21日目 心配性な君 (前編)

「マシロさま。そろそろこの子達をダンジョンに行かせようと思いますがよろしいですか?」


 昼食を食べている最中にレイにそう言われたマシロは手を震わしている。


「ダ⋯ダンジョン? もう行ってもいいぐらいの実力なの?」


「そうですね。最低限のレベルにはなりましたので、実戦を加えていこうかと思います」


「大丈夫? 竜ぐらいは手で倒せる? 魔王ぐらいならかすり傷程度で勝てる?!」


 レイの後ろにいる5人が若干引いている。


「⋯⋯心配しなくて大丈夫です。手初めに水都の周りに発生している簡単なダンジョンに行ってもらおうと数件資料を持ってきております」


 最近、水都周辺ではダンジョンがかなり発生している。その理由は定かではないが、マシロ水が外に流れ森が活性化している為、今までより発生確率が高まっているのではないかと推測されていた。


 難易度はピンからキリであり、ギルドは最初にダンジョンの偵察、その詳細を聞いた上で人数規模や難易度を設定してギルド依頼に貼り付けるようになっていた。


 マシロが資料に目を通す。


「う〜ん。ダンジョンに興味ないからどれでもいいかにゃぁ〜⋯⋯。レイちんはどれがよさげなの?」


「そうですね。私ならば⋯このゴーレム討伐はどうでしょうか? 階層はたった5層ですし規模もそこまで大きくありません」


「じゃあそれで〜」


「分かりました。では、午後から行かせるように致しますね」


「え?! 今日はしっかりと休ませて明日に行かせようよ」


「⋯かしこまりました」


 レイが一礼したところで5人が立ち上がる。


「マシロさま! 俺たちは昼からでも行けます! 行かしてください!」


「え〜でも防具もボロボロだし。そうだ! 今日はこれで自分達の防具を買って明日に備えて英気を養うようにね!」


 お金が入ったズシリと重い布袋を取り出し5人に渡す。


「で⋯⋯ですが⋯⋯」


 5人が何かを言いかけた所で、レイが腕を軽く振るうと防具が一瞬で砕ける。


「ほらぁ〜言わんこっちゃない。そのお金で絶対に怪我しない防具や竜ぐらい切って調理できる武器でも買うんだよ? 余ったのはお小遣いにしてもいいし適当に水路に投げてくれたら回収する〜ん」


「わ⋯⋯わかりました」


「うんうん。素直が一番じゃよ。レイは昼からウチとちょっとお出掛けしようね〜」


「わかりました。では、早速支度をしてきますね」



 お昼を済ませた後、5人は水都の防具屋に向かう。


「俺らってそんなに弱いのかな⋯⋯?」

「う〜ん。どうなんだろうね?」

「私達のバランスは取れていると思うので、決して弱いとは思いませんけど⋯⋯マシロさまにここまで心配されるのは悲しいですね」

「それにコレ⋯⋯」


 ズシリと重い布袋の中は全て白金貨であり5人は溜息をつく。


「心配どころの話ではないな」

「それより⋯⋯竜を切れる剣とか売ってるのかな?」

 他の4人は首を横に振る。

「まぁまぁ⋯⋯とりあえず防具屋と武器屋に相談ぐらいはしてみようよ⋯」


 竜を素手で倒すとか魔王をかすり傷で倒すとか、初心者の自分達にどれだけの期待をしているのか⋯⋯マシロの常識を測り知れぬ5人は重い足取りで店に向かっていった。




 その頃、マシロを抱っこしていたレイはゴーレムのいるダンジョン入口にいた。


「ほほう〜これがダンジョンかぁ〜」


 その場の空間が歪んでおり、ギルドが設置した立看板に詳細が書かれている。


「はい。あの子達が来る前に、わざわざ下見をしていただいてありがとうございます」


「ううん。ウチもダンジョンってものがどんなのか見てみたかったし、知っておかないと常識が分かんないからねぇ」


「では、参りましょうか」


 二人はダンジョンの中へと足を運んで行った。


 ダンジョン内の構造はありきたりな洞窟である。


 入って見るまでは分からない水都で発生しているダンジョンは形が変わっていると高難易度と認定される。

 例えば、城内部のような大理石のような構造だとボスは知識のある者。それこそリッチなどの魔術関係にもなるし、デュラハンみたいな強い者を求めたボスも出てくる。同じ洞窟の構造でも敵が強力だったり装飾が豪華なあからさまな洞窟は難易度が跳ね上がる。その分、宝は良いものが多いのも事実であるがその分の危険度はかなり高くなっていた。


