23日目 心配性な君 (後編)
「え? いやに決まってるだろ?」
【あれぇ? おかしいな⋯⋯大抵、いつもこのパターンで大厄災ばら撒いて退治されるか封印されるかだったんだけど⋯⋯ちなみに理由聞いてもいい?】
「その考えでいえば⋯⋯俺って生者じゃないのか? まぁ、どっちにせよマシロ様が望むなら喜んで実行するだろうが、なんでわざわざあんたの言うことを聞かないといけないんだ?」
【言うこと聞くとか聞かないの問題じゃなく、そうする様に僕は君達の魂(て)によって産まれただけだし、それが存在意義だからだね。でも⋯⋯今回は驚く事ばかりだ。本当に肉体があるんだね。黒いドロドロしたものはどこにいったんだい?】
「あ〜元の身体は⋯⋯マシロ様に聞かないとわからないな⋯⋯飲まれてはいないと思う⋯⋯」
【え?! 飲んじゃうの? あれ見て飲もうと思える人いんの?! っていうより⋯⋯さっきからマシロ様、マシロ様って、その人って一体どんな人物なんだい? 少なくともこの人達の記憶からは検索できない人物のようだけど】
「一重に説明は難しいな。どちらにせよダンジョンが終われば報告しにいくから、その時にでも話してみたらいいんじゃないか?」
【ふ〜ん。まぁ、君ではラチがあかないし、他の人にも一応きいて最終的にマシロ様とやらに聞いてみようか。じゃあ、さっさとアレ倒せば?】
「いや、撤退しようと思う。この情報は持ち帰った方が良さそうだし、今に俺たちでは時間がかかりそうだ」
【いやいや普通に勝てるよ? そもそも、あの一撃で死んでない君がいるんだ。むしろ⋯そのおかげで僕と繋がったとも言えるけど、本来であれば黒い受肉さえあれば既に僕が産まれて混沌を撒き散らしてたっていったろ? でも、なぜか受肉はなく新しい器が用意されている。これを用意した人物がソレを知っていたかは不明だけど、僕らを受け入れれるほどの器を用意したんだ。なら今は意識がある君がその力使えばいいよ。僕の意識だけならいつもどおり撒き散らすだけだけど、たまにはこういうのもありかなって思ってるしねぇ】
「⋯⋯⋯⋯」
イチゴは迷う。はたして、これは自分達の力として扱っていいものなのか⋯⋯。肉体を用意したマシロ様はどういうお考えなのだろうか。
【迎えも来てる子がいるよ? まぁ、答えは一緒なんだろうけど、一応この子達にも同じこと聞くからねぇ?】
「⋯⋯わかった」
【じゃ、がんばってぇ〜】
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「到着っと。イチゴ〜生っきてる〜?」
ミィがクレーターの中に入ると、イチゴが着ていたアーマの破片があちこちに刺さっておりかなりの衝撃があった事が想像できた。
「ミィちゃん、そろそろ下ろしてください〜」
「おっと、ごめんごめん。軽い荷物だとおもって忘れてた。もう少し食べないと風に飛ばされちゃうんじゃない?」
「飛ばされないよ。もう! せめて荷物持ちじゃなくお姫様抱っこにしておいてよね」
2人が少し歩くと黒色に染まった足が見えてすぐに駆けつける。
「これ⋯⋯は⋯⋯なんでしょうか?」
「ツユっち何言ってんの? 普通にイチゴの足でしょ?」
「そうではなく、黒くなっている事ですよ。こんな技か魔法かは分かりませんが⋯⋯あっ! ⋯⋯これ⋯⋯もしかして⋯⋯」
つい先日見た覚えがある⋯⋯たしか、マシロ様の冗談で⋯⋯レイさんが傭兵であるレオさんの首に⋯⋯。
「そんな事よりイチゴを出してあげようよ」
「ミィ待って! それ触ったら」
ミィが足を触った瞬間にバチっと黒い稲妻が走り手を離す。
「いっつぅ〜⋯⋯」
「見せて!」
ツユハが慌ててミィの手を触ろうとすると再び黒い稲妻がツユハの手を襲う。
「っ!」
「ツユ、大丈夫? にしても、さっきの『あっ!』ってマシロ様が言ってたやつを思い出しちゃったよ」
「っ!!」
(そういえばイチゴに押し出された時⋯⋯イチゴも確かにアッとしてたよう⋯⋯な)
先程の光景を思い出していたら突如、急激な眠気が襲ってきた。目の前にいたミィは既に倒れており、魔法に耐性がある自分ですら耐える事もなくすぐに目の前が暗転した。
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一方、その頃のマシロはというと、宿木で昨日取れた骨を食べていた。
