜。ん〜? んん〜?」

 マシロが内部を調べてもどうにも引っかからなかったのでレイの方を向く。

「レイちゃん。よくわかんない液体ってどこかに置いたっけ?」


「⋯⋯マシロ様。先程、骨をディップして食べていたのがソレだったはずですよ」


「⋯⋯わぉ。たしかに、よくわかんない液体出してたね⋯⋯」

 そう言いながらも確認できた黒い液体はギリギリコップ一杯だった。


「ごめんね〜。よくわかんない液体だから、ちょっとつまんじゃってた」


 おずおずとコップを渡す。


【うわぁ〜⋯⋯本当に飲んでたんだ⋯⋯。なんというか、よくわかんない液体をつまんじゃ〜だめなんじゃ⋯⋯この子達の話を聞くと正にその通りだったと実感するよ⋯⋯】


「えへへ〜。それほどでも」


【誉めてはないんだけどね⋯⋯。うん。これだけでも僕の存在理由は果たせるから問題はないんだけど、本当にいいの? 天災のぼくとしては今回はどっちでもいいんだけど】


「いいよ〜。べつに水都に被害でなければ〜」


【了解。君達もありがとうね。僕の力を使った姿は個性的でなんだかカッコ良かった。だから⋯⋯】


   【みんな早くここから逃げてね】

 黒いチビマシロがコップの液体に吸い込まれていくと、受肉を得た黒いちいさな人間がすぐに現れた。


「逃げるって⋯⋯どういう意味だ?」


 そう思った瞬間、黒い人間の頭が膨らむとボコボコと破裂すると中から黒いモノが溢れ始める。


【キキっ、キャっ、クク⋯⋯、あはは】


 ボコボコと溶岩のように泡立つ黒い液体から様々な種類の笑い声が聞こえてくる。


 溢れ出た黒い液体は全てを喰らうかのように飲み込んでいく。


「こいつ!! マシロ様、一度退避を! 申し訳ございません。この場で『天災』をばら撒くと思いもしませんでした!」

 イチゴが焦りながら言っている中、マシロは変わらずお茶をする。


「⋯⋯⋯⋯ふむり。マシロは理解したよ。これは天才じゃなくて天災なのね。じゃあ、これは水都に害を成しそうなのかな?」


(気づいた顔も可愛らしいマシロ様。最高!)

 冷静なレイも、やっと気づいたマシロに見惚れる。


「はい! ですので、早く退避を!」


 増え続けていく黒い厄災はマシロの方まで広がっていく。


「う〜ん。なんか残念じゃ」


 こんな事なら、ディップしておけばよかったと、ため息をついた瞬間に地面から琥珀色の液体が厄災を防ぎ、元の場所まで押し戻していく。


 溢れ続ける厄災は、琥珀色に次々と吸収されていく。そして最終的には黒い人間の周りでピタッと止まり先に進む事はないが、厄災はそれでも溢れようと増殖している。


「マシロ様、コレを吸収しても大丈夫なのですか?」


「ん〜といっても、元の形は食べたし理解してるからねぇ。そこに新しい要素が増えたなら、その要素だけが根源だし。切り離したらいいだけ?」


 そして黒い液体をじぃ〜っと見る。


「⋯⋯ふむ」


 指先から様々な色の滴を黒い液体に落としながら混ぜている。


「マシロ様、何を入れていらっしゃるのですか?」


「うん? あぁ⋯これは先程、オタ⚪︎クソースを作った際に余った調味料(スパイス)だよん」


 鼻歌混じりに次々に入れていく。


「ルイス君、お皿に白米を」


 キラーンとしたマシロの手に皿を渡すと、黒い液体を上にたっぷりとかける。


「⋯⋯ふむり」


 ピリッと空気が張り詰める中、マシロがソレをすくって口へと運ぶ。


 モグモグと口の中にで味わうように食べる。

 濃厚な厄災(ソース)は、まるで煮詰められた様々なスパイスが混じったルー。それが甘みの豊富な米と混じると厄災ではなく至福と化す。


「お〜い〜し〜い〜♪ この黒いのを見た瞬間にピンときたんだよねぇ。この混沌とした中に様々な色を混ぜれば、一つに纏まるんじゃないかって」


 今日、二度目の美味しいをマシロが発すると、ガフガフと平らげていく。


 食べ終わると、マシロが味わったこのルーをレイの記憶に書き込む。もちろん、この厄災ルーはマシロしか食べられないが、その美味さは表現したいとの事でレイにお願いをし、すぐに材料を書いてくれる。




