22日目 心配性な君 (中編)

 次の日、5人の子供達はゴーレムの洞窟に到着すると、すぐに攻略を開始した。


「そういや、マシロ様はどうしてあんなこと言ったんかな?」


「ん? あぁ、朝の事か」


「油断するんじゃないかって思っているのではないでしょうか?」


「いまの状況からして見れば一理あると思う。あ、つぎ、敵影4、右3、左1」

 ヨミが言った通り、右から蝙蝠が3匹、左足から尻尾のない大蜥蜴が1匹現れるが即在に討伐。


「たしかに想像してた以上に簡単すぎるよな⋯⋯ツユ以外ならソロでもいけるんじゃないか?」

 イツがそう言いながらツユハに目を向けると、頬を膨らましながらツユハが言い返す。


「わ⋯私でも魔法使えばいけますよ! ただ⋯⋯その場合はこの洞窟が崩れるかもですが⋯⋯」

 最後はゴニョゴニョと小さな声になっていくツユハ。


「それが油断かもしれない。簡単であろうと俺たちの初任務だし、最後まで気を抜かないで行こう」


 イチゴがそういうと4人が頷いて奥に進行していく。



 時が遡る事数時間前。


 朝、出発しようとした5人組は依頼タグを受け取りにいこうとギルドに入った所でマシロとレイが待ち構えていた事に気づく。そして、その横には昨日お世話になった武器と防具屋のおじさんもいた。


 今日のマシロの服装はお餅みたいである。正月とかにある鏡餅といえばいいのだろうか。首から下は完全に平べったい餅みないなスーツであり、手足がどうなっているのか謎である。それにプニプニした頭が完全にのっている状態であり、なぜそのような服装になっているのか疑問であるがだれも突っ込むことはしなかった。


 すると、おじさん達が5人の装備を詳しく説明していく。


 イチゴ:盾役(タンク)として軽量化をしたフルプレートのフルフェイスに大盾。装備してもらった後に動きも悪くなかった為、完全防御特化にしたとの事。


 ツユハ:回復役としての彼女はMIND(精神)重視である祈祷師など神に仕える衣服を多数用意した中から選んでもらった所、巫女装束を手にしたのだが、スカートが長いと回避のときに掴まれる可能性も考慮し短く調整した。杖も多数用意したのだが、一般的に人気のなかった扇子(開くと可愛らしい猫になる)を選んでホクホクと満足して何度も扇子を開いていた。


 ミィ:手甲、足甲は硬さと軽量化した物。防具は伸縮性の全身タイツにスカートが短いチャイナ服に決めていた。ツユハと一緒で可愛らしい物を着たいからとの事。


 ヨミ:潜伏、索敵の彼は、顔を覆い隠すようなフードにそれと連動している黒い大型マントを装備し、仕込み武器など仕掛けを施した手甲と足甲を装備している。


 イツ:彼は片腕が出るようにしたマントにあとは狩人の一般的な服装。武器は弓が主流なのだが、マントで見えない方の腰に長銃をしまっている。   

 二人のおじさんは5人の中ではやっぱり普通であり無難なのだが、それ以上それ以下を求めない彼もまた特徴があるのかもしれないと感じていた。



 どうやら5人が、なんとなく相談した絶対に怪我をしない防具に竜を切るぐらいの武器の話があった後、こちらが出来る限り良い装備を提供したと自負していたが夜になって思い返すと急に怖くなった為、朝マシロに説明したのであった。


 その事に対しマシロは特に怒っているわけでもなく、武器屋と防具屋のおじさんに『無茶言ってごめんね〜。装備用意してくれてありがとねん』と、普通に刻々と会話が進んでいる。


 会話を終えた後、マシロが5人の方に振り抜くと、隣にいたレイがマシロに何かを渡し『いまからマシロ様がアドバイスしてくれます。心して聞くように』とビシっと言うと、その横でマシロはレイから受け取った何かを鼻の下に貼ると5人の方に向く。


「うぉっふぉん。あ〜これから、ゴーレム討伐にいくチミ達にマシロから一言だけいってあげよう」

 鼻の下にちょび髭をつけたマシロがふぉっふぉっふぉとプニプニしたお餅からにょきっと手が生えてきた。そして右手に筆、左手に長方形の硬い紙を持ち何かを書き始める。どうやらスーツのなかは形のないスライム上だったらしいと最初の疑問が解決した。


