休日:マシロの一日

 祭り騒ぎも終わり、全てが元の日常生活へと戻る。

 そこで、今回はマシロの生活実態を紹介しておきたいと思う。


 マシロは城の屋上にある庭園で過ごしていると誰もがそう思っているが、実際の所はそうではない。


 最初の頃に書いてるようにマシロには睡眠は必要がない。これは意識を覚醒してからずっと起きているという訳でなのだが、肉体の形さえとらなければ、意識ーー細胞群の遥か深淵にてユラユラと揺らめいている事で睡眠の代わりにしていた。


 ただ、マシロの本能は『喰う喜び』であり、マシロがユラユラと揺らめいている最中でも、表面では動いているマシロがいるのである。


 例えば皆が寝静まっている深夜、水都の周りにある森林ではマシロがゴブリン達と共に宴をしてその恵みを頂いているのである。


「ごぶごぶごぶ!!」


「ゴブ? ゴブゴブ!」


「グギャ! ギャギャ!」


 ゴブリンの生命は、マシロが少し(?)いじったせいで多少寿命が短くなっている。それでも、いつ戦闘で命を散らしてもおかしくはないゴブリン達は、それを苦とは思ってはおらず、それよりも一日一日を一生懸命生きるという活力に満ちていた。


 結果、毎日毎日必ず夜は宴を開いていたのである。無論、マシロ水の恩恵もあり、森には食糧となる動物から植物と果物が溢れているからこその形であるのだが⋯⋯。

 そしてゴブリン達が夜な夜な宴を開催するなか、なぜか必ずと言っていいほど⋯⋯いつのまにかマシロが宴に参加していたのである。


 最初の頃、ゴブリン達はマシロ姿を見た瞬間に宴を止め平伏したが、それも時間が経てば不思議と気にせずに宴で盛り上がっていた。

 本来であれば主人というものに、下は逆らうことはできないはずだが、マシロの場合は宴を止めて平伏した瞬間に、ショボーンとした顔になったのである。

 それを数日間繰り返していれば、ゴブリンといえど、主人が求めるものを理解し主人が喜ぶ事を実行した。


 お分かりだろうか? 最初に、ひらがなでごぶごぶと言っていたのはマシロである。正確にはコレはただのノリで言っているだけであり、もともとマシロは人語以外の言葉は理解していない。マシロの中では、わからない言葉はそのまま細胞群を侵入させ脳から受け取り、脳に直接おくっていたからである。

 当初、ゴブリン達も直接頭に言葉が響く事に違和感があったが、慣れていくにつれて気にもしなくなり、マシロのごぶごぶと言うのも、わざと我々に合わしてくださっているという意味で捉えておりむしろ感謝していた。


 そのあとゴブリンクイーンとゴブリーナの様子を聞きながら宴はお開きとなるが、これはさほど興味がないのか右から左に聞き流していたのである。



 時刻は早朝、更に別のマシロは店の下ごしらえや準備をしているルイスの店にいた。


 ルイス達は下ごしらえをしつつも、その間に出来上がったフワフワのパンと蜜をそえてマシロの前に置く。

 開店前の準備の忙しさに何をやっているのだろうと思う人が多いと思うだろう。

 だが、マシロは蜜がタップリ染み込んだパンを頬張りつつも、数十に分け液状化したマシロを使い店内の掃除を隅々までしているのである。それも天井から棚の裏側も全てでありマシロが通った後にはチリ一つ残さないほどピカピカになっていた。

 飲食店というのは、食べ物だけではない。窓拭きでも、窓の溝一つでも掃除だけでとても大変なのである。それをマシロが掃除してくれているのは、それこそ忙しい準備をしている最中でも、出来立てのパンを出す余裕をつくってもお釣りがくるぐらい大いに助かっているのであった。


 ちなみに、それが終われば他の店である。城の朝食の時間までに、水都に展開してあるお店の掃除と朝おやつをマシロは堪能していた。


 おやつに飽きる? それはありえないと断言しておこう。そもそも店にきているマシロは毎日違う細胞のマシロであるからである。1店1マシロという暗黙のルールがあるらしく大量に現れることはないのであり、そのまま一日マシロ人形としてマスコットとして店の傍に座っている。



 先程までのマシロは本体ではなく意識群が求めた結果であり、朝、セッちゃんが庭園に来ることで、ユラユラと浸っていた意識を現実にもどすと、その間に溜め込んでいた美味さと感動が身体を包みこみ幸せを感じながら朝が始まる。