 すぐにルイス達が料理をし、再現する事で実現したカレー。


【混沌(カオス)カレー】

 色はドス黒く、中の食材の感触はあるもののそれが何かまでは分からない。それでもそのソースからは様々な食材とスパイスが混じり絶妙な旨味と辛味という殴打は、食べておる者たちに常にクリティカルヒットに与え続けて、後に人気の一品となる。


(⋯そういえば⋯⋯⋯たしか⋯⋯金沢カレーだっけ?)

 食べながらふと頭によぎった言葉だが、とくにこの世界においてはどうにもならないので、頭の中にそのまま流しておいた。




「えっと? これで終わりなのですか?」


 唖然としている5人に、マシロはご飯粒をほっぺにつけながら頷く。


「あ、そういえば、カッコいいって言われた力を使ってみて〜」


「あれは、天災がいたから出来たのですが⋯⋯」

 試しに使ってみると、違和感なく使う事ができた。

「あれ? どうして??」


「⋯⋯マシロ様繋がりでしょう。天災か厄災かは知りませんが、所詮はマシロ様によって繋がれていただけの事。それも結局はマシロ様に吸収されたのですから、その恩恵が貴方達に循環されただけなのでしょう」


 レイは5人の姿を見て真剣な表情になる。


「よろしい。とりあえず5人共かかってきなさい。食後の運動として少し試してあげましょう」


 結果、レイさんも黒い竜騎士(武器はつかわない)に変身してそのまま圧勝する。その戦いは周りから見れば次元が違う戦いのように見えたのは言うまでもない。


「まだまだ甘いですね。これではマシロ様の側にいる資格はありません。ですので、このままグルメハンターとして様々なモンスターと戦ってくるように」


 くるりと向き直り、マシロの元に行く。


 5人は圧倒的な実力さにまだ経験不足を感じて落胆しているなか、マシロはニヨニヨとレイを見る。


「ウチの秘書兼メイドはレイちゃん以外はないよ? 実力だけじゃないから安心してね」


 レイが乙女顔をする事で周りも理解して、ほわわわ〜んとなった。どうやら、レイの場所を取られる可能性があるとしての少しの嫉妬(ジェラシー)芽生えた模様であり、その結果を知りほっこりとした周りの都民はレイに睨まれ数回は死んだ感覚に襲われたのである。


「なんか、みんなだけずるいなぁ〜」

 マシロも少しだけ羨ましく思えていた。

「よし、いっちょウチもやっちゃるかぁー」


 レイも含め、やる気を出すマシロに驚きと感動をして刮目する。


「はぁ〜ぁぁぁぁぁ〜」


 一瞬で飽きたと思われるぐらい、溜息のような気合を入れたマシロの肌が黒くなっていく。


「ああああぁぁぁぁ〜」


 黒い渦が巻き上がり、その中でマシロの黒いシルエットを確認できるが、どうなったのかは見えない。


「完璧じゃ⋯⋯」


 確実な手応えがあったマシロに砂埃が収まるまでみんなの期待の眼差しが集まっていく。


『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』


 埃が晴れると、黒くなったマシロが姿を表す。


『お⋯おっ⋯おめでとうございます⋯⋯?」


 一同の眼に映ったのは、先程の黒い厄災であった黒一色のマシロそのままなのであった⋯⋯。

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異世界の救世主として呼ばれたけど、拒否したら微生物になりました。 古狐さん @nax2tusaya

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