【洞窟内 あっと思えば 時遅し】


 5人がポカンと呆気にとられている中、速記なのか筆記体なのかよくわからない文字を紙に書いたマシロはそれをレイに渡すと、すぐに保護魔法を掛けて大事にしまう。手はそのまま餅の中に引っ込むとマシロは満足したようにほんわかしていた。


「分かりましたか? マシロさまがおっしゃられた言葉の意味をよく考える事です」


 そして今に至る。


 5人は意味を考えつつも冷静にモンスターを排除して行きながら下層に進んでいく。


「な〜んか妙な感じがするね」

 ミィが何気に言った言葉は、他の4人も感じ取っていた。


 まずモンスターの行動。尻尾のない大蜥蜴も気になるのだが、蝙蝠も蜥蜴もなぜかツユハを狙っているのである。5人の中で最弱とはいえ敵からにしてみれば敵陣に突っ込んでまで狙う相手とは思えれないが、なぜか他に目を向けることもなくツユハに向かって行く敵。


 こちらとしては囮役がいる事はやりやすく、処理がしやすい。が、原因が分からないままの恩恵に縋るつもりはない5人は色々考えるが答えは出なかった。


 そうこうしている内に4階に降りるが⋯⋯薄暗く静けさだけが漂う空間に更なる違和感を抱く。


「敵は?」


「⋯⋯いない⋯⋯」


「いないって⋯⋯そんなことあるのか?」


「⋯⋯やっぱりマシロ様やレイさんがいるんじゃ?」

 薄々気づいていた5人は、あまりに難易度の低さに『もしかして手伝ってもらっているのではないか』と感じるようになっていた。


「ただ⋯⋯レイさんならともかく⋯⋯マシロ様がわざわざ感知を遮断するような手間を取られるのでしょうか?」


「たしかになぁ⋯⋯あの人ならそこら辺の端っこで大蜥蜴を『おいひぃ』と言いながら食べてる姿しか思いつかないな⋯⋯」


 ウンウンと同意する4人。


「そもそも魔核から敵が生まれるはずなのに生まれていない⋯⋯なら、もしかしてその魔核に異常がある?」


 階層により敵の多い少ないはあるのだが、いないと言うことはありえないのである。最低でも1匹は発生するはずであり、いないと言うことならそれは本体である魔核の異常という考えにしかならなかった。


「もしかしてマシロ様が魔核を食べたとか?」


「そ⋯⋯それはさすがにないんじゃ⋯⋯」


 ただ理由は分からないのだが、なぜか全員の考えた一つに魔核を食べたという案は浮かんではいたが、全員が水に流すかにように黙秘をしてそのまま流した。


 そして最後の5階層に到達し、中に入ると広い空間の真ん中に巨大なゴーレムが眠っている。ゴーレムが眠っている周りの地面には円が描かれているが争ったり動いた気配などは感じられない。


「状況判断」

「周辺魔素に異常はありません。ゴーレムの周りにあるこの円の模様も魔法的要素はないです」

「戦闘の痕跡や動いた様子なし」

「ゴーレム自体に損傷はないものの、左半身にはヒビ割れが幾つも確認」


 5人が考えをまとめた結果。どうやら魔核の魔力供給がうまくいっていない為、敵が産まれなくなり更にはゴーレム自身のヒビ割れも維持ができなくなっていると推測した。


 そのまま5人はゴーレムに警戒を怠らずに接近する。もし瀕死であればそれこそ最後の足掻きみたいに暴れられると厄介である。


 円の内側に入った所で、イチゴはゾッとする様な寒気を強く感じる。


(⋯⋯⋯⋯あ⋯⋯)


 可能性を勝手に解釈し確立した事に後悔をしてしまう。意味のない円の模様なんて発生がする訳がない。これは⋯⋯⋯⋯。


【洞窟内 あっと思えば 時遅し】


 マシロの言葉が浮かぶ前には4人を円の外側に押し出す。


 突然の押し出しに驚いた4人が、「円、内、射程な⋯⋯⋯⋯」と何かを言っていたイチゴは、向いた時には既にその姿がなく、時間差で広い空間の端である壁に何かを叩きつけた轟音と共にクレーターができる。


「⋯⋯え?」

 ツユハは一瞬の事に何が起こったか理解は出来なかったが他の4人は即座に戦闘態勢をとる。


「ツユとミィは壁に向かいイチゴのし⋯⋯いや⋯⋯救出を最優先。ヨミと俺はゴーレムらしきモノの監視と遠距離から調査」


 イツが、即座に接近戦は不利と判断しミィもツユハと共に行かせる判断をする。


「絶対にこっちを見ないでく〜だ〜さ〜いぃぃ〜」

 ツユハとミィが壁に駆け出そうとするが⋯手足を動かすのははやいのだが⋯ツユハの速度がカタツムリ並みであった為、ミィが痺れを切らしてツユハを肩に担ぎ走りだす。無論、荷物のように持たれたツユハのスカートは丸見えであり、それをどうにかしようとあたふたするがミィの力に抗えるわけも無く空い遠吠えをするしかなかったのである。


「だれがネコパンツなんて見るかよ⋯⋯」


「イツ⋯⋯イチゴは死んだと思うか?」


「⋯⋯⋯⋯普通であれば、あの衝撃を喰らえば生きちゃいない⋯⋯が、死んでるという感じはしない。特に俺らの中で一番そういうのを感じやすいツユの反応を見る限りは骨折程度ではないかな」


 5人は、どんな状態であれ⋯ずっと一緒にいた為、何かあれば口では説明できない何かを感じる。それこそ死ぬという損失であれば心の一部が欠けたような感覚を感じるはずだが⋯⋯それは感じなかったが、あの見えない程の衝撃を、俺達を範囲外に押出したイチゴが防御できるとも到底思えれなかったのである。


「同感⋯⋯」


「とりあえず、俺達はコレを調べよう。円の模様が範囲なら天井は大丈夫だろうから、ヨミは天井から違和感を探してくれ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【□■■□、□□■! ■□□□■!】


 どこからか声が聞こえる。


【□■□!! ■■■! ■□!】


 深く⋯⋯腹の中が煮えるほど暗くドス黒い声。


【□□! ■■!】


 普通の人間であれば頭が割ってでも止めたい程の黒い声である。子供、大人、老人、男女、その様々な声が地獄のコーラスを歌っている。


【□□■! ■■■!!】


 だけど⋯⋯この声は俺は知っている。いや、俺達は知っている⋯⋯。暗い場所、身体が朽ち腐っても終わらない命。最後には身体という器は消え黒いヘドロのようなものになった俺達の声。

 レイさんの負担になるぐらいだったら死んでも良かった。俺達がいるせいで、あの人は言われるままの人形になった。この声はその時に生まれたモノだ。

 怨み、妬み、殺意しか考えられなくなった声。生者を引きずりこみたい。生者を同じように苦しませたい。生者を⋯⋯。永遠に言葉にできる程の狂気⋯⋯そのものである。


(⋯⋯まぁ、マシロ様と出会って思う事は無くなったが⋯⋯また、こういう声を聞く事になると思わなかったな)


 イチゴを含め、マシロに創られた身体になってからは、呪いの言葉はすっかり削ぎ落ちていた。だからこそ、いまは思うことのない、この狂気に満ちた言葉に疑問がよぎる。


【やっと繋がったのに⋯⋯なんで君達はこちらにこないのかな?】


 数ある声から一人の声だけが鮮明に聞こえる。


(繋がった? とは、よく分からないが、あんた達は一体なんだ?)


【え? あれ? 精神が壊れていない? おっかしいなぁ⋯⋯。いく当てのない1054万6542人分の声は普通は耐えられないとおもうんだけど⋯⋯】


(何のことを言っているのかは知らないが、一つだけ聞かせてくれ)


【うん? なんだい?】


(その黒いシルエットで判断し確認するが、お前はマシロ様ではないよな?)


【えっとマシロってだれ? 1054万6542人の中にいるなら、もう混ざってるし分からないと思うよ?】


(了解した。なら、その格好を真似しているあんたはだれだ?)


【格好? おわっ! 本当に人になってる! ううん? ⋯⋯今回は珍しいパターンだ。あ、ぼくに名前はないよ。しいていうなら『無名祭祀書』かな? 行き場のない魂達の名前が残っていた名簿書だったモノ。それを依代に魂達が混沌のように混ざりあって産まれたものが僕】


 マシロと同じ形をした黒いシルエットは淡々とした口調で説明していく。


【で、君達がどうして『こちら側』に混ざってないかは知らないけど⋯⋯】


 表情の分からない黒いシルエットだが、その最後の言葉はとても⋯⋯とても嬉しそうに聞こえた。


【さぁ、早く一緒に生者を地獄に落としていこうよ】

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