「ん〜まぁまぁだねぇ」


 口の周りが赤く染まったマシロの手にはかなり大きい蝙蝠がバタバタと動いていた。


『ジャイアントバット』

 肉質:普通

 臭み:普通

 味:そこまで気にならないけど多少臭いが身は中々な弾力と淡白な味わい

 総合評価:★★☆☆☆


 数口食べると、飽きたのかそのまま蝙蝠を吸収する。


「マシロさま、お口を拭きますね」

 レイが優しく口を拭いてくれてると、物陰からマシロより大きい蜥蜴がノソノソと近づいてくる。


「あれは毒蜥蜴ですね。なかなかいい万能毒を持っており、直接牙をさし毒を流せば内部融解し、毒を吐き出すとすぐに気化が起こり吸い込めば感覚麻痺などを起こしたりします」


「美味しい?」


「⋯⋯申し訳ございません。食としては出回ってはいませんので何とも言えません」


「ふむふむ。ならば、あれも未知の食材か!」


 わーいと無防備に毒蜥蜴に近づいていくと、警戒した毒蜥蜴が毒液をマシロに吐き出す。顔にかかった毒液をベロでペロンと舐める。


「わ〜本当にピリピリする〜! なるほど麻痺ではなく神経の融解をおこし神経壊死をおこしていくのか〜」


 それでも止まる事もなく毒蜥蜴に突っ込んでいくマシロに牙を剥き出しにして威嚇をする。

 それは毒が効くまでの威嚇だったのだが、マシロの体内では既に壊死部分は破棄、再生の方が遥かに速くそのまま完治しており、耐性と血清も完成されていた。


 そのまま毒蜥蜴に飛びつく。毒蜥蜴も噛みつこうとしたがマシロが触れた瞬間に動けなくなり戸惑いを隠せず混乱する。


『毒蜥蜴』

 肉質:美味

 臭み:特になし

 味:毒袋の周りは毒性が強いが、他の部位は旨味が凝縮されていた。とくに尻尾がかなり美味しい。これは尻尾を食すものだと断言する。

 総合評価:★★★★☆


「うまし!」

 まぐまぐとまだ生きている毒蜥蜴を食べていく。


「これ尻尾って生えるん?」


「栄養次第ですが数日で生えますよ」


「じゃあ見つけたら尻尾だけは持って帰る〜」


「はい。見つけ次第尻尾だけとりますね」


 ⋯⋯⋯⋯。


 ⋯⋯。


「そういやレイちゃん?」


「はい? どうしましたか?」


「そういえば魔物っていつ出るんだろうね?」


 口からはみ出てる蜥蜴の尻尾がビチビチと元気よく跳ねていながら喰べているマシロがモンスターが出ない事に疑問を持っていた。


「⋯⋯⋯⋯残念ながら⋯⋯マシロさまが食されているのが、いわゆる魔物といわれるものです」


「え?! さっきから沢山いたし、洞窟に生息するただの動物じゃないの?」


 美味しいので、マシロはまた生えた頃に取りに行こうと思ってたぐらいであり、先ほどから大量の毒蜥蜴には遭遇をしていたが、いまではその全てが尻尾なしになっていた。


「基本的にダンジョンは魔核から造られるのですが、その大小の大きさから溢れた魔力で魔物が生成されます。ですから、ダンジョン内の生き物は基本魔物と呼ばれるものになります」


「ほむり⋯⋯。じゃあモンスターは? 魔物じゃモンスターじゃってよく聞くけど」


「モンスターは一般的に人を狙うようになった動物の事ですね」


「へぇ〜なんだかめんどくさいねぇ。生き物なんて美味しいか美味しくないだけなのに」


 そのまま4階層に降りると、スケルトンや屍者が姿を現す。


「これらも魔物なの?」


「そうですね。カテゴリーでいえば魔物となりますが、スケルトンは魔力で生成されていますが、屍者の方はダンジョンになる前の地上で死んだ者たちの想いが混じり、変異を起こしているのだと思います」


 スケルトンが襲ってくるので、地面にマシロ細胞群(スライム)を向かわして足を溶かして吸収。足が無くなったスケルトンは手をクロールのように回しながら向かってくるので手も吸収。


