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 それから二日後に、Aの祖父母の家から、ガルガンチュアとヨーゼフが引き上げて行った。

 彼らがAの祖父母の家に寄留していたのは、合計で10日間であった。先に引き上げたユキトは、彼らより2日だけ短かった。長期休暇のことをフランス語で『バカンス』と言うらしいが、10日という日数は、長期休暇と言うには、いささか足りないかもしれない。

 だが、Aのしもべたちにとっては、これ以上ないくらい、素敵なバカンスであった。ネオの失踪の件が片付いて後は、彼らも辺境の地で、羽を伸ばせたからである。留守番をしていたマーカスは気の毒に思えるが、彼女は彼女で、うるさい男どもがいなくて、くつろげたようである。

 万事良しとしよう。これからかれらは、新たな戦いに身を投じることになるのであるから――。 


 Aのしもべたちが引き上げてから三日後、Aもまた、Aの祖父母の家から、Aの地元である街へと引き上げることになった。

 Aにとっては、文句なしの長期休暇であり、Aが祖父母の家に寄留していたのは、合計で一カ月であった。

 Aの祖父と妹が、駅まで見送りに来てくれた。

 別れ際、Aは祖父に言った。

「祖父よ。がめつい娘の世話は、たいへんでしょうが、妹のことをよろしくお願いします」

 すると、妹が兄に抗議して言った。

「もうっ! お兄さまったら。別れ際に、なんてことをおっしゃるの? わたくし泣きそうです。がめつい娘なんて言い方は、ひどすぎます。わたくしのことを、キュートと言ってくれる方もいらっしゃるのよ?」

 Aは、ふくらんだ妹のほっぺを見て、いろいろあったが、良いバカンスだったと思った。

 Aは、列車に乗り込むと、大声で呼びかけた。

「それでは、祖父よ、妹よ! さよならです! また会いましょう!」

「ああ、気をつけてな」

「こんど来るときは、おみやげを持っていらしてね!」

 こうして、Aは、辺境でのバカンスを終えた。


  (『アザゼルの休日』・完)

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アザゼルの休日 ~辺境でのバカンス~ 芳野まもる @yoshino_mamoru

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