 その為、寝起きの機嫌はよく、セっちゃんが頬を擦り付けようがキスをしてこようが、あまり嫌がらないのである。


 セっちゃんに抱っこされ食堂に行き朝食。城の朝食はスープとサラダとハムが中心だが、マシロ用には巨大なマンガ肉も必ず用意されていた。


 食べ終わると庭園に戻るのだが、意識は水都全体に向けて面白そうな場所にいくのがマシロ流。


 午前中は『宿り木』に行く。マシロ直轄メイドであるレイもここに住んでいる。庭園は元々、蒼龍(マシロ)の為だけの神聖なる部屋であり、神子であるセッちゃん以外は入れないのである。侵入者も入ったりしてたのでマシロは構わないといったのだが、城としての形は保ちたいとの事であったが、セっちゃんがただ単に二人の空間が欲しかっただけかもしれない。

 

 宿り木にある水辺からマシロが現れると、使用人達は会釈をする。これもゴブリン達と同じで毎回毎回、平伏されていたがショボーン顔で無言の圧力をかけて会釈で済むようになった。


 外にでると、レイと5人が手合わせをしている。手合わせというよりかは、いたぶられている様にしか見えないのだが⋯。


 みんなの守護役であるイチゴが盾をどっしりと構えるが、そのまま蹴り飛ばされて数回転しながら地面に転がる。


「全体をもっとどっしりと構えなさい。盾役がその程度で吹き飛んでどうするのですか! 受身は及第点です。が! すぐに起き上がり戦局の再確認を!」


「は、はい!!」


 よろめきながらも立ち上がり、再びみんなの前に立とうと前に出るが、その前にツユハが回復と補助をイチゴにかけ直す。


 レイが攻撃をするのはイチゴのみであり、その間もミィやヨミとツイ、イツも攻撃をするが、往(い)なし、躱し、投げる。


 ミィは小手だが、ヨミやツイ、イツに限っては殺傷能力のあるきちんとした武器である。

 最初は大事な人に武器を向ける事に全員が躊躇ったが、すぐにレイから殺傷武器を持つ覚悟と、その程度の腕で私を傷つけれないという理由でもたせた。無論、かすり傷一つレイにつけること叶わないのである。


 イチゴが前に立った時点で仕切り直しであり、再び5人が事前に決めていた作戦をアイコンタクトで確認してレイに向かっていく。


 ヨミとツイが影から奇襲のフェイントをかけ、ミィが特攻をかけた瞬間に、イツがミィの顔をギリギリすり抜けるかの様に矢を放つ。


 完全なフェイントをまぜた奇襲だったとおもわれたが、レイは「悪くありません」とだけ言い、ミィの攻撃をいなし方向を調整すると、イツの放った矢の軌道をズラし、そのままヨミが持っていた短剣に当てて飛ばし、レイが身体を一回転すると、手でいなされた反動を使いながらそのまま足を使って攻撃をしてきたミィと、ツイを指先で身体を押さえるように絡めとり投げ飛ばす。


 本来であれば、その最中に攻撃が当たりそうな仲間にイチゴが間に入る作戦だったが、入るまえに戦闘が終わってしまい、イチゴが呆気にとられていたが、レイがその隙をつき、それに気づいたイチゴだが、時すでに遅く腹部に掌打を叩き込まれ再び飛っとび、後ろでオロオロしていたツユハを巻き込んで飛んでいく。


「さて、今日はここまでですね。連携としては及第点ですが、各々(おのおの)の能力値がまだ足りません。四肢を思い通りに誤差なく動かすようにしなさい」


『はい!! ありがとうございました』


 マシロは未来のグルメハンターになる5人の様子は毎日見に来ている。レイに鍛えさしている理由は道中死んで欲しくないだけである。道中、死んでしまったら吸収できない為、せめて水都に戻って息絶えれば吸収ぐらいできるという考えもあるのだが、それよりかは色んな食材を持って帰ってくれる方が嬉しいし、楽しみだからであった。


「マシロ様、お待たせして申し訳ございません。ただいま、お茶をお持ち致しますね」


 レイはパタパタと急いで宿り木の中に入っていく。いままでのレイだと消えるように動き、いつのまにか茶を用意していたが、マシロが『なんかメイドなのに可愛らしさがない』と言うことで、マシロといるときは可愛らしさをアピールするように言った為、可愛らしくパタパタと急いで小走りしていたのである。

 この姿に全員が横目にデレる。まっすぐ見ようとすると即座に殺気と共に意識が刈り取られるのだが、それでも冷静沈着なレイが可愛らしい顔ーー乙女の顔をしているのが珍しいため見る価値は十分にあった。

 因みに可愛らしくなったのは、マシロの記憶を再現し、あの着物姿のお爺さんを見た後からであるのだがそれに気づく人はいなかったのである。


 レイがお茶を持ってくる時間が正午の合図であり、昼食は水都の町から色々な料理を運ばれてくる。


 元奴隷館だったこの宿り木は、水都から少し離れた位置にある。そして、その宿り木にはお昼に必ずマシロ(本物)がいる。

 その結果、最初は料理店であるオーナーのルイスが前回みんなに配られた10枚の金貨を使い宿り木近くに店を作った。

 それを見た他の料理店店や雑貨屋も新たに作っていき、それを見た業者が新人教育の一環として街道の整備をした結果、少し離れていた道は色々な店が並ぶ素敵な街の一部に生まれ変わっていた。

 そのお陰で子供達も食べにいくと同時にお金の使い方を学び、時には店の手伝いや経験をしていく形に自然となっていく。


「ましゅろ! ましゅま!」

 宿り木に住む最年少(2歳)の少女ちぃちゃんが食事中のマシロの元にトテトテと歩いて行く。


「食事中に申し訳ありません。どうもこの子はマシロ様の事が大好きな様子で」


 2歳で孤児だったちぃちゃんは、宿り木に来た時にはかなり衰弱し病気も患っていた。それをマシロが助けた。水都の人間であろうと死んだらマシロが吸収するつもりだが、ほぼ骨と皮だけであった為、助けたわけだが、この子にとっては母親の温もりみたいなものを感じたせいかマシロを親と勘違いしている。


「ん〜♪ 大丈夫だよ。うんうん。いい感じにふっくらしてきたね〜。じゅるり」

 はたして、これが昼食を食べているよだれなのか、ちぃちゃんのプニプニとしたほっぺが美味しそうだからなのかは不明であるが、一言だけいえば周りの目からは、ちぃちゃんと同じくらいのほっぺをマシロも持ち合わしていることだけである。


「これもマシロ様のおかげですよ。まるで今までの成長の遅さを取り戻すかの様に日々成長していますから」


 その間もちぃちゃんは『ましゅろ! ましゅろ」と連呼している。


「ましゅろではなくマシロ様ですよ」


「ましゅ⋯⋯まし⋯ゅろ⋯⋯ましゅ⋯⋯ましぃ⋯⋯ましゅまろ!」


 ちぃちゃんがマシロの呼び方を間違った瞬間にマシロが頭を抑えると、頭にピコンと電球が光る。


「マシロさま。もしかしてご記憶が?」

 みんなが電球の光にびっくりする中、レイだけはマシロを理解していた。


「うむり。大切な事を思い出したなり。ウチはなんという物を思い出してしまったのじゃ⋯⋯」


「ま⋯⋯まさか、あの老人の詳細を? それともマシロ様自身の記憶が全てお戻りに?」


 レイがドキドキしながら返事を待っている事から、内容までは知ることはないらしい。


「ルイスくん!」


「おう!」


「今すぐ、粉ゼラチン、水、砂糖、卵、コーンスターチ、バニラエッセンスを!」


「わかった! 待っていろ!」


 ルイスが自分の店に材料を取りに行く。


「⋯⋯成る程。また新しい料理なのですね⋯⋯」


「料理? 違うね! 食べて美味しい、襲っておいしい最強のゴーレムを思い出したのさ!」


『??????』

 ゴーレムがおいしい? 


 持ってきた材料をマシロが指示をしていく。


 1:鍋に水90ml入れ粉ゼラチン投入しふやかす。

 2:浅いバットにコーンスターチ(片栗粉でも◯)1、5cm程度の深さで丸いもので凹みを作る。

 3:鍋に火をかけゼラチンを沸騰させずに溶かしていく。

 4:ゼラチンが溶けたら、60〜70gの砂糖を2回に分けて溶かしていく。

 5:ボウルに卵白を入れて少し白くなるまで混ぜた後30gの砂糖を入れてツノが出るまで泡立てた後、(4)の溶けたゼラチンを少しずつ入れながら泡立てる。

 6:液状のうちに(2)の凹みの中に入れて固まりだしたらコーンスターチを絡める。※フルーツペーストやエッセンスなどをいれて香りや風味、色付けもありだけど、マシロはノーマルが好きなので今回はなし。


「マシュマロの完成〜♪」


「おぉ〜!」

 

 ルイスが慌てて材料を取りに行った時に周りの店も次々に気になり、マシロの思い出した料理を見ようと集合していた。


「これがゴーレムなのですか?」


「ううん。ここからだよ〜」


 マシロが右手を強く握った後に広げると小さな赤い玉ーー叡智の塊をそのままマシュマロに合わせる様に手のひらを合わせる。


 ⋯⋯ぽこぽこぽこ。


 手のひらからマシュマロが際限なく増えていきテーブルからこぼれる程度でやっととまる。


 そしてマシロがマシュマロをいくつも取ると、それを捏ねながら合わしていくと白い人形になっていく。


「ウチは人形(これ)があるから、余ってるのは食べていいよ〜。最後の過程でフルーツペーストとか合わせると香りいいマシュマロができるからね〜ちなみに牛乳を沸騰させずにマシュマロを溶かし少し冷やせばトロリとした冷たい飲み物になり長く冷やせば氷菓子となるよ」


 マシロが人形を更に捏ねている中、マシュマロというものをそれぞれが口に含み、不思議な弾力に甘さに感動をし次々と口に放り込んでいく。


 その中でレイだけは、最初の一つ目を食べた後からマシロをずっと見ている。


(⋯⋯ゴーレム⋯⋯)

 先程、言っていた言葉がどうにも気になっていたからである。レイはマシロの為に動いたいと本気で思っている。思っているからこそ、マシロの言葉とその先の考えを理解し言われる前に行動する為に観察と試行錯誤をしていた。


 現在のマシロ様は鼻唄混じりにマシュマロを捏ねているが、どうにもコレとゴーレムに結びつけるには何かが足りないのだ。


 そう思っているとおもむろに先程より大きい叡智の塊を人形の中に入れた所で理解をした。


 人類が求める一つの究極至宝である賢者の石。これがあれば戦いであれば戦力の大幅アップや物質の創造・繁栄は約束される。そしてそれを模倣した人類の叡智の塊。これを遊びで使用するのに一切の躊躇いが無いのである。

 本来であれば塊は使えば消費されていく。無くなればいままで気付き上げていったものが瓦解するのも時間の問題になる為、ほとんどの人間は使用するのは余程のことがない限り躊躇うのが普通。

 

 徐々に人形が膨れあがるのを見上げながら、マシロ様の事を理解した。そして理解が終わった後には十数メートルにも高くなったマシュマロ人形が優雅に立っており、その肩でマシロが目を輝かせながら喜んでいたのを確認すると、レイも跳躍しマシロの側に行く。


「マシロさま、ゴーレムの作成おめでとうございます。今からどうなさいますか?」


「折角だし散歩にいくよ!」


 歩き出すと下にいる者達は、かなりの驚いていたが、最終的には今度乗せてくれと大声で叫んでいた。


 そして⋯⋯。


 その数分後。


 炎天下の中でマシュマロ人形が歩いていけるはずもなく、足元が溶けはじめたあとは腕も顔も徐々にドロドロに溶けていき、そのままドロドロになった巨大なマシュマロが水都の方に流れていく。

 そしてショックを受けているかと思っていたが、ベチョベチョのドロドロになったマシロがこの状況を楽しんでいた。


 その夜、甘い匂いに釣られた大量のマシロが余すことなくマシュマロを吸収し次の日には綺麗サッパリ綺麗にはなったのだが、数日間は甘い匂いが水都を覆っていたのである。


(⋯⋯⋯⋯)

 宿り木からそれを見ていたレイ。


(アレらからは、マシロ様の意識を感じられない。無自覚で動いているのはなぜだろうか⋯⋯)


 無自覚に食べるなら、水都の人間も標的になってもおかしくはない。だが、これらはマシュマロを優先し吸収している事から何か統一性か意識性があるといっても過言ではない。


(⋯⋯やはり、魂を収める器の問題でしょうか)


 レイ自身がこの水都の周辺を含めてマシロを確認するだけでも、すでに余裕で水都を飲み込める程増殖している。正直、これが敵意を持った時点で全てが詰みである。実際はそれがマシロの目的であれば特に言うこともないのだが、今のマシロは安定しているようで不安定なのである。


 魂を収める肉体が存在しない為の増殖なのだろうか、このまま増殖を繰り返していくとマシロ様の意識はどうなっていくのだろうか⋯⋯?


 レイ自身は、世界が滅亡しようがどうなろうが興味はなく、あれだけの力を持っているマシロがただ美味しい物をたべてのんびりしたいとは到底思れず本当の目的が知りたいのであり、その過程で増殖し意識が微妙に変化していくのを恐れていたのである。

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