「マシロ様。朝の助言はどういう意味で仰られたのですか? もしかして昨日最後に魔核に魔力を注いだからでしょうか?」
レイは昨日の光景を見ていたので、ふと質問をしてみた。
「ん〜昨日? 違うよ〜。この間の祭りの時ね⋯⋯少し油断してたら残り一個だった食べ物食べられちゃったのよ⋯⋯。その時に『あっ!』てなったから、なんとなくだねぇ。そっか〜、それなら『場を問わず あっと思えば 時遅し』でもよかったのかもねぇ。それにあの一個は⋯⋯あの時間、あの満腹度、あの瞬間にしか味わえなかった何かがあったはず⋯⋯」
⋯⋯と、くぅっと思い出しながら悔しがるマシロ。
「そのような事があったのですね。では、次からは最後の一つは私が確保するようにいたしますね。さぁ、次は昨日の骨に黒胡椒でもまぶしてみましょうか」
「わ〜い♪ あ、そういえばなんか私の中に見知らぬ液体があったの忘れてた。よく分かんないけど食べれそうだし、これもディップして食べてみる」
積み上げられている骨にマシロの中から取り出された謎の液体は殺伐とした雰囲気を醸し出しているが、それとは裏腹に空気はほんわかとしている午後のティータイムであった。
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ミィとツユハが倒れている側でイチゴが起き上がる。
「⋯⋯⋯⋯」
(なるほどな⋯⋯これは、たしかに俺たちの力らしい。レイさんとは違う方向の実験体だったからか⋯⋯)
不思議と自分の力に理解と確信が追いついた状況。今まで使えなかったのは眠っていただけなのだろう。
マシロ様に名をもらい受肉から生けし体に戻った訳だが感情はおそらく⋯⋯一般的ーー普通になっていた為、繋がることもなく遮断していた状態。
そこで先程の見えない攻撃を受けた時に生存本能なのかそれとも別の何かが原因で繋がったんだと確信する。
首をコキコキと鳴らす。
「さて、みんなより先に俺から試運転してみるか」
そう言ったイチゴの身体は身体の内側から黒く染まっていき黒い姿へと変貌していった。
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(ヨミどうだ?)
イツは手でジェスチャーをとり、天井に張り付いたヨミと会話している。
(今の所、異常はない)
イツは長銃で幾度かゴーレムに向かい弾くが、本体は元より関節部まで弾は弾かれる。
「やっぱ弓と違い銃は難しいな⋯⋯。軌道も動かないし⋯⋯まぁ牽制程度と防衛レベルにはつかえるか⋯⋯」
(それにしても音に反応もないのに円の模様内に入れば攻撃してくる⋯が、なにか違和感を感じるなぁ。いや、もし違和感として考えてみるとアレは攻撃ではないんじゃないのか?)
そうこう考えていると、ヨミの方から『右に1m距離12mにヒビが入っている最中』とジェスチャーが来る。
「丁度⋯肩関節の辺りかぁ。ヒビが入ってるって事は内側になんかあるのかねぇ」
銃を腰にかけると弓に持ち替える。そして矢に袋を括り付けて低い姿勢をとり弓を引く。
「やっぱコッチの方がしっくりくるな! っと」
矢を放つと、風に乗るかのように綺麗な弧を描き、ヒビが入っていた場所へ吸い込まれるように矢尻の先端が刺さるとぶら下げていた袋の紐がハラリと解け中から黒い粉がドサリと落ちる。
「〜〜♪」
イツは更に銃に持ち替え、目印となった矢に一発弾くと爆発した。
煙が落ち着くまで待とうとするが、ヨミからすぐに『敵多数、出現』とのジェスチャーが来る。
「⋯おいおい、これは⋯⋯なんだ?」
煙が左右に激しく揺れる。
その中から自分だけは助かろうと、赤黒い大蜥蜴が必死に円の模様から出ようとするが、ゴーレムの手により次々に捕縛され割れた場所に押し込んでいく。
「どうやら、これが原因だったらしい。どういう訳かは謎⋯⋯敵は産まれているが、その度にゴーレムの中に潰されながら入れられていく」
天井からヨミが戻ってくる。
「⋯⋯これって、まじぃ?」
イツから冷や汗が出る。
「かなり⋯⋯開けた場所から次々と出てきてる。ゴーレムも起き上がろうとしてる⋯⋯攻撃範囲拡大の恐れ」
2人はひとまずイチゴが埋まっている壁(クレーター)に向かって全力で走る。
後ろからついてくる敵を見て、2人は大量の蜥蜴達が自分達を狙って来てると思っているが、実際は大蜥蜴達もそっちが正解のルートだと判断をして必死についていっている為、追われる形に見えていた。
