僕らの掃討戦

真兎颯也

人造人間の記録

 ――あーあー。ちゃんと入ってる?

 ……うん、大丈夫そう。

 えーと、僕らの上官様から音声記録を残すように言われたのでこれを残してます。

 何でこんなもの残すんだろう?

 どうせ僕らの死体からも情報を取るはずなのにね。

 ああ、僕の所属する部隊は今、かつて「日本」と呼ばれていた島国に来てるよ。

 この国は四季があって、冬は繁殖しないんだけど夏は奴らがわんさか増える。

 冬も動きが無くなるだけで、死ぬわけじゃないのが厄介だ。

 昔は越冬できない個体もいたようだけど、今じゃ動物みたいに冬眠する個体が増えてしまったらしい。

 流石は人間様が作った“種”と言うべきなのかな。

 拡散する度に進化を続けて、今じゃ地表のほとんどが奴らで埋め尽くされている。

 場所によって特性も変わってくるから、その都度対策を練らなくてはいけない。

 まあ、その対策を考えるのは僕らじゃなくて上の人達で、僕らはその指示に従うだけなんだけど。

 ……あー、呼ばれたから行かなきゃ。

 今は冬だけど、もうすぐ春だからか動いてる個体も増えてきている。

 動いてない個体を掃討する方が楽なのに、何でこの時期にここを担当しなきゃならないんだろう。

 面倒くさいな。



 ――ピッ、ガガッ。

 あいうえおかきくけこー。

 ……入ってるね。やばい音したから壊れたかと思った。

 壊すと怒られるからね、良かった良かった。

 んーと、前回はどんな話をしたっけ?

 本当は毎日記録するように言われてるんだけど、忙しくて忘れちゃって久しぶりの記録なんだよねー。

 こんなこと記録に残すとまずいかもだけど、どうせこれも死んだ後に回収されるから関係ないでしょ。

 あ、思い出した。“種”の話をしてたね。

 てか、僕が話せることなんてそれぐらいしかないもんね。

 僕らは“種”を根絶させるために生み出された人造人間だから、それ以外の知識はあんまり与えられてないんだ。

 それに毎日“種”を駆逐するだけで変わり映えしない生活してるし。

 ……あー、もしかして、どこの“種”を倒したとかをここに記録した方がいいのかな?

 じゃあ、一応今日のを記録しておくね。

 今日はね、大きなビルの周りの奴らを駆除したよ。

 都市部だったのか人型が多かったね。

 人型は、人間に寄生した“種”がその肉体を操っているから、植物を生やした人間みたいな見た目をしているよ。

 ちなみに寄生されてる人はもう死んでて、“種”が彼らの脳を支配して身体を操っているらしい。

 だから、僕らは脳幹を破壊して、“種”が身体を操れないようにするんだ。

 そうすると“種”は段々と弱って死んでしまうんだってさ。

 まあ、本当かどうかは知らないけどね。

 僕はそれを実践に出される前の講習で習うだけだから。

 ……おっと、そろそろ消灯時間だ。

 今日の分はここまでにしときまーす。



 ――ピッ、ガガガガッ!

 ザリザリ……あーあー。

 やっべ、やっぱり壊れかけてるかも。

 ま、言わなきゃバレないよね。

 えっと、今日はこの前の記録に残したビルの内部に入ったよ。

 廊下とかエントランスとかにいた奴らは大体倒したから、僕らはペアに別れて部屋を一つ一つ見て回った。

 僕はね、隊長と一緒に回ったよ。

 僕はこの部隊に配属されて日が浅いのに、光栄だよね。

 隊長は僕らと違って人間だ。

 ガスマスクと完全防護服を着て、僕らに混ざって“種”と戦ってる。

 普通、人間はこんな場所に出てこないで安全な場所で僕達に指示を飛ばすだけなのに。

 隊長は変わってる。

 まあ、変わってるのは隊長だけじゃないんだけど。

 ここの部隊の人達、皆変わってる。

 僕ら人造人間には栄養価の高いパンのレーションが支給される。

 それが美味しくないだろうからって、ここの部隊の人は人間用の料理を用意してくれるんだよね。

 別に味覚がそんなに鋭くないから、何を食べたって味の違いなんてよくわかんないよ。

 あ、でも、同じ人造人間の先輩方は美味しいって言ってたっけ。

 食べ続けると美味しさの違いがわかるのかな?

