第54話(完)
この死体は、高松玲奈なのだろうか。
Reinaと書かれた部屋にいるのだから、きっとそうなのだろう。
顔も知らない人だが、
汚い死に方だと思った。
顔は紫色になり、
首は伸び切っている。
さっき私が踏んだのは、
きっと死んでから漏れ出た体液だ。
これならあの男たちに殺された方が幾分かマシだったのに。
ここまで苦しむことはきっとなかった。
なぜ高松玲奈は、
こんな死に方を選んだのだろう。
レンアイ放送で生き残って、これからもずっと生き続けることが出来るはずだった。
彼女には未来があったはずなのに。
なぜ、こんなことを。
私はじっと高松玲奈の死体を見つめた。
不思議と恐怖はなかった。
ただ、元の顔さえ分からないほど醜くなってしまった高松玲奈を見て、こんな死に方だけはしたくないと。
もっと綺麗に死にたいと、
そう思っていた。
私の思う「綺麗な死に方」は、
一体どんな死に方なのだ。
死ぬという行為に綺麗も何もないのに、
私は何を欲しているのだろうか。
窓を振り返ると、窓際に置かれた机の上でノートがパラパラと揺れていた。
私は吸い寄せられるようにして、
そのノートを手に取った。
そこには走り書きをしたような丸い字で、つらつらと文章が綴られていた。
『もう耐えられないから死にます
ママパパごめんね
私ずっとストーカーされてたの
1年生の時からずっとされてた
今こうしてこれを書いてる間も
その人がずっと家の前にいるの
ずっとチャイム鳴らしてるの
こわい、にげだしたい
鳴りやまない、たすけて
昨日学校で恋愛放送っていう
よくわからない殺人ゲームが
はじまったとき、安藤くんが
俺といれば死なないって言って
私を外に連れ出してくれたんだけど
その恩を忘れるなってずっと
私をおどしてきて家にまで来て
こんなことなら恋愛放送で死にたかった
安藤くんに助けてもらってまで
生きてたくない
あんな人に助けられるなら
死んだほうがましだった
なんか、音がする
チャイムが鳴りやんだ代わりに
嫌な音がする
やだやだやだやだ
はいってくるかもしれない
もう無理たすけて
あんどうくんに殺されるくらいなら
じぶんで死んでやる
ママパパごめんね
こんなわたしをゆるして』
「そういうこと、か。」
遺書のようなそれを読み終わり、ノートを閉じながら一人で静かに呟いた。
安藤太一は高松玲奈のストーカーで、レンアイ放送の協力者という身分を濫用して高松玲奈を救ったふりをしていたのだ。
好きな人がいない人は、
死ななくていいのに。
そのことについての放送はされなかった。
だから私もゆりちゃんが一人だけ生き延びたことに疑問を持ったのだ。
好きな人がいないなら、レンアイ放送から逃れられると誰も知らなかった。
助けてもらったなんて真っ赤な嘘。
安藤太一は高松玲奈に恩を売り、一生自分に服従させようと思っていたに違いない。
ぞぞっと鳥肌が立った。
高松玲奈は安藤太一に殺されたも同然。
そして、榊原も安藤太一に殺された。
安藤太一は爆発でもう死んだけれど、そんな生ぬるい死に方で許せるはずがない。
もっと苦しい死に方をさせるべきだった。
一番汚いのは、安藤太一だったのに。
そう思ってページをめくる。
すると。
『レンアイ放送は、終わらない悪夢だ。』
そう、一言だけ書かれていた。
明らかに高松玲奈のものではない、
他の人の字で。
「終わらない悪夢……」
その言葉を何度も反芻する。
そうだ。
失恋者は問答無用で殺され、助かったはずの両想いカップルも殺された。
主犯である美咲も協力者である安藤太一も、みんな爆発に飲まれて死んでしまった。
その全ての元凶は、私だ。
全学年の約500人。
全教員の約50人。
数は不明だが、雇われた殺し屋たち。
その全てを殺したのは、私だ。
私が何もかもの元凶であり、私は今後一生その罪を背負って生きていかなければならない。
私が奪った人生の数を、
毎日一から数えながら生きていくのだ。
指を折って、毎日毎日。
一生忘れることが出来ない、
今まで私が見た光景。
私さえいなければ死ななかった人たちの、最期の苦しんだ表情。
美咲が叫んだ、
『絶対許さない。』という言葉。
それが嫌でも頭に浮かんで、
ずっと苦しむ続ける日々……
そんなの、耐えられるはずがない。
みんな死んだんだ。
今から死人が一人増えたって一緒じゃないか。
私が死んだって、何も変わらない。
「ハ……ハハハ……」
何故か奇妙な笑いが漏れた。
沢山のトラウマを植え付けられて、
この先の人生を殺された。
レンアイ放送は終わらない悪夢。
生きている限り永遠に続く悪夢。
それなら、ここで。
終わらせてしまおう。
美咲。
次の人生では、幸せになれたらいいね。
また会えたら、
もう絶対に美咲から目を逸らさないから。
でもごめんね。
私はまだ、自分勝手なままみたいだ。
レンアイ放送 逢坂莉桜 @rio_ohsaka
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