「よくできてるなぁ」


 歯をカチカチと言わしているスケルトンの頭を両手でもち引っこ抜くと動きがピタっと止まり動かなくなる。


 じぃ〜と頭蓋骨と睨めっこしていると、とりあえず一口食べてみる。


『スケルトン』

 肉質:無し

 臭み:無し

 味:意外に美味しい。なんていうかカルシウムタブレット? みたいな味で少し硬いスナック感覚で楽しめる。

 総合評価:★★★☆☆


「ふむり。次は屍者か」


 気軽に食べるおやつとしてスケルトンは全て吸収保存。残された屍者もスケルトンと同じように対応するが、頭をとっても動く事からどうやら想いとやらが動かしていると判断。


 マシロは屍者を持つと、じぃ〜っと見つめるが、どうやら全て毒で汚染されている。


「食べれなさそうじゃのぅ」


 毒にも薬にもならない為、一口ぐらいなら食べようかどうか迷っているが、なぜかじぃ〜と見る凝視だけはやめていないのが自分でも不思議に感じていた。


「もしかして」


 表面の毒物である肉を剥ぐとその内側にはピンク色の繊維が骨に付いている。


「ほほう」


 目が離せない理由に納得した。美味しそうな部分が確かに存在していたからであった。


『屍者』

 肉質:霜ふり肉

 臭み:特になし

 味:極上、口の中に入れた瞬間にとろけて旨味が口の中に残る。そういえば何かで骨の周りにある肉が美味いと聞いたことがある? ただし食べれる部位はかなり少ない。1屍者で小さな唐揚げができるかどうかぐらい。

 総合評価:★★★★★


「ん〜!! 美味しい♪」


「4階層も見終わりましたので、このダンジョンでは残りはボスだけですね」


 マシロのせいで4階層から敵影は消滅した。他の階層も捕食者に恐れて出てこなかったジャイアントバットに尻尾がなくなり弱体化した毒蜥蜴だけになる。


「もう終わりか〜」


「下見としては十分だと思いますが、ボスであるゴーレムも見られて行きますか?」


「うんうん。一応行ってみようよ」


 そして、とうとう5階層にたどり着きボスの扉が開く。


 広い空間に中には巨大なゴーレムがただ佇んでいた。


「ゴーレムってただの岩なの?」


「えぇ、ダンジョンのボスには必ず心臓となる魔核があり、それをとれば終わりですが、ボスも最優先で護るので無傷で取るのはなかなか難しいです」


「心臓⋯⋯ふむり。心臓である魔核なら、少しだけつまんでも⋯⋯じゅるり」


 マシロがいつも通りにゴーレムに突っ込む。ゴーレムも侵入者を排除しようとするがマシロに触れる瞬間に岩が粒子に分解され風にさらわれていく。


 その結果、左手と左足を失なったゴーレムの心臓部には赤い魔核が露出し、3分の1ほどマシロが『がふがふ』と齧っていた。


『ゴーレムの魔核』

 肉質:硬い

 臭み:なし

 味:肉というより味の薄いフルーツのような感じ。生命果実(アンブロシア)を食べたことがなければこれで満足していたかもしれない。

 総合評価:★☆☆☆☆


「最後の最後で残念じゃ⋯⋯」

 ゴーレムの味の普通さに少し残念になりながらその場を離れようとするが、レイに止められる。


「マシロさま、魔核が破壊されればこのダンジョンは消滅してしまいます」


「えーこれぐらいで死んじゃうの? まだゴーレムくんも動こうとしているよ?」


「そうなのですが⋯⋯ゴーレムの質量と魔核の差が出てしまい、今のままですと数時間後にゴーレムは崩れて消滅してしまいます」


「難儀じゃのぅ。けど、明日はあの子達の初ダンジョンだから、しょうがないからマシロ水をゴーレムの核にあげてみよう」


 プクリと濃縮されたマシロ水の滴をかじった場所に塗ると魔核がドクンドクンと脈を打ちはじめる。


「⋯⋯ありがとうございます。さすがに明日、ダンジョンがなくなれば、あの子達も悲しむでしょうから、とてもよろしい判断だとおもいます。見たところ魔力放出は先程より大きくなった為、問題はないかと思われます」


「よかったぁ〜。じゃあ、帰っておやつにしようよ。ルイスくんがマシュマロ牛乳や氷菓子を作ってくれてるだろうし」


 マシロがレイに抱っこされボスの部屋を後にするすぐ後ろで、魔核が変異を起こしていたのは、この時では誰にも知るよしもなかったのであった。

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