そしてゴーレムが起き上がると、地面をショベルカーで削られているように暴風を巻き上げて次々に大蜥蜴達を捕まえていく。
「これ、やっばいなぁー!!」
イツが本気でダッシュしながら、ヨミもコクンと頷いて同意。
蹲っていた時のゴーレムはどうやら大蜥蜴など敵を入れ過ぎたせいで関節で詰まっていた為、それ以上吸収ができなくなり溢れていたが、立ち上がったことにより詰まりが解消され捕らえた敵達は次々と肉片となりヒビ割れた石の中から肉が新しく生えはじめていた。
「ゴーレムって石だよな! 肉って内側にあるんだっけ?!」
「否。石の代わりに肉⋯⋯まさに神秘」
「神秘じゃねぇ。やばい! 速い。このままじゃ追いつかれる」
銃を取り出し、後ろを見る事もなくゴーレムの腕に弾くと、一瞬止まったが次の瞬間にゴーレムの標的となる。
「ダメージ1。ヘイト100。後衛職がヘイト稼いじゃダメ」
ゴーレムの肉腕が吸収する毎に伸びており、それはもう後数回でイツ達を捕捉できるまで迫っていた。
「じゃあ、どうすればよかったんだ!」
「⋯⋯⋯⋯詰み?」
既に捕捉可能な程、ゴーレムの腕は成長し次の一手で終わる。
「イツ、ヨミ。その場で止まれ!」
聞き慣れた声を聞くと2人は躊躇いなくその場で停止すると、目の前に黒い格好をした人物が現れる。
黒いマスクに黒い外骨格、そして炎のように揺らめく黒いマントを羽織った人物は右手を横に突き出すとマントが真ん中から避けるように霧状に消えると同時に目の前に黒色の盾が出現する。
「2人とも耳を塞ぎ、口をあけろ!」
黒い盾は更に地盤を固めるかのように黒い杭のようなものが斜めに地面に刺さると同時に、激しい音が鳴り響き、振動が身体中を駆け巡る。
振動が終わり砂埃が舞う中、黒い杭を右手で持つと盾からパキリと外れて、剣の形に変化していき、そのまま衝撃で止まったゴーレムの腕を切り落とす。
腕を切り落としていく最中に、離れた盾はそのまま霧状にきえながら剣に吸収されていき大剣となり、そのままゴーレムの足も薙ぎ払う。
両足が無くなったゴーレムは3人に倒れ込むような形となるが、黒いマントが全て消えると大剣がそのまま巨大な盾に変化をおこし、全体重をのせ盾で相手を殴る【シールドバッシュ】をすると、ゴーレムが浮き後ろへと吹っ飛んでいく。
「⋯⋯イチゴだよな?」
黒い人物の顔もフルフェイスでみえないが、そこに立っているのは間違いなくイチゴと確信はしているのだが、この技術は見た事がない為、若干の戸惑っていた。
「ああ、悪いな。最初に吹っ飛ばされて」
「いや、それはいいんだけど。その姿はなんだ?」
「同意⋯⋯他2人は?」
「説明が難しい。2人とも今は眠っている。行けば分かるからイツ達も行くといい。俺はもう少しコレの試運転でもしておくよ」
「分かった」
俺達の間にしつこく何かを聞くのは野暮である。行けばわかると言うなら行けばいい。それだけ5人は繋がっており、疑う事はないのである。
そのあと、イツ達も眠りに入り、マシロ様の姿をしているあの黒い人物に、イチゴと同じような質問などされたと思われるが、全員無事に目が覚める。
イツとヨミが目が覚める頃には、ゴーレムの右半身は既になく、残されたのは魔核と魔核から懸命に生きようと生えてきている触手と土にならなかった肉腕だけであった。
夕方には水都に戻り、ギルドに報告をすると前代未聞と驚愕はされつつも、任務達成を賞賛された。
素材も本来は買取をしてくれるはずなのだが、ギルド職員は、
「レイ様のご意思によりコレに関しては買取はできないのです⋯⋯まことに申し訳ございません」
と、物凄く欲しがっているのにも関わらず、観念したように説明していた。
コレを売ったお金で、少しでもなにか美味しい物でもマシロ様に買っていきたかったのだが、諦めて報告に向かうことにしたのである。
結果、マシロ様は『ゴーレムの肉腕』という食材に目を輝かし、魔核に付いている蠢いている触手もかなり喜んでいたので結果オーライであった。
「マシロ様、レイさん。少しお話ししたいことがあります」
そして、俺たちは洞窟内であった出来事を報告しその判断を仰ぐ為、話をはじめた。
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