 わかったところで何の役にも立たないと思うんだけど。

 あと、人間も先輩もよく「死ぬなよ」って言ってくる。

 「命は大切にしろよ」って。

 意味がわかんないよね。

 僕ら人造人間は人間によって作られた、対“種”用の兵器だ。

 死んだところで変わりはいる。

 死体は回収されて、次の人造人間作りに役立てられる。

 死んでも役に立つんだから、生きてようが死んでようがどっちでもいいよね。

 みたいなことを言ったら、隊長に渋い顔されちゃってさ。

 「お前は一人しかいない」なんて言われて、僕笑っちゃったよ。

 僕は最新型で、今現在一万体以上生産されてて、これからもっと増えるんだよ?

 それなのに一人しかいないなんて、おかしいよね。

 まあ、これも言ったら怒られちゃったんだけどさ。

 やっぱり、人間の考えてることなんてよくわかんないや。

 教官いわく、考えるだけ無駄なんだろうね。

 僕は人造人間で、人間みたいに感情を生み出す脳のシステムは無いんだから。

 ……そろそろ寝なきゃ。

 明日はもっと奥まで行くみたいだから、今日はゆっくり休むよ。



 ――ガガガッ! ガガガガッ!

 ガガッ、ピーピー。

 ザアアアア……。

 ……はぁ、はぁ。ついた?

 ついてる……ことにしよう。

 皆逃げれたかな……首だけじゃ動けないからわかんないね。

 回収されてたらわかるけど、僕達は複合型と戦闘になりました。

 複数の人型と獣型を取り込んでて、僕達の戦力じゃ太刀打ちできませんでした。

 よって、緊急事態と判断し、自爆装置を作動させました。

 自爆は成功、敵は沈黙しました。

 でも、何でか頭だけ残って、どういう訳か近くに転がっていたボイスレコーダーにこれを残しています。

 手は動かないから、電波で無理やり起動させました。

 声が入ってるかよくわかんないけど、起動音がしたから大丈夫でしょ……。

 これを残すのは、上官様が聞くだろうからです。

 僕、知ってました。

 これ、上官様の独断ですよね?

 もっと上の人達から命令されたわけじゃないですよね?

 誰もいない時にこっそり死んでいった人造人間達の音声記録を聞いてましたよね?

 理由はわかんないけど、上官様が聞きたいなら残します。

 僕、上官様のこと嫌いじゃないですから。

 ……なんて、感情が無いくせに何言ってんだって感じですね。

 でも、不思議とそう思っちゃってるんです。

 どうしてですかね?

 この部隊に配属されたせいですかね?

 まあ、どうでもいいですね。

 最後に残したい言葉は特に無いです。皆が無事ならそれで。

 ああ、でも、隊長に伝えておいてください。

 命を大事にって僕に言うなら、まずは自分も命を大事にしてくださいって。

 僕らを庇って前に出るような真似はしないでくださいって。

 僕らの代わりはいくらでもいるけど、隊長は一人なんですから。

 ……そろそろ起動停止しそうです。

 ええっと、こういう「最期の時」って何を言うべきなんですかね?

 ありがとう、とか?

 何に対してですかね?

 身を伴っていない感謝は不要だと上官様に言われたので、ちょっと違いますね。

 上官様の好きそうな言葉……ああ。

 僕が今思ってることを言えばいいんですね。

 思うこと……人造人間のくせに、何を思うんだって話ですね。

 ……でも、今一つ思いつきました。

 僕、人間の食事も人造人間用のレーションも同じ味にしか思えなかったんですけど。

 最近、ちょっと違うかもって思えてきたんですよね。

 レーションの方が薄いかな、みたいな。

 これが良いことなのかわかんないですけと、でももう少しで「美味しい」っていうのがわかりそうだったんです。

 それがわからなかったのだけが、心残りですね。

 ……心残りなんて、心無いくせによく言うよって言われそうですね。

 だけど、本当にそう思うんです。

 信じてくださいますか?

 上官様なら信じてくださいますよね。

 あなたは人にも人造人間にも優しいですもんね。

 僕らに優しくしたところで返せるものなんて無いのに。

 ……やっぱり、人間は、わかりません。

 人間のこと、もう少し、知りたかった。

 そしたら、もっと……皆と、一緒に……。

 …………。

 ……やだ、死にたくな(プツンッ)。



 ――音声データはそこで